33 もちろんです!
アデルバート様が言っていた通り、三日後には、ディストリー伯爵家がどう処分されるのかわかりました。処分内容を知らせてくれたのはお父様で、夕食後に談話室で話をしてくれたのです。
「アンナを虐待していたという話は、両陛下にも伝わっていたんだが、すぐに領主の変更をすることもできず、後継者になれそうな人を探していたんだ」
「……かなり、時間がかかったのですね」
「反省したように見えた時間もあったからだろうが、多くの貴族はこれ以上、仕事を増やされたくなかったんだよ」
「ディストリー伯爵領はそう広くはありませんが、領民はたくさんいますものね」
税率も領によって違います。引き継ぐとなると、仕事の量が増えるだけではないので、人手を増やさなければなりません。
しかも、ディストリー伯爵は仕事を溜め込んでしまっているらしく、その分の遅れも解消しなければならないため、代わりをしようと名乗り出る人が、中々いなかったようです。
「結局、どなたが引き継ぐのですか?」
「うちが引き継ぐことになった」
「だ、大丈夫なのですか⁉ お父様もお仕事が忙しいのでは……」
「トーラやトーラの侍女が手伝ってくれることになった。それに、人手が足りないのなら人を雇えば良いことだ」
トーラというのはお母様のことです。これも、お母様にとっては、元ディストリー伯爵夫人への復讐なのかもしれません。
「では、私もお手伝いいたします!」
「アンナは学園にいる間は学業に専念しなさい」
「ですが……」
「アンナは十六歳の年で卒業だ。普通は学園を卒業すれば結婚する令嬢が多い。でも、この国は結婚ができるのは十八歳からだから、アンナはまだ結婚できない。嫁入りまでは、この家にいてくれるんだろう?」
「もちろんです!」
「なら、卒業前にトーラと話をしなさい」
学園を卒業後なら、私も一緒に仕事をしても良いみたいです。頑張って成績を維持して、首席で卒業できるように頑張ります!
今までの人生では、卒業後にエイン様と結婚して、大して仕事を覚えられないうちに、エイン様に裏切られ、ミルーナ様にエイン様を奪われて終わっていました。
今回の人生ではエイン様がニーニャと上手くいき、ミルーナ様は貴族ではなくなります。
あとは、ヴィーチをどうにかするだけです。そういえば、ミルーナ様が貴族ではなくなった場合、ロウト伯爵家もどう動くつもりなのでしょうか。
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それから数日が経った学園が休みの日の朝。お母様たちが仕事の資料などを元ディストリー伯爵家の屋敷に取りに行くという話を聞き、アデルバート様と一緒に付いていくことになりました。
私は行く気はなかったのですが、お母様から一緒に来てほしいと頼まれ、その話をアデルバート様にすると、一緒に行くと言ってくれたのです。
どうして、お母様が私に一緒に来てほしいと言ったのかは、元実家に着いてすぐにわかりました。
元両親が屋敷内に残っていたからです。執務室に入ると、元両親がソファに座っていました。その表情はどこか虚ろで、まだ、現実を受け止められていないようです。
「……アンナ!」
元ディストリー伯爵夫人は、私の姿を見るなり、座っていたソファから立ち上がり、杖をついて近寄ってこようとしました。
護衛が動くと同時にアデルバート様が私を庇うように立ってくれたので、元ディストリー伯爵夫人は立ち止まらざるを得ませんでした。
「アンナ、話を聞いてほしいの」
「……エイブリーさん。もう、あなたはアンナと何の関係もないの」
お母様は元ディストリー伯爵夫人であるエイブリーさんに微笑みかけます。
「あなたがいらないと言っていたアンナは、とても良い子で、私にとってはとても可愛い子よ。こんなことを言ってはなんだけど、アンナを私の子どもにしてくれてありがとう」
「……っ!」
エイブリーさんは悔しそうに顔を歪め、顔を真っ赤にして唇を噛みました。すると今度は、エイブリーさんの横に立った、元ディストリー伯爵が私に話しかけます。
「アンナ……、助けてくれ。私はお前に意地悪なことはしていなかっただろう。こいつが勝手にやっていたことなんだ」
元ディストリー伯爵は目を潤ませ、エイブリーさんを指さしながら、信じられない発言をしたのでした。
昨年は拙作をお読みいただき、ありがとうございました。
本年もよろしくお願いいたします。




