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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
幕間「弟、はじまります」

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第52話 弟分が中二病の美少年なので、放課後は以下略①


 さて、まずはここがどこかというと、俺の出身中学の通学路だ。

 もう放課後なので、正門からは生徒たちがわんさか出てきている。


 近くのガードレールに腰掛けて少しの間待っていると、やがて生徒たちのなかでもひと際異彩を放つほど可愛らしい男子が姿を見せた。手を振って、俺の方へ駆けてくる。


奏太(そうた)兄ちゃーんっ」


 もちろん伊織(いおり)だ。

 今日は可愛い弟分と待ち合わせをしていた。


「ごめんね、途中で先生にお手伝い頼まれちゃって。待たせちゃった?」

「いや俺もちょうど今、来たとこだ。大丈夫、大して待ってないから」

「ほんと? 良かったぁ」


 伊織はまるで花が咲いたように朗らかに笑った。

 キラキラと星でも見えそうな勢いだった。なんならそばを通っていた生徒たちも思わず足を止めて見惚れている。


 普段は如月家で会うのが多いからあまり意識しないが、外で会うと、まわりの反応もあって再確認できる。超絶美少女な唯花(ゆいか)の弟だけあって、伊織もとんでもない美少年だ。


「んじゃ、行くか。今日はまるっと俺のおごりだからな。思いっきりたかっていいぞ?」

「えー、なんか悪いなぁ。でも奏太兄ちゃんと2人で遊ぶのなんて久しぶりだね。お姉ちゃんの方はいいの?」

「ああ。今日は遅めにいくって昨日のうちに言っといたからな」


 唯花は今ごろ、小説を書いてるはずだ。なにやら『一日で一本書き上げちゃうから!』とか豪語してたから俺がいても邪魔になるだけだろう。……今までずっとサボってたのにいきなり書けるかは疑問だが。まあ、頑張るのはいいことだ。


 というわけで、今日は伊織と遊ぶ約束をしていた。

 もちろん他意はない。ただ久々に弟分と羽を伸ばしたいだけだ。……いやスマン、嘘だ。本当はメチャクチャ他意がある。


「それじゃあ、レッツゴー! お姉ちゃんには悪いけど、今日は僕が奏太兄ちゃんを独り占めしちゃうねっ」


 じゃれるように腕を組んできて歩き出す。

 そんな伊織の袖口がチラリと目に入り、俺はひそかに戦慄した。なんてこった、予想通りだ。

 脳内では、ドドドドドドドドド……ッと不吉な効果音が鳴り響いている。


 制服のブレザーとワイシャツ。その下に……伊織は包帯を巻いていた。もう両手とも容赦なくグルッグル巻きだ。もちろん怪我なんてしていない。むしろ病気だ。つまりは……例のアレである。


