20 そういうことでございます
今日は学園が休みの日でしたが、私との婚約の話がレイガス伯爵家と公爵閣下から連絡がいったため、昼前にアデルバート様が訪ねてきてくれました。
やはり、私服姿と制服姿ではイメージが違っているので少しだけドキドキしていると、アデルバート様は申し訳無さそうな顔をします。
「急に来てしまって悪いな」
「いいえ! 事前に連絡をいただいていましたし、気になさらないでください。ちょうど、私もアデルバート様とお話をしたかったのです」
施設内には面会するための個室はありますが、施設内をアデルバート様が歩いていると、他の子たちの目が気になります。そのため、ローンノウル侯爵家が出資しているカフェで話をすることになりました。
高位貴族がお忍びで立ち寄れるように個室が用意されていて、私たちはその部屋に通されました。
小声でも話しやすいように並んで座り、私は今までに起きていなかったことが起きていることをアデルバート様に話をすると、話を聞いたアデルバート様は小さく唸りました。
「……レイガス伯爵家の子供の件は、そう言われてみれば……って感じだな」
「アデルバート様は最長で十歳までしか生きられていなかったのですから、忘れていても仕方がないことだと思います」
「いや。二回目からは赤ん坊の時から記憶があるからな。今みたいに十六歳まで生きていられているということは確実に良いことだけど、どうして今回は生きていられているのか謎だ」
「何かの条件を達成したから、殺されずに済んだのかもしれません」
「アンナと知り合えたことがそうなのかもな」
頷いたあと、アデルバート様は話題を変えます。
「そういえば、ミドルレイ子爵令嬢の件で思い出したことがある」
アデルバート様にその名前を出されて、私は昨日、レイガス伯爵夫人からその話を聞くことを忘れていたことを思い出しました。
うう。それどころではなかったとはいえ、物忘れが酷くなっているのでしょうか。まだ、体は子どものままなのですが衰えているのでしょうか。
何にしましても、アデルバート様との話を終えたら、レイガス伯爵夫人に確認しないといけません。
……と、今はアデルバート様との話に集中しなくては!
「あの、何を思い出したのですか?」
「アンナの時間軸と重なっていない時の出来事だと思うんだが、俺はミドルレイ子爵令嬢に殺されたことがある」
「はいぃぃっ⁉」
アデルバート様の衝撃発言に、私は大きな声を上げてしまいました。
アデルバート様は私よりも多い回数、人生が巻き戻っていますから、私の知らない過去があってもおかしくありません。今までは違う時間軸にいましたが、今、こうして同じ時間を過ごせていることが、私たちが巻き戻りを繰り返していた理由なのかもしれません。
「私がミドルレイ子爵家の話を聞いた覚えがあるのは、そのことに関係があるのでしょうか」
「でも、アンナには俺がミドルレイ子爵令嬢に殺されたという記憶はないんだろ?」
「アデルバート様は女性絡みで殺されていることが多いので、幼い頃から遊び人だったのかと思い込んでおりまして、絶対にそうではないとは言えません」
「他人事だったから、詳しいことまでは覚えていないってことかよ」
「そういうことでございます」
正直に頷き、すぐに頭を下げて謝ります。
「申し訳ございません!」
「謝らなくていいって。軽い男と思われていたのは心外だが、普通はそうだよな。今はアンナのおかげで生きていられるんだと思う。だから、本当に感謝してる」
「私の運命が変わっているのも、アデルバート様と知り合ったからだと思いますから、お互い様ということでしょうか」
微笑んで言うと、アデルバート様も笑みを浮かべて頷きました。




