28 奪われるのは御免です!
アデルバート様が調べてくれた結果、シェラルのお兄様のロッサム様には好きな人がいたそうです。その方を好き過ぎて婚約者も作らなかったのです。
彼の好きな女性はミドルレイ子爵令嬢でした。ロッサム様はかなり年下の女性が好きなようです。
放課後、ロッサム様と待ち合わせることになったティールームに向かいながら、アデルバート様に尋ねます。
「どうして、ロッサム様はミルーナ様と一緒にいるのでしょうか」
「ミルーナ嬢が自分に協力するなら、俺とアンナを別れさせてやると言ったらしい」
「おかしいですね。私のものは自分のものだという考え方の人なのに、アデルバート様をミドルレイ子爵令嬢に渡そうとしているのですか」
「アンナから奪えれば、それで良いんじゃないか?」
「もう、私は妹ではないのですから、放っておいてほしいです! これ以上、奪われるのは御免です!」
怒っていると、アデルバート様は苦笑します。
「俺はアンナとの婚約を解消する気も破棄する気もないから安心してくれ」
アデルバート様の発言にドキドキしてしまいます。どうして、こんなに胸がドキドキするのでしょうか。
「……アデルバート様は、もしかして、媚薬などを使っているのですか?」
「そんなわけないだろ」
「顔がとっても整っていますから、そのせいなのでしょうか。とても、キラキラして見えます」
「……人を顔だけみたいに言うな」
不機嫌な顔になってしまったアデルバート様に謝ります。
「申し訳ございません。そういうわけではないのですが、あまりにも女性に好かれているので、つい……。デリカシーのない発言でした。申し訳ございません」
「もう、その話はやめよう」
ああ、アデルバート様を怒らせてしまいました。それはそうですよね。人のことを顔だけ良いと言っているような発言をしたんですもの。
長い間生きているのに、配慮のない言葉を口にしてしまうのは、今までのコミュニケーション不足か、それとも、ディストリー伯爵夫妻からの遺伝なのでしょうか。
「アンナ」
「……はい」
「喧嘩しても良いと思うけど、長引くのは良くない。仲直りするぞ」
「は、はい! ありがとうございます!」
嬉しかったので、ギュッとアデルバート様の手を握ると、アデルバート様の顔が一気に真っ赤になりました。
「なな、な、な、何で手を握るんだよ!」
「ええっ⁉ あ、申し訳ございません!」
慌てて手を放して謝りました。
おかしいです。ダンスを踊った時はこんな反応ではありませんでした。……ということは、怒っているということですよね。真っ赤になるほど怒らなくても良い気がしますが、そんなに手を握られるのが嫌だったのでしょうか。
「驚いただけだ。というか、ごめん。言い方が悪かった。嫌だったわけじゃない」
「いえ、こちらこそ、馴れ馴れしくしてしまって申し訳ございません」
そんな話をしている内に待ち合わせ場所に着きました。待っている間にロッサム様が現在、どんなことをしているのか教えてもらいました。彼はミルーナ様の味方を増やすために、ミルーナ様のクラスメイトの女子を誘惑しているそうです。
そして、彼女たちが誘惑されたことを他の人に話さないように、人には言えないことをして、黙っておくかわりに、ミルーナ様の友人になるように強制しているとのことでした。
ミルーナ様は自分が私よりも人気があるように見せかけたいのですね。そんなことをしても意味がない気もしますが、私がクラスメイトと仲が良いので、同じようにしたいのでしょう。
シェラルはここまで知っているかはわかりません。でも、兄が何か悪いことをしていることに気がついているから、あんなにショックを受けているのでしょう。
そして、ロッサム様の動きに気がついた、ご両親も秘密裏に動いているそうなので、心を痛めているのかもしれません。
話の区切りがついた時、ロッサム様がやって来ました。
「僕に何か御用ですか」
シェラルと同じ、金髪碧眼のロッサム様は長話をするつもりはないと言わんばかりに、椅子には座らずに立ったまま尋ねてきました。そんな彼を見上げて尋ね返します。
「シェラルの様子がおかしいんです。何か知っていますか?」
「さあ? 僕は何も知りません」
ロッサム様は首を横に振って、話を続けます。
「考えられるとしたら、ミルーナ様と一緒にいることが気に食わないのかもしれません。でも、僕が誰といようが僕の勝手でしょう」
「妹が悲しんでいるのにどうでも良いのは酷いのではありませんか」
「男性代表として言わせてもらいますが、女性は男性の言うことを聞いて大人しくしていれば良いんですよ。それは妹だろうが関係ありません」
ロッサム様が信じられない発言をした瞬間、アデルバート様が立ち上がって、ロッサム様のネクタイを掴んで言います。
「男性代表とか勝手に名乗るな。俺は、そんなこと一度も考えたことねぇよ」
ロッサム様はプライドだけが高い貴族の男性に多い傾向があり、女性への偏見を持っている人のようでした。でも、その発言はミドルレイ子爵令嬢の前でも言えるのですかね?