「はっはっはっ、あんまり引っ張るなよ、伊織。転んだら大変だぞー?」


 話を切り出すにはまだ早い。

 俺は平静を装って一緒に歩き出した。


 2人とも育ち盛りの男子なので、まずはファーストフード店で何か食べようということになった。

 ハンバーガーとポテトを摘まみつつ、最近の漫画の感想なんかを言い合う。


「やっぱ今熱いのは呪術海戦だなぁ。キャラ立ちが半端じゃねえよ、うん」

「六条先生カッコいいもんねえ。あの最強っぷりは貫いてほしいよ、絶対っ」


 ちなみに俺、唯花、伊織のなかで、最初にオタク趣味にどっぷり漬かったのは唯花である。俺と伊織がゲームやアニメを楽しみ始めたのは、唯花の影響がでかい。


 一方、少年漫画については俺が伊織に教えたものが多く、趣味もバッチリ合う。今日も週刊漫画の話をしているだけで、気づけば小一時間ほど経っていた。


 そろそろ出るか、と店を後にし、お次は男子の聖地ゲーセン。

 フロアに足を踏み入れると、すぐに伊織が袖を引っ張ってきた。


「あ、奏太兄ちゃんっ。艦隊ゲームのフィギュアあるよ。あれ取ってほしいなっ」

「んー、どれどれ……? お、これならいけそうだな。ちょっと待ってろ」


 箱物を取るキャッチャー系のゲームだった。ちょっとコツはいるものの、わりと取りやすい位置にある。挑戦してみると、運よく3回ほどでゲットできた。


 伊織が「やったぁ、すごーい!」と可愛く飛び跳ねる。コアラのように腕に抱き着いてきて大変可愛らしい。うむ、良きかな。


「けど、お前、このゲームやってたっけ? アニメ観てたのは知ってるけど」

「えっとね……これはお姉ちゃんへのお土産。今日は奏太兄ちゃんのこと貸してもらっちゃったから、夜、お部屋の前に置いておこうと思うんだ」

「伊織、お前ってやつは……っ」

「お姉ちゃん、喜んでくれるかなぁ?」

「当ったり前だろ、バッキャロウ! 泣いて喜ぶに決まってるさ……っ。むしろ俺が今泣くわ!」


 フィギュアの箱を抱えて少し不安げに言うので、思わず力いっぱい抱き締めてしまった。そばにいた店員や客までほろりとし、優しい少年に皆が拍手を送ってくれた。


 最後は駅前の本屋に寄った。

 フィギュアはお土産とのことなので、漫画の新刊をもう買える限り買ってやった。おかげで唯花への課金カードの分が無くなったが、そんなの関係ねえ!


「こ、こんなにたくさん? 本当に買ってもらっちゃっていいの……?」

「いいんだよ。ちょうど今日、バイト代が出たとこなんだ。だから買ってけ買ってけ」


 そして、あとは一緒に如月家に帰るだけ。

 駅前から家までの道には河川がある。その堤防沿いを通ると近いし、景色もいい。

 水面が夕焼けを反射するのを見ながら、2人で並んで歩いた。

 けれど、その途中、ふいに伊織が足を止めた。


「ねえ、奏太兄ちゃん。ちょっと休んでいかない?」

 

 断る理由はない。

 堤防の階段を下りて、河川のそばへといってみた。植栽された芝生に立ち、並んで水のせせらぎを見つめる。先に口を開いたのは伊織だった。


「あのさ……」

「うん?」

「僕に何か話があるんだよね……?」

「……気づいてたのか」


 フィギュアと漫画の袋を下ろし、伊織は苦笑する。


「気づくよ。だって子供の頃からずっと一緒にいるんだもん」

「……だよな。そりゃそうか。俺と唯花が幼馴染なら、お前だってそうだもんな」


 自分が少し緊張していることを、俺は自覚していた。

 夕焼けの眩しさを目に焼き付けて、弟分へ向き直る。


「伊織、お前に伝えたいことがあるんだ」


 少年の瞳はまだ水面と夕焼けを見つめていた。

 しかしやがてゆっくりと瞼を閉じ、こちらを向く。


「……はい。ちゃんと聞きます。どんな話かは分からないけど、奏太兄ちゃんが伝えてくれることだったら、僕はちゃんと受け止めます」


 再び瞼を開いた時、そこにはなんの迷いもなかった。

 ……こういう時、敬語になるのは姉弟一緒なんだな。

 少しだけ微笑ましい気持ちになり、苦笑が浮かぶ。だがすぐに咳払いし、俺は表情を改めた。


 真面目な話だ。笑いごとじゃない。

 呼吸を整え、ゆっくりと口を開く。


「驚かないで聞いてくれ、伊織……」


 俺の両目は袖口から覗く包帯を見つめている。

 さあ、伝えるんだ。


 お前は今、中二病を発症している。お前には異能の召喚能力なんてないんだ、と。


 夕焼けに二人の影が伸びるなか、俺は意を決して声を張り上げた。すると――!


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