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【書籍発売中】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら  作者: 風見ゆうみ


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51/55

50  時間の無駄でしょう

「な、何をしているんだ!」


 ロウト伯爵令息はお腹を押さえているミドルレイ子爵令嬢を介抱しながら、私を非難します。


「シルバートレイで攻撃するなんて、普通の人間がやることじゃない! 野蛮すぎる!」

「一応、手加減はしています! 私を普通の人間じゃないようにしたのはあなたです。あなたに言われたくありません」

「……どういうことだ?」

「普通の人間は人生を何度もやり直しはできません」

「そ……、それはそうかもしれないが、常識の問題だろう!」

「それよりも、アンナにティーカップを投げたことについては、どう思うんだ」


 アデル様が私たちの会話に割って入ると、ロウト伯爵令息は痛みで顔を押さえたまま答えられない、ミドルレイ子爵令嬢の代わりに焦った顔で答えます。


「そのことにつきましては、申し訳ないと思っております」

「申し訳ないと思うのは当たり前だ。普通の令嬢はティーカップを人には投げない」


 ロウト伯爵令息はなんと言えば良いのかわからないのか黙り込んでしまったので、その間にアデル様に話しかけます。


「アデル様、庇っていただき、ありがとうございました。お怪我はありませんか?」

「怪我はしてないし、アンナが無事で良かった」


 アデル様は微笑むと、テーブルの上に置いてあったベルを使ってメイドを呼びました。中に入ってきたメイドは、ティーカップが割れ、中身が飛び散っていることに驚いた様子でしたが、事情を聞くこともなく片付けたあとは、お茶を淹れ直してくれました。メイドが出ていくと、ミドルレイ子爵令嬢が涙目で口を開きます。


「ティーカップは弁償いたします」 

「母上は食器類が好きなんだ。高いものばかり集めているから、結構な額になると思うぞ」

「えっ……」


 ミドルレイ子爵令嬢は、口をぽかんと開けて呆然とした顔になりました。ティーカップに値段の差があるなんて知らなかったと言わんばかりの表情です。


「そんな……、結構な額といっても、私の家では払える金額ですよね?」

「さあな。君の家の財政状態を俺は詳しくは知らない。君の家に請求するだけだから、今は気にしなくていい」


 アデル様は素っ気なく対応すると、ロウト伯爵令息を見つめます。


「俺の人生に何度も干渉してきたのは、ミドルレイ子爵令嬢の頭が良くないからだとわかった。では、お前はどうしてアンナを何度も殺す必要があったんだ?」

「別に僕が殺すように仕向けたわけじゃありません。どちらかというと、僕はそれを阻止したかった」

「……どういうことでしょう?」


 私が尋ねると、ロウト伯爵令息は鼻で笑ってから答えます。


「マイクス侯爵令息が実行犯だとしても、ミルーナが関与しているのは、すぐにわかることだ。なら、どうなるかわかるだろう?」

「……ミルーナさんは警察に捕まったんですね?」

「そうだよ! しかも、フロットル伯爵令息との浮気もわかって、彼女の評判は最悪だ! 僕は妻の浮気に気づけなかった馬鹿な男と言われただけでなく、妻は実の妹の夫と浮気し、妹を殺そうとした女性だ! 僕の家がどうなるかわかるだろ」

「没落したんですか」

「そうなる前に時間を戻したんだよ!」


 ロウト伯爵令息からは、先程までの穏やかな様子は消え去り、憤怒の表情になって続けます。


「ミルーナが罪を犯す原因は君だ! だから、君がミルーナと上手くやれるように巻き戻したんだ」

「それなら、私が生まれないようにすれば良かったのではないのですか?」


 こんなことを言うのもなんですが、私が生まれなければ、ミルーナさんは罪を犯さなくて良いはずです。


「死んだ人間しか無理なんだよ。その時の君の両親は君への虐待が公になって警察に連れて行かれたんだ。だから、君の両親に近づけなかった」


 ロウト伯爵令息は悔しそうな顔をして言いました。

 この人は結局は自分が幸せになるために、私を使ったのですね。それならそうと言ってくれていれば、何度も巻き戻ることをせずに良かったのに、どうして教えてくれなかったのでしょうか。

 ここまで話を聞いて、疑問に思ったことを口にしてみます。


「どうして、私にそのことを教えてくれなかったんですか? 何度もやり直すなんて、あなたにとっても時間の無駄でしょう」


 一度、私を生き返らせた以上、私しかやり直すことができないようですが、ロウト伯爵令息にも記憶は引き継がれているようです。

 私は開き直ったので飛び級をしましたが、ロウト伯爵令息も今までの私のように、勉強ができることを隠していたんですね。

 ……もしくは、勉強が苦手とかでしょうか。

 それに、私が上手く動けなくても、ロウト伯爵令息が記憶をうまく使えば良かっただけなのでは?

 今はどうでも良いことを考えていると、ロウト伯爵令息が答えます。


「いや、そんなことはない。何度も繰り返すことによって、僕はミルーナのことを知ることができた」


 にやりと笑ったロウト伯爵令息が恐ろしく感じた時、黙っていたミドルレイ子爵令嬢が口を開きます。


「お兄様……、怖いわ」

「……すまない」


 妹には甘いのか、もしくは、彼に力を与えてくれたのは彼女なので強く言えないのかもしれません。

 ロウト伯爵令息は静かに息を吐くと、気持ちを落ち着かせるためか口を閉ざしました。ちょうどその時、扉がノックされアデル様が呼ばれたので、私も一緒に廊下に出たのでした。

 

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