第40話 幼妻と耳かきと俺と
唯花からの耳そうじが終わり、俺は起き上がった。
耳どころか頭がすっきりして体全部が軽い。ちょっと悔しいが、非常にリフレッシュしている。唯花は本当に耳かきの才能があるかもしれない。
「ご感想は?」
「大変結構なお手前でした」
「お粗末さまでございます」
俺は深々とお辞儀をし、唯花も同じようにお辞儀を返した。
と、同時にその手から耳かきを奪い、俺はキラッと目を光らせる。
「じゃ、次は唯花の番な?」
「え、あたし?」
カーディガンの掛かった肩をすくめ、首を振る。
「あたしはいいよ。ちゃんといつも耳そうじしてるもん」
「耳かきの極意はそうじにあらず、って今教えたばっかりだろ。ほれほれ、いいから俺の膝に座れ。シッダウン、ハリィーハリィー!」
「えー、せっかく奏太を甘えさせたから、今日はその充実感いっぱいで過ごしたかったのにぃ……」
文句を言いつつ、そこは生来の甘えん坊な唯花である。
俺が女の子座りするのもあれなので、ベッドに移動して腰かけると、大人しく膝に頭を乗せてきた。
「三つ編みがちょっとかさばるな。どうするか……」
「外してみる? 頑張ったら脱着可能だったりするかも」
「お前の三つ編みは外部装甲ユニットか。せっかくのレアな三つ編み唯花だ。ほどかず邪魔にならないように持っててくれ」
「はーい」
三つ編みを白い首元から通して、胸元で唯花に渡す。
きれいに編み込まれた髪がネクタイみたいになってFカップに埋まった。ちょっとエロい……。
「ごほん。いかんいかん」
「どったの?」
「なんでもない。ちょっと集中しようと思っただけだ」
耳そうじにエロは御法度。心を清く保たねば。
「よし、始めるぞ?」
「はじめてだから優しくしてね?」
「へいへい」
唯花の軽口はさらっとスルー。
普段通りを装いつつ、俺は心のなかで熱い復讐心をたぎらせる。
……くっくっくっ、これで攻守逆転だ。
さっきはさんざん辱められたからな。俺の耳かきテクで癒しまくり、リフレッシュさせまくり、甘やかしまくってやる。
そして最後には『やっぱりあたしは奏太に甘える方がいい~っ』と宣言させるのだ。我ながらなんという極悪な計画。自分の残酷さに震えが走るぜ。
しかしそれも確かなテクニックがあってこそのもの。様々な動画から学んだ知識を今こそ生かすのだ。
まずは唯花にやってもらったのと同様、耳かきのフックを使ったアプローチだ。
俺は耳かきを構え、唯花の耳の溝を押していく。
グッ、グッ……。
するとほんの二押し程度のところで。
ビクンッと唯花の体が跳ねた。
「――っ!? ちょ、奏太っ! 今、なにしたの!?」
「んあ? お前がやってくれたのと同じフック押しだよ。ほらここの丸みで押すやつ」
「え……ただ押しただけ? 本当に?」
唯花は耳かきのフックを見つめて目を丸くする。
大げさなやつじゃわい。まだ始まったばかりだぞ?
「ほれほれ、いいからもっかい寝ろ」
「や、待って。なんか変な感じというか、嫌な予感が……」
「いいから、いいから。ハリィーハリィー」
起き上がっていた唯花の肩をぐいっと押し、もう一度寝かせる。
そしてフック押しを再開。耳の溝を丁寧に押していく。
グッ、グッ、グッ、グッ……。
ふっふっふ、どうだ唯花。俺の耳かきさばきは……って、ん?
ふと見たら、唯花は小刻みに震え、押される度に吐息をこぼしていた。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……んんっ」
「どした? 気持ちいいだろ?」
「わ、分かんないよ……っ。なんかぞわぞわして……変な感じ」
「変な感じ? ……あー」
なんとなく思い当たり、フック押しを続けながら言う。
「唯花、マッサージの時もくすぐってたもんな。ニートだから体に刺激が慣れてないのかもしれん」
「ニートは関係ないよね!? ……んっ! ね、ねえ奏太、一回、手止めて?」
「ちょっと刺激を変えてみるか。こういう感じはどうだ?」
押すのではなく、耳の溝に沿って滑るようにかき始める。
さわさわ、さわさわ、さわさわ……。
すると、どうだろう。
溝を一周するまでもなく、唯花は――。
「ひゃうんっ!?」
可愛らしい声を上げて仰け反った。
自分で自分の声にびっくりしたのか、口を押えて目を白黒させている。
「な、なに今の……っ。ほ、本当にあたしの声……?」
「くっくっくっ、いい声だったぜ? お嬢さん」
俺は必殺仕事人のように耳かきを構え、キランッと目を輝かせる。
「どうやら唯花も肌で感じ始めたようだな? 耳かきのリフレッシュ効果、その気持ちよさというものを……!」
「ち、違っ。奏太、これたぶん違う。あたし、未経験だから確証ないけど、たぶんこれリフレッシュとかそういうのとは逆方面の……っ」
「ふはははっ! そんな見え透いたウソに騙される俺だと思うか! 大人しく俺の耳かきで癒され尽くすがいい!」
「ウソじゃないっ、ウソじゃないからぁ! ね、お願い? 一旦ストップしよ? それで冷静に事態を分析して――」
まるで懇願するような唯花の眼差し。
俺はフッとニヒルに笑い、耳かきを華麗に構えた。
「問答無用で続行っ!」
「いやぁぁぁっ! 未体験の気持ちよさを教え込まれちゃう! ――ひゃうんっ!?」
唯花の甘い声が響き、俺は耳かきの神業を繰り出しまくる。つづく!




