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【書籍発売中】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら  作者: 風見ゆうみ


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40  お断りします

 その後はヴィーチの姿を見ることもなく、帰ったのだと思い込んでいました。それは、パーティーが終盤に差し掛かった時でした。お手洗いに行ってくると言って、会場を離れたニーニャが中々帰ってこないので、私が様子を見に行くことにしました。

 ミルルンたちが見てくると言ってくれたのですが、なぜだか、嫌な予感がしたからです。シルバートレイをメイドから受け取り、念の為、アデルバート様に声をかけると、一緒に来てくれることになりました。

 お父様たちにも話をしておこうと思いましたが、来客の対応で忙しそうですので、報告はミルルンたちに任せました。きっと、すぐに連絡してくれることでしょう。

 ニーニャはお手洗いにいなかっただけでなく、普段使っているポーチが廊下に落ちているのを発見し、私とアデルバート様は顔を見合わせました。


「……ニーニャに何かあったのでしょうか」

「その可能性が高いな」


 その時、ニーニャの侍女が泣きながら、私の所に駆け寄って来て叫びます。


「アンナ様、助けてください! 今、警備の方が話をしてくださっていますが、マイクス侯爵令息が、むりやり、ニーニャ様を中庭に連れ出そうとされたのです!」


 侍女に話を聞いたところ、ニーニャがお手洗いを出たところで、ヴィーチが待ち構えていたそうです。ニーニャを助けようとした侍女は頬を叩かれたのか、白いはずの右頬が赤くなっています。

 様子がおかしいことに気がついた警備兵がヴィーチに話を聞いてくれているとのことですので、ニーニャの侍女には、お父様たちに場所を伝えるようにお願いし、私とアデルバート様は急いで教えられた場所に向かったのでした。


 ニーニャの侍女に教えられた場所は、中庭に続く扉がある場所でした。


「マイクス侯爵令息はニーニャを連れ出して、何をするつもりなのでしょうか」

「どうにかしてアンナと話したそうだったから、伝言を頼むつもりだったのか、ニーニャを人質にアンナを呼び出すつもりだったか。今のところ考えられるとしたら、それくらいだな」

「私に近づいて、何をしようとしているんでしょうか」


 アデルバート様が答える前に、私はニーニャの姿を見つけて叫びます。


「ニーニャ!」

「アンナさん! アデルバート様!」 


 ニーニャは私たちの所へ駆け寄ってくると、何度も謝ります。


「ごめんなさい、ごめんなさい!」

「謝らなくて良いですよ。一体、何があったのですか?」


 ニーニャをなんとか落ち着かせて、話を聞いてみることにします。


「よ、よ……、用事があるから、中庭に一緒に来いと言われたんです。どんな用かと尋ねたら、ここでは話せないって……。ア、アンナさんたちに……、ほ、報告してから行きますと言ったら、無理やり連れて行かれそうになったので、助けを求めたんです」

「怖かったですよね。もう、大丈夫ですよ」


 震えるニーニャの背中を優しく撫でると、ニーニャは泣き始めてしまいました。私がニーニャと話をしている間に、アデルバート様がヴィーチに話しかけます。


「一体、どういうことだ」

「話があったから、人がいない所へ移動しようとしただけだ。君にどうこう言われる筋合いはない」

「婚約者がいる令嬢が婚約者でもない若い男に連れて行かれそうになっているんだ。気にするのは当然だろ。人がいない所へ連れて行って本当に話をするだけだったのか?」

「当たり前だろう!」

「話だけならどこでもできるだろう。二人きりにならないといけないと言う時点で、怪しまれても仕方がないんだよ」


 アデルバート様に睨みつけられたヴィーチは、少し怯んだ様子を見せました。


「ニーニャは戻っていてください」

「でも……」


 怯えているニーニャを一人で戻すのも心配なので警備兵に頼むと、頷きはしましたが尋ねてきます。


「アンナ様たちはどうされるのですか?」

「どうしても私と話したいようですから、話を聞こうと思います」


 シルバートレイを見せながら笑顔で答えると、警備兵はニーニャを連れて会場のほうへ歩いていきました。私の実力は知っていますし、アデルバート様もいるので大丈夫だろうと判断したのでしょう。

 警備兵二人とニーニャを見送ってから、ヴィーチに話しかけます。


「マイクス侯爵令息、話したいことがあるなら、今のうちにどうぞ。すぐにお父様たちが来ますわよ」

「……二人きりで話がしたい」

「お断りします。今、ここで話してください」

「個人的な話なんだ!」

「アンナに嫌なことをしておいて、自分の願いは聞いてほしいなんて都合の良いことを言うな。話を聞いてもらえるだけでも感謝しろよ」


 アデルバート様に厳しい口調で言われたヴィーチは、舌打ちをしたあとに渋々といった様子で口を開きます。


「アンナ嬢、僕は恋愛対象として君のことが好きになった」

「はい⁉」

「はあ?」

 

 私とアデルバート様が大きな声で聞き返すと、ヴィーチは不機嫌そうに眉根を寄せたのでした。


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