51 それなら良かったです
廊下にはデルト様が立っていて、ヴィーチたちに動きがあったことを教えてくれました。まるで、この日を待っていたかのようなタイミングです。
聞いた話を伝えることもそうですが、聞きたいことはまだいくつもあったため、応接室に戻ってロウト伯爵令息に話しかけます。
「どうしたら、時間を巻き戻すことができるんですか?」
「禁断の魔法ってやつだよ。聞いたことはあるだろう」
「いいえ」
今回の人生でデルト様から教えてもらいましたが、それまでは聞いたことがありません。それに詳しいことはわかりませんので、知らないふりをすると、ロウト伯爵令息は素直に話をしてくれました。
ロウト伯爵家に女の子が生まれることは滅多にありえないことだそうです。そして、女の子が生まれると同時に長男にも魔法が使えるようになるそうで、なぜ、長男にも使えるようになるかの理由については、男性の血族しか次の世代への魔力の継承ができないからではないかということでした。
「教えていただき、ありがとうございます。まだ、疑問があるのですが……」
「答えてあげるよ」
「どうして私を毎回、五歳に巻き戻したんですか」
「……僕がミルーナを好きになったのは、君が四歳の時の話だ。ローンノウル卿のように赤ん坊に巻き戻したら、僕とミルーナの大事な思い出が消えてしまうかもしれない」
「ミルーナ嬢との間に何があったんだ?」
今度はアデル様が尋ねると、ロウト伯爵令息は優しい笑みを浮かべます。
「友人にいじめられていた僕を助けてくれた。そして、私の婚約者なら、もっとしっかりなさいと叱ってくれたんだ」
恍惚とした表情で話すロウト伯爵令息を見て、ミドルレイ子爵令嬢は呆れた顔をしています。彼女にしてみれば、ミルーナさんは天敵みたいなものです。兄がそんな気持ちになる理由がわからないのでしょう。
「私が五歳の時に時を戻せば、四歳の時の出来事は消えないですものね。でも、アデル様が動けば、また変わってくるのではないのですか?」
「君とローンノウル卿は、昔は接点なんてなかっただろう」
「……そうですね」
「魔法だからよくわからないが、違う時間軸にいたものが、君とローンノウル卿が接触することで、一つになったのかもしれない」
何だか難しいです。別々の世界に生きていた人が、何かのきっかけで同じ世界に生きるようになったということでしょうか。
混乱していると、アデル様が言います。
「アンナが開き直ったから、バラバラだった時間が一緒になったのかもしれないな」
「どうせ殺されるなら、好きなように生きようと思ったことが良かったんですね」
アデル様の言葉に頷くと、ミドルレイ子爵令嬢は意地の悪そうな顔をして言います。
「本当に生きていられるかは、わからないけどね」
「ビアナ、やめろ!」
ロウト伯爵令息に叱られたビアナ様は、大人しく口を閉ざしました。
「そうですね。何も手を打たなければ、また、殺されてしまうかもしれません。それは絶対に嫌ですから、私も色々と動いてはいるんですよ」
笑顔で言うと、アデル様がミドルレイ子爵令嬢を睨んで言います。
「アンナは俺が守ると決めてるんだ。何かしようとするなら容赦しない」
「ど、どうしてですか⁉ どうして、レイガス伯爵令嬢を選ぶの⁉ あなたは何回目で私を好きになってくれるのよ⁉」
「何回やっても無駄だ。というか、何度も生き返らせることができるのか?」
「そ……、それは、限界が……」
アデル様とミドルレイ子爵令嬢が会話をしている間に、私はロウト伯爵令息に話しかけます。
「ミルーナさんの最近の様子はどうですか?」
「大人しくしているし、僕たちの仲は順調だけど、何か問題でもあるのかな」
「上手くやっているのですね。では、先ほどミルーナさんがとある男性と逃げたという情報を聞いたんですけど、私の知っているミルーナさんではなかったのですね。それなら良かったです」
そんなことは絶対にないとわかっています。
ですから、わざとらしい笑顔で手を叩きながら言うと、ロウト伯爵令息の顔がみるみる内に青くなっていったのでした。




