21 それは無理です
「ところで、ミドルレイ子爵令嬢に殺されることになってしまった理由はわかっているのですか?」
「……ああ。婚約者になりたいと言われたんだが、他にも俺の婚約者になりたいという令嬢がいたんだ」
「違う人を選んだんですね?」
「両親がな。俺は興味なかったから、両親に選んでもらったんだ」
アデルバート様は小さい頃から人気があって、匿名の女性からのアプローチがすごかったそうです。匿名でアプローチしても意味がないような気がしますが、低位貴族の令嬢では侯爵令息に真正面から想いを伝えにくいというところでしょうか。
「事故以外ではアデルバート様に冷たくされたという理由や、婚約者にしてもらえなかったなどの理由で殺されていたと思うのですが、大体は学園内でしたね」
子供が殺人をするのではなく、その親が密かに殺意を抱いていたということが多かった気がします。
「そうなんだ。でも、ミドルレイ子爵令嬢は別だった」
「本人自らがアデルバート様を手に掛けたのですか」
「ああ。だから、アンナと俺が婚約したら」
「アデルバート様が危険だということですね!」
「いや、それもそうだが、俺はもう16歳になるし、自分の身は自分で守れる。心配なのはアンナだ」
「……どういうことでしょうか?」
「俺の婚約者になったら、アンナも狙われる可能性がある。ミドルレイ子爵令嬢が相手なら特にな」
「……逆恨みされる可能性があるのですね」
納得したあとに思いついたことを話します。
「アデルバート様は自分の身を守れるくらい強くなったのですよね?」
「まあな。元々、剣は扱えないといけなかったし、護身術も習ったし」
「では、私も護身術を習おうと思います!」
「は?」
アデルバート様が眉根を寄せて聞き返してきました。
「自分で自分の身を守るというのは大切なことだと思うんです」
「それはそうかもしれないが、アンナは中身は別として体はまだ十三歳だし、同じ年齢の女子よりかなり痩せてるぞ? 護身術を習う前に骨が折れるんじゃないのか?」
「そこまでか弱くありません!」
アデルバート様は納得していないのか、眉根を寄せたままです。こうなったら、アデルバート様に内緒で武術を学びましょう!
……そうです! 私もシルバートレイを使えるか確認してみましょう! 六年前にお姉様が私をシルバートレイで叩いた件で、シルバートレイを売っているお店に苦情の手紙がたくさん届いたそうです。
そのせいで、一時期は販売停止まで追い込まれていました。再販の要望が多く、一年後には復活しましたが、迷惑をかけてしまったと気にしていました。
私がシルバートレイを上手く扱えるようになって、自分の身を守れるようになったら、販売元の方にも良いはずです!
……って、あれは十五歳以上対象でした! 表向きの私の年齢ではまだ使えません! ショックです。でも、今はそんなことでしょげている場合ではありません。
「とにかく、ミルドレイ子爵令嬢の件ですが、私のことは気にしないでくださいませ!」
「父さんやボス公爵には話をしておくけど、無理はするなよ」
「わかっています。ですから、アデルバート様は自分のことだけ考えてくださいませ」
「じゃあ、アンナも俺のことは考えるなよ?」
「それは無理です」
「それなら俺も無理だな」
アデルバート様が答えた時に店員が飲み物を運んできたので、話を中断したのでした。




