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【書籍発売中】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら  作者: 風見ゆうみ


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8   すぐ元気になると思います

「アンナ。君の活躍は聞いているよ。君がそんなに賢かったなんて知らなかった。それに最近の君は日に日に可愛くなるから驚いたよ。僕も僕の両親も君との婚約を破棄したことは失敗だったって、今では反省しているんだ」

「そんな話をここでしても良いのですか? お姉様を悪く言うことは横にいるマイクス侯爵令息が許さないのではないでしょうか」

「えっ⁉ そ、それは、その」


 私の動き方によって、エイン様が私に対して強気に出ることが多かったのですが、今回は私が強気のため大人しいようです。

 強く出られると何も言えなくなるのなら、言わなければ良いのにと思ってしまいますが、思ったことをすぐに口にしてしまうタイプなのでしょうね。

 案の定、ヴィーチがエイン様に噛みつきます。


「エイン! ミルーナ嬢との婚約が失敗だったなんて、よくもそんな馬鹿なことが言えるな!」

「しょうがないじゃないか。ミルーナは僕と二人でいると、いつも退屈そうな顔ばかりしているよ。ヴィーチ、そんなにミルーナのことが好きなら、君が結婚したらどうだ?」

「な、な、なんだって⁉」


 ヴィーチは両頬を手で押さえ、顔を真っ赤にします。


「ぼ、ぼくが、ミルーナ嬢と結婚⁉」

「そうだよ! そうしよう!」


 名案とばかりにエイン様は拍手をすると、私に笑いかけます。


「ほら、君との婚約を破棄しただろう? そのことで、クラスのみんなに馬鹿にされているんだ。再婚約すれば、みんなはきっと馬鹿にするのをやめるはずだ。ねえ、アンナ、わかってくれるよね?」

「……何をわかれと言うのですか?」

「僕と再度、婚約をすることだよ」


 絶対に嫌だと答えたいところですが、嫌だと言えば、両親はエイン様とお姉様の婚約の解消を認め、私とエイン様を再婚約させようとするでしょう。お姉様は私のものを奪うことを目的としています。なら、今は堪えて大人しくしているべきなんでしょうけれど、演技でもエイン様に媚びたくないです。

 ここは適当に流しておいて、家族の前ではエイン様とよりを戻したがっているフリをしたほうが良さそうですね。


「私が決めることではありませんから」

「そんなに怒らないでくれよ。ほら、仲直りのキスをしよう」


 そう言って、エイン様は目を閉じ、口を突き出して私に顔を近づけてきました。


「「ギャーーッ」」


 私だけでなく、周りにいたニーニャや他の女子が絶叫した時、エイン様の頭に教科書が振り下ろされました。


「いい加減にしろ」

「い、いた、痛いっ!」


 助けてくれたのは、呆れ返った顔をしたアデルバート様でした。頭を押さえてしゃがみ込んだエイン様を無視して、アデルバート様にお礼を言います。


「あの、本当に助かりました。ありがとうございました」

「大丈夫か?」

「今は精神的に辛い状態ですが、すぐ元気になると思います」

「なら、良いけど」

「良くはない!」


 エイン様が叫び、涙目でアデルバート様を睨みつけます。


「学園長に、アデルバート様から暴力をふるわれたと伝えますから!」

「勝手にしろ」


 アデルバート様はそう言って、私とエイン様の間に割って入ってくれました。

 私にも一応、護衛騎士がいますが、私の後ろを付いて歩いているだけで、私を守るつもりはありません。何かあっても見て見ぬふりです。ですから、こんな風に誰かに守られるだなんて、生まれて初めてでした。


「暴力をふるうだなんてありえないことですよ!」

「学園長にはアデルバート様は私を守ってくれたのだと伝えます。それよりも、エイン様、婚約者がいる身で私にキスしようとしたことを、学園長に知られても良いんですか?」

「そ……、それは、仲直りのものだから、別に悪いことじゃ……」

「恋人同士、ましてや友人でさえもない人と仲直りのキスなんてありえません」


 私が呆れ顔で答えた時、授業開始のチャイムが鳴ったので、エイン様とヴィーチは慌てて教室から出ていったのでした。 

次の休み時間に女子だけで集まって、こんな話をしました。


「アンナは頭が良いし、顔も可愛らしいもの。エイン様のクラスにアンナを好きだと言う人がいるんじゃない? だから、今になって惜しくなったのよ」

「褒めていただきありがとうございます。個人的にはみなさんのほうが可愛いと思います。エイン様が私と再婚約したいのは、私が注目を浴びているからでしょう。婚約者に戻って優越感に浸りたいのでしょうね」

「それにしても、さっきの仲直りのキスというのは信じられませんね。あの、その、こんなことを言ってはいけないとわかっていますし、個人的な意見で申し訳ないのですが、その、あの、気持ち悪い……」


 苦々しい顔をして言ったニーニャに、私を含む女子三人は大きく頷いたのでした。


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