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【書籍発売中】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら  作者: 風見ゆうみ


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18  今回の人生ではさせていただくことにします!

「ある日、メルルが自ら命を絶ったの」


 レイガス伯爵夫人の目から涙があふれ出して頬に流れ落ちました。流れる涙をそのままに、レイガス伯爵夫人は話を続けます。


「遺書が残っていて、私に対しての謝罪ばかり書いてあったの。メルルが死んだのは私のせいだと、メルルの母から責められたわ。元気がないことはわかっていて、気にかけていたの。でも、大丈夫だと笑ってくれていた。……彼女がそこまで苦しんでいたことを亡くなって初めて知ったの」

「嘘の噂が広まったとはいえ、それはレイガス伯爵夫人のせいではありません。信じていることを伝えていたのでしょう? それなのにどうして」

「私が……っ、メルルと夫の浮気を疑っていてメルルを憎んでいるとっ、伝えた人がいるの。そんなことは……っ、絶対になかったのに!」


 私はメルルさんと面識はありません。でも、レイガス伯爵夫人の涙を見て、一緒に泣いてしまいそうになるのを堪えます。

 それにしても、一体、どういうことなのでしょう。どうして、メルルさんは命を絶ってしまったのでしょうか。

 嗚咽をあげて泣き始めてしまったレイガス伯爵夫人を見つめ、ハンカチを差し出そうとした時、頭に浮かんだものがありました。


「まさか、お母様が関与しているのですか?」


 尋ねると、レイガス伯爵夫人は何度も頷くと時間をかけて話をしてくれました。

 お母様がメルルさんに直接話をしても、お母様のことをよく思っていないメルルさんが信じるわけがありません。メルルさん亡き後に調べた結果、お母様がメイド仲間を買収していたことがわかりました。買収されたメイドはメルルさんに『あなたの前では言わないけれど、奥様はあなたと旦那様が浮気していると思っていて、あなたを憎んでいる。そのせいで夫婦喧嘩を毎日しているわ』と言ったそうです。

 最初は信じていなかったメルルさんでしたが、『死んでほしいくらいに憎んでいるだなんて、本人に正直に言えるわけがないでしょう』と言われ、メルルさんの心は追い詰められてしまったのです。


「買収されたメイドはお母様からそう言えと言われたと話してくれたのですよね。それなのに、警察に証言はしてくれなかったのですか?」

「警察署に向かう途中で馬車が襲われたの。たくさんの死傷者が出たわ。そしてその時に、メイドの姿が消えてしまった。十年以上経った今も行方不明よ」

「……ということは」


 人知れず消された可能性が高いですね。

 私は口には出しませんでしたが、夫人はわかってくれたようでした。


「メイドが失踪したことで私がメルルを殺し、それを知ったメイドも殺したのだろうと誹謗中傷を受けるようになったわ。でも、私はそんなことはしていない!」


 夫人は叫び、顔を両手で覆いました。

 自分が無実であることを証明するために、行方不明になったメイドを必死に捜したそうですが見つからず、証人がいないためお母様を告発できないでいる内に、お母様のお腹に命が宿ったそうです。

 レイガス伯爵夫人はメルルさんのことで、精神的に参っていて、お子さんができなかったため、お母様は勝ったと思ったのでしょうか。

 

『子供を生まないなんて親不孝者ね』


 お母様はとある日の社交場で、レイガス伯爵夫人に言ったそうです。


『子供を生めない人もいるし、生まない人もいるわ。人を貶めようとする人のほうが親不孝ものだわ』

『そんなことはないわ。跡継ぎを生まないことが一番の親不孝だわ』


 言い返されたお母様は、そんな言葉を吐いて去っていったそうでした。

 お姉様が生まれたあと、跡継ぎになる男の子がほしかったのは、家のためかと思っていました。でも、実際は男の子を生んでレイガス伯爵夫人にマウントを取りたかっただけかもしれません。本当にくだらない生き方をしているなと思いました。


****** 


 話し終えて少し経つと気持ちが落ち着いたのか、レイガス伯爵夫人は苦笑して話しかけてきます。


「取り乱してごめんなさいね。私はあの女に復讐したい。復讐の手段として、あの女がいらないと言った娘が本当はどれだけ優秀な娘か知らしめて後悔させてやりたいの。あなたに失礼なことを言っているのはわかっているわ。でも……」

「かまいません。私を利用してください」


 私は迷うことなく、力強い口調で答えました。


「……本当に良いの?」

「レイガス伯爵夫妻が私の両親になってくれるのであれば、アデルバート様との婚約もできますし、ディストリー家と縁が切れるというメリットがあります。娘にしていただけましたら、あんな子だなんて、二度と言わせないように優秀な娘になってみせます」

「そんな……、アンナという名前は……」


 レイガス伯爵夫人は、アンナという名の意味に気づき涙を流してくれたのでした。

 私の名前の由来はあまり、思い出さないようにしていました。

 私に名前を付けてくれたのは両親ではありません。私が生まれてすぐに名前をどうするか聞かれたお父様は『あんな子供はいらん!』と叫び、お母様も『捨ててもいいくらいなのに名前は必要? あれ、とか、これ、とかでいいんじゃない?』と言ったそうです。

 そんな風に言われた私を可哀想に思った当時の執事は『アンナ』という名前が流行っていたことと、とても可愛らしい名前でもあると思い、アンナと名付けてくれたのだと、退職する時に教えてくれたのでした。

 話を聞いた時はどうして、そんな嫌なことを話すのかと思いました。でも、今思えば、執事は家族に情をかける必要はないと言いたくて教えてくれたのでしょう。

 裁かれなかった罪を明るみにしなければなりません。

 そして、今までの人生ではできなかった家族から私への仕打ちのお返しを今回の人生ではさせていただくことにします!

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