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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
2章「一歩進んで、さらに甘々days」

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第41話 幼妻と耳かきと俺と枕


 俺は唯花(ゆいか)を膝に乗せ、耳そうじをしてやっている。

 耳の外側の溝を丁寧に丁寧にかく度、カーディガンに包まれた肩がぴくんぴくんっと震えて大変楽しい。


「どうだ? 気持ちいいだろ?」

「し、知らない……っ。そんなこと聞かないで。奏太(そうた)のばかっ」


 ツンデレっぽい返しをしてくる幼馴染さん。

 ふふ、分かる、分かるぞ、唯花よ。

 ひとに耳かきされると、気持ちよさでどんどん気が緩むから、ちょっと照れくさいんだよな?

 しかし俺もさっきお前に同じことをしてもらった。ゆえに一切手加減はせぬ!


「さあ、耳の入り口をかいていくぞ? 覚悟はいいな?」

「い、入り口!? ま、待って! まだ心の準備が……きゃんっ」

「それ、それ、それ!」

「はう……っ! ばか、ばかばかっ、奏太ってば調子乗りすぎ……っ!」

「ふっ、わざとエロい声を出して誤魔化そうとしても無駄だぞ? 耳かきの化身たる俺はそんな演技には騙されぬ!」

「え、演技じゃなくて……っ。これは本当に……! もうっ、ん、んん~……っ!」


 唯花は自分の指を噛んで、声を押し殺し始めた。

 見れば、頬から耳にかけて紅葉のように赤くなっている。

 うっすら汗もかいていて、しなだれた髪が非常に色っぽい。


 その様子を見ていて、さすがの俺も気づいてしまった。

 なんてこった、俺の幼馴染は……。


「……めちゃめちゃ演技上手いな! 引きこもりじゃなかったら女優とか目指せるんじゃないか?」

「演技じゃないからぁ! これ本当のやつだからぁ! 気づいてよぉ……つ!」


「またまたぁ。じゃあなにか? 実は唯花は耳で感じてしまうタイプで、俺に耳かきされたことでそれが発覚し、すぐに膝からどけばいいのに強引な俺を拒みきれずにさっきからずっと感じちゃってて、その上、結局受け入れてるってことは、根っこのところでウェルカムな自分もいるわけで、目下、動揺しながら悶絶中、とそういうわけか?」

「……っ」


「そういうわけか?」

「……………………チガイマス。あたしはそんな恥ずかしい子じゃアリマセン」

「だろー?」


 やっぱり気が緩むのが照れくさいだけなんじゃないか。

 まったく、素直じゃないんだからな。ま、そこが可愛いところでもあるんだけどな。


「じゃ、続けるぞー?」

「うぅ……この人、無意識ドSだ。奏太ってば、こういう時に無意識ドSになるタイプだったんだ。ダメだぁ、根っこのところで奏太にどっぷり心酔してるあたしは逆らえないぃぃ……」


 耳かきで入り口を触って、さわさわと撫でる。

 ぴくっ、ぴくっ、といじらしく反応する唯花。

 一応、心の準備のために伝えとこう。


「そろそろ奥にいくぞ?」

「あうぅぅ、そうだよね、そうなるよね……もう色々諦めました。なので一つお願いが」

「なんぞ?」

「怖いから入れる時は……手を握ってて」


 オオカミに食べられる寸前の赤ずきんのような雰囲気である。


「でも俺が頭固定してないと危ないぞ? お前、なぜかよく動くし」

「動かないように頑張るからお願いしますぅ」

「ううむ……」


 渋っていると、潤んだ上目遣いで見つめられた。

 飛びきりの幼妻モードで懇願。


「お願い、入れる時は手握ってて……ね、奏太さん?」

「是非もない」


 さん付けでお願いされたら断れぬ。

 右手に耳かきを持っているので、左手を唯花の前に差し出す。

 ちょっとびっくりするくらいの必死さで握り締められた。


「奏太の手……安心する」

「そりゃ良かった。準備はいいか?」

「……いいよ。もう平気。奏太の好きなようにしていいからね」


 唯花は強めに両目をつむる。

 体は強張っているが、その反面、期待を抱くように瞳は熱く潤んでいる。

 

 分かる、分かるぞ、唯花よ。

 耳かきは天国にいっちゃうような気持ちよさだもんな。不安と期待が入り混じるのは当然だよな。

 俺はできるだけ、そっと耳かきを近づけていく。


「いくぞ、力抜け……」

「はい……」


 小さな返事と共に、手を握ってくる力がきゅっと強くなった。

 俺の耳かきは唯花のなかへ、ゆっくりと入り込んでいく――かに見えた。

 しかし、その直前。

 扉の向こうから声が響いた。



「『奏太兄ちゃーん、DVD買ってきたよ。ありがとー! 菓子折りも買ってきたから、おつりと一緒にドアの前に置いとくねっ』」



 俺は手を止め、顔を上げる。


「お、伊織が帰ってきたな。菓子折りを床に置いとくのもなんだし、唯花、ちょっとタイムな」

「え」


 ひょいと唯花の頭をどけ、ベッドから立ち上がる。

 そして伊織が自室に戻った音を確認し、扉を開けた。

 床を見ると、饅頭の詰め合わせの箱と一緒に小銭も置いてある。

 おつりぐらい持っていっていいのに律儀だな、伊織は。


 ……と思っていると、なぜかベッドの方から情念の湧き上がるような声が聞こえてきた。


「……す、寸止めとか。あたし、今結構な覚悟で受け入れようとしてたのに寸止めとか……! そりゃただの耳かきの話だけども! ただの耳かきの話だけども! 大事なことだから二回言いました!」

「ん、どうした、唯花? 待たせてごめんな。んじゃあ続きを――」

「しないよ! 奏太のばかぁーっ!」

「ほげえ!?」


 唯花が枕を投げてきて、俺の顔面に直撃。

 そう、枕だ。アーサー王じゃなくて枕だ。なんか知らんが、本気でお怒りです感がすごい。


 俺は鮮やかに転倒。運悪く、廊下の外に倒れ込み、お怒りの唯花にそのままバタンッと扉を閉められてしまった。

 え、締め出された? なんでっ!? 俺、何かした!?


「お、おい唯花? 唯花ーっ!?」


 扉をどんどんと叩いていると、伊織の部屋の扉が開いた。

 可愛い弟分が隙間からひょっこりと顔を出す。


「……ケンカしちゃったの?」

「してないと思うが……しちゃったらしい」

「……とりあえず、一緒にDVD観る?」

「……観る」


 ふと見たら、まだ耳かきを持っていた。

 なんか切なかった。


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