27 私を信じてください!
少し前から、友人のシェラルの元気がないと、ニーニャたちと話をしていたことは確かです。何かあったのかと聞いても「特になにもない」と答えるので、私たちは途方に暮れていました。クラスの男子からは仲良し四人組と言われているのに、悩み事を話してもらえないのは悲しくもありましたが、話せないということはよっぽどのことなのでしょうし、話せるようになるまで待とうと思う気持ちもありました。
でも、あまりにも今日のシェラルは元気がなく、時折、目に涙を浮かべているので、気づかないふりもできません。昼食の前にお手洗いに行く時、二人きりになったので話してもらえないことを覚悟で聞いてみます。
「シェラル、しつこくて申し訳ないのですが、ここ最近の間に何かあったのですか? 友人だと思ってもらえているのなら、詳しくとまでは言いませんので、何があったか話してもらえませんか。シェラルのことが心配なんです」
「ありがとう。アンナの気持ちは嬉しい。でもね、兄から話すなと言われているの」
「お兄様から?」
……ということは、お兄様絡みの何かがあったということですね。
「言えないだけで知られることは嫌ではないのですね?」
「……うん」
頷いたシェラルの目から涙が零れ落ちました。
シェラルをこんなに苦しめるなんて許せません! 今まで助けてもらった分の恩を返さなくては!
シェラルが落ち着くのを待ってから、一緒にお手洗いを出ました。昼食を後回しにして、最終学年にいるシェラルのお兄様に会いに行くことにしましたが、一人で行くのは危険だとシェラルに止められてしまいました。
シェラルを連れていけば、彼女が何か言ったと丸わかりです。ですから、シェラルの様子がおかしいので相談したいという理由にすることと、アデルバート様に一緒に行ってもらうことにしました。アデルバート様に相談すると、行く前に調べるから時間をくれと言われました。
「どれくらいの時間がかかるのでしょうか」
「放課後までには調べる。それから、俺から先方に話がしたいと伝えておく」
「そこまでしていただいても良いのですか?」
「アンナのためなんだから、別にそれくらい普通だろ」
「私のため……」
こんな時だというのに意識してしまい、恥ずかしくなって俯くと、アデルバート様がクラスメイトから冷やかされ始めてしまいました。慌てて、私がみんなに話しかけようとした時、食堂内の一角が騒がしくなったので、そちらに顔を向けました。
最初は人で見えませんでしたが、人の輪を抜けて現れたのは、ミルーナ様、ヴィーチや、ミルーナ様の婚約者のロウト伯爵令息、そして、他三人の男性でした。
「アンナ、あの中にシェラルの兄がいるぞ」
アデルバート様に教えてもらい、シェラルの兄がどの人か教えてもらいました。シェラルはお兄様がミルーナ様に落ちてしまったと伝えたかったのでしょうか。でも、これだけ大勢の前に姿を現しているのですから、内緒にしろと言っていた理由がわかりません。
何にしてもミルーナ様絡みだということは間違いないでしょう。ディストリー伯爵夫人は前の怪我で寝たきりになっていた時間が多かったため、歩くための筋力が戻らず、現在はリハビリ中です。ディストリー伯爵夫人の代わりにミルーナ様が動き出したということでしょうか。
そろそろ、私に執着するのはやめてくれませんかね!
私たちの視線に気がついたというよりかは、私を探していたようで、ミルーナ様は私と目が合うと立ち止まり、にこりと余裕の笑みを浮かべました。そして、私が反応する前に、ミルーナ様は前を向いて歩き始めます。
今の笑みは何だったのでしょう。私はこれだけ男性に人気があるのだと見せつけたい、とかでしょうか。私が男性に人気がないことは確かですが、婚約者がいるのに、他の男性まで引き連れているのは、婚約者に失礼なのではと思うのですがどうなのでしょう。
「ミルーナ様に常識を求めても無駄なのでしょうね。本人は勝ったつもりでいそうですけど、私はノーダメージなのですが」
「彼女が何をしたいのかわからないが、とにかく、シェラルの兄が何を考えているのかだけ調べる。ちゃんと知らせるから、アンナはシェラルたちと一緒にいろ」
「承知いたしました」
アデルバート様に一礼してから、シェラルたちが待っている席に戻りました。最近のランチタイムは、ニーニャはエイン様と一緒に食べています。でも、今日は私たちと一緒に食べることにしたのか、席に着いて待ってくれていました。
「食べずに待ってくれていたのですね。申し訳ございません。一声かけておくべきでした」
「私たちが待っていただけよ」
ミルルンが答えると、ニーニャが不安そうな顔で言います。
「ミルーナ様と一緒にいたのは、シェラルさんのお兄様ですよね? い、一体、何があったんですか?」
「ごめんなさい。詳しいことは言えないんだけど、私はアンナを裏切ったりしないわ」
強い口調で訴えるシェラルに申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
「私のせいで、シェラルが悲しい思いをすることになってしまったのですね。巻き込んでしまい、本当に申し訳ございません」
「アンナのせいじゃないわ。悪いのはお兄様よ。両親にも駄目だと言われているのに……」
ここまで言ってしまえば、お兄様が何をしようとしているのか言ってもいいような気がしますが、シェラルはとても真面目な人です。『言わない』という約束を破るわけにはいかないのでしょう。時と場合によりますし、今回は話をしても良いと思うのですが、そこはまだ子どもの純粋さが残っているのかもしれません。
「口が堅いということは悪いことではありません。私に何かしようとしているようですが、私のことは気にしないでください」
「そういうわけにはいかないわ!」
「もし、気になるようでしたら、いつものシェラルに戻ってくれたら嬉しいです。あなたのお兄様が何を考えているかは知りませんが、私は負けませんから大丈夫です! 私を信じてください!」
必死になって訴えると、ミルルンは笑ってくれました。ニーニャがつられるようにして笑うと、シェラルもまだ悲しげではありましたが、笑顔を見せてくれたのでした。




