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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
2章「一歩進んで、さらに甘々days」

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第43話 三つ編みと耳かきのラブトレイン


 前回までのあらすじ。

 耳かきがきっかけで幼馴染と弟が一年半ぶりに対面しました。

 何を言っているかわからねえだろうが、俺にもさっぱり分からねえ。


「よーし、落ち着こう。まずは素数を数えるんだ……」


 二人ともぎこちなく自室に戻ったまま、うんともすんとも聞こえてこない。

 もしこれがゲームならば、俺には選択肢が出ていることだろう。



 1.唯花(ゆいか)の部屋にいく

 2.伊織(いおり)の部屋にいく



「うん、普通に1だな」


 ケンカしてたとかはもう関係ない。

 伊織と顔を合わせてしまって、唯花はいま間違いなく動揺している。俺がいかなきゃ誰がいくって話だ。


 とりあえず床に落ちてた菓子折りと小銭を拾い、唯花の部屋の前に立つ。

 伊織にも声を掛けてやりたいところだが、こういう時は女子を優先するものだ、と男同士の暗黙の了解で分かっている。変に気遣ったりすれば、むしろ伊織に何やってるのさと怒られてしまうだろう。


 だから伊織の部屋は気兼ねなくスルーし、唯花の部屋の扉をノックした。

 返事は無し。入っていい、という意味だ。


「唯花、入るぞー。……と、こりゃまた立派な饅頭だな」


 ベッドの上で布団がこんもりと膨らんでいた。

 引きこもりが部屋の中でさらに引きこもる、毎度お馴染み、布団饅頭だ。


 唯花と伊織、二人に伝わるように、やや大きめの音で扉を閉じた。

 菓子折りはテーブルに置いておいて、ベッドの方へいく。

 饅頭の横に腰を下ろして話しかけた。


「伊織、ちょっと背伸びてたろ? 成長期だからな」

「…………」

「まあ、まだまだ小柄だけどさ。顔はますますお前に似てきたんじゃないか?」

「…………」

「きっと美人になると思う。姉ちゃんにそっくりの美人にな」

「…………」


 もぞ、と饅頭が少し動いた。ちょっと嬉しいようだ。

 こういうとこはやっぱお姉ちゃんだな。


 ふと見ると、饅頭からしっぽが生えていた。

 すわ、キツネが化けているのかっ……とボケようと思ったがやっぱりやめとく。普通に三つ編みだ。


「ふむ……」


 実はちょっといじってみかったのだ。

 三つ編みを手に取り、それこそしっぽのようにフリフリしてみる。


「おお……」


 なんか、いい。美少女の唯花の髪だからキューティクル完璧で手触りもいいし、振ってる時の感覚も心地いい。

 次は髪の編み目に指を這わせてみる。


「おおう……」


 ほどけそうで、ほどけない。

 絶妙なバランスがすごくいいぞ。


「……何してるの、ひとの髪で」

「すわ、気づいていたのか!?」

「すわじゃない。気づくでしょ、普通」


 いつの間にか唯花が顔を出していた。ものすっごい呆れた感じのジト目である。

 三つ編みをいじれるような位置だから意外に顔も近い。俺の太ももに頬が触れるような距離だ。

 しっぽを触られて顔を出す。野生動物のごとしだな。


 さて、無事に出てきてくれたので、じゃあまずはなんの話をしようか。

 三つ編みを横に置き、考える。

 とりあえず伊織の件は……あとまわしでいいか。やっぱりまずは、


「結局、唯花はなんで怒ってたんだ?」

「教えてあげない」


 ぷいっと顔を背けてしまった。

 俺は手を伸ばし、唯花の頭を撫でる。別に嫌がりはしない。撫でられながら拗ねている。


「なんでもかんでも教えてもらえると思ったら大間違いなんだからね?」

「けど、言ってくれないと分からないこともあると思うぞ?」

「い、言ったら奏太に知られちゃうじゃないっ」

「……えーと、ちょっと待て。それって俺が知っちゃいけないことなのか? お前、わりと無茶言ってない?」

「い、言われてみたらそんな気もしてきたけど……っ」


 んー、つまりこういうことか。

 俺は唯花が怒ってる理由を知らないことには謝ることもできないが、唯花としては俺に知られない方がよくて、俺は何もわからないまま、どうにかして唯花の機嫌を直さなければならない、と。


「ヘイ、ガール。ユーは今、やっぱりとても無茶なこと言ってるぜ?」

「わ、分かってるけどー! 自分でもさすがにワガママかもって思い始めてきたけどっ、でもなんだかんだで悪いのは奏太なんだから、奏太がなんやかんや上手いことやってどうにかしてっ!」


