44 呼んでほしかったのですか?
アデルバート様からはその日の内に手紙で返事がきました。次の日も学園なので、返事は明日だと思っていただけに驚きましたが、手紙の内容を見て、すぐに返事が来た理由がわかりました。
ヴィーチがなんとアデルバート様に接触していたのです。しかも、内容が酷いものでした。
ヴィーチは、アデルバート様にミルーナさんとデートしてほしいと言ったそうです!
アデルバート様は、あまりにも驚いて『お前は頭が悪いのか?』と聞いてしまったと書かれていました。
前々から思っていたようですけれど、口には出さないようにされていました。でも、デートしろなんて言われたら、この人は何を言っているのかと思いますし、本音を口に出してしまいたくなる気持ちはわかります。
一体、ヴィーチは何を考えているのでしょうか。私に好きになってもらうことが無理だったから、アデルバート様をミルーナさんに会わせようとしたとかですか?
一気に物事が動き始めて、頭の整理が追いつきません!
時計を見ると、もう日付が変わりそうです。お肌が荒れてはいけませんので、とりあえず眠ることにしたのでした。
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次の日、いつもよりも少し早い時間に登校し、私たちしかいない教室でアデルバート様と昨日の話をしました。
アデルバート様の話によると、ヴィーチは誰かに頼まれたわけではなく、ただ、ミルーナさんを幸せにしたくて動いているだけだと言ったそうです。
「何で俺とミルーナ嬢がデートしないといけないんだと聞いたら、デートすれば必ず、ミルーナ嬢を好きになるからってさ。そんなわけないのにな」
「ミルーナさんは一部の男子には人気がありますし、マイクス侯爵令息も本当にミルーナさんが好きなのでしょう」
「人の好みに文句を言うつもりはないが、たとえ、ミルーナ嬢に良いところがあったとしても、それだけで好きになるわけじゃないだろ」
「そうなんですが、考え方が凝り固まっているんじゃないかと思います」
「どういうことだ?」
前の席に座るアデルバート様が不思議そうにするので、例え話をしてみます。
「ヴィーチにとっては、ミルーナさんが最高の女性なんです。だから、その良さが他の人にはわからないはずがない」
「……わからないんだが」
「わからないことがおかしいというのが、ヴィーチの考えなんだと思います」
「このままだと、一生、平行線で終わるな」
アデルバート様はうんざりした様子で言いました。
「どうせなら、ヴィーチが私に手を出してくれたら殴り飛ばして黙らせるのですが……、あっ!」
つい、いつものようにヴィーチと呼び捨てにしてしまったので口を押さえると、アデルバート様は不満そうにします。
「マイクス侯爵令息は呼び捨てかよ」
「……どういう意味でしょうか?」
「俺はアンナの婚約者だよな?」
「はい!」
「なら、アデルでいいんじゃないか?」
じぃっと拗ねたような顔で見つめられたので、ドキドキする胸を押さえて口を開きます。
「ア、アデル……さま」
「結局、様は付けるのかよ」
アデルバート様……ではなく、アデル様はいっぱいいっぱいになっている私を見て微笑みます。
「まあ、いいや。昨日からイライラしていたんだが、アンナのおかげで直った」
「……もしかして、アデルと呼んでほしかったのですか?」
「呼んでほしかったっていうか、同性の友人はみんな、アデルって呼ぶからな。一番、親しいはずのアンナが呼んでくれないことは気になってた」
「も、申し訳ございません!」
「謝るなよ。アンナは何も悪くないって。嫌だったとかじゃなくて、呼んでもらえたら嬉しいだけだ」
呼び方によって、受け取る印象が違ったりしますものね。私だって、ニーニャたちからレイガス伯爵令嬢と呼ばれるよりも、アンナさんや、アンナと呼ばれたら、親しい友人のような気がして嬉しいですし。
でも、アデル様がそんな子供っぽいことを考えていたなんて、可愛らしいところもあるのですね。
ニコニコしていると、「何がそんなに楽しいんだよ」と不満そうに言いつつも笑ってくれました。