「はい、出たー。いつもの『奏太が悪い』の結論と『奏太がどうにかして』の無茶ぶりー」

「大丈夫っ! 奏太ならなんとか出来るっ。あたし、信じてるっ」

「いつもながらに信頼が重い……」


 が、やりようはある。伊達に長いこと幼馴染やってないからな。

 問題がこんがらがった時はスタートに戻るのが一番だ。


 俺はシャツの胸ポケットに入れていたものを取り出す。

 もちろん、耳かきである。


「じゃあ、とりあえず続きでもするか?」

「へっ!?」


 ボッと燃えるように唯花の顔が赤くなった。

 何やらひどく動揺して目を泳がせる。


「つ、続き、続きね……っ。なるほど、それは名案な気がするけど、で、でも……どうなんだろうね!?」

「いや聞いてるのは俺なんだが……。質問を質問で返してはいけないぞ。耳そうじどころか、静かに暮らしたいビジネスマンに爪切りで爪を切らされちゃうからな」

「別に爪はあたしも大丈夫だと思うけど……や、それよりも! 耳そうじで思い出した!」


 がばっと饅頭状態から起き上がってきた。


「伊織に耳そうじの件! 奏太は絶対、あたし以外の人に耳そうじしちゃダメだからね!?」

「え、なんで?」

「なんでも! ぜったい、ぜったい、ぜーったいダメ! お約束っ!」

「わ、分かった……お約束」


 小学校ぶりぐらいに指切りをさせられた。

 唯花はぐいっと顔を近づけて、さらなるジト目で睨んでくる。


「とくに伊織には絶対しちゃダメ。あたしと血が繋がってるから弱点も同じ可能性が高い」

「弱点って……お前らは石仮面を巡る血族か何かなのか?」

「短命が弱点って宿命はジョセフが打ち破ったでしょーが」

「でも宇宙が一巡したから、結局は他の奴らも一族の宿命を――」

「黄金の精神の話はいいから!」


 なんか怒られた。

 唯花のジト目が加速する。宇宙が一巡しそうな勢いで加速する。


「とにかく奏太は他の人に耳かきするのは絶対禁止。いい? 例外はない。慈悲もない」

「分かった、分かった。オレ、耳かきシナイ、ゼッタイシナイ。でも……」


 耳かきの綿毛で唯花の鼻をさわさわとくすぐる。


「唯花にはしていいんだろ?」

「あう。そ、それは……」

「『奏太の耳かきはあたしだけのものなんだから』、だそうですから?」

「あうぅぅぅ……」


 真っ赤になって俯く唯花。


 あー、なんか分かってきた。

 つまり唯花はなんかやたらと俺の耳かきが気に入ったんだろう。

 で、ちゃんと最後まで耳かきしてほしいのに、俺が途中で伊織の菓子折りを取りにいったからプンスカしてしまった。たぶんこの辺りが正解に近いと思う。


 そんなことを考えていたら、唯花がものすごく不安そうに聞いてきた。


「……独り占めしたがる女の子はお嫌いですか?」


 耳かきぐらいで大げさな……と思ったが、顔を見ると泣きだしそうなくらい本気で不安そうだった。

 よく分からんが、唯花にとってはとても重要なことなのだろう。

 安心させるために優しく髪を撫でて答える。


「お前に独り占めされるんだったら、むしろ嬉しいよ」

「……ほんと?」

「本当、本当」


 たとえば耳かきのことじゃなくても、好きな女に『独り占めしたい』と言われるなんて男冥利に尽きるってもんだ。


 唯花は「よかったぁ……」と心底ほっとしたように、ふにゃふにゃと体の力を抜いた。そのままぽてっと俺の太ももに頭を乗せてくる。

 どうやらご機嫌は直ったようだ。耳元の髪に触れながら尋ねる。


「んで、するのか? 続き」

「……うん、してほしい。今、すごく奏太に耳かきされたい」


 唯花はゆっくりと三つ編みを抱き、残りの髪を耳にかき上げた。

 もぞもぞ動いて体の位置も調節し、準備万端である。


「じゃあ恒例のフック押しからいくぞ」

「その前にいっこお願い」

「お願い?」

「あのね……」


 手のひらがそばにきて、俺の頬に触れた。


「もう何されてもイヤって言わないから……」


 唯花は耳まで赤くし、恥ずかしそうに囁く。

 心の鎧をぜんぶ捨て去ったように、甘えきった口調でとろんと。



「…………いっぱい、気持ちよくして下さい」



 幼い子供のような喋り方と艶めいた表情のギャップにクラっときた。

 ……なんぞこれ!? 一体、いつの間にこんなに色っぽくなったんだ、俺の幼馴染は! 昨日まではこんな色香なんてなかったぞ、この短時間に一体何があったっていうんだ……っ!?


 しかしこう言われては俺も後には引けぬ。

 任せなさい、と頷き、俺は颯爽と耳かきを構えるのだった――。


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