表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら  作者: 風見ゆうみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/55

17  何があったのですか?

「なぜだかわからないけれど、私のことを嫌っているのよね」

「きっと、レイガス伯爵夫人がお美しいからだと思います」


 お世辞は抜きにして、レイガス伯爵夫人はスタイルが良く、とても整った顔立ちをしているため、きっと結婚前から異性に人気が高かったのでしょう。お母様はそれに嫉妬していたのかもしれません。


「嬉しいことを言ってくれてありがとう」


 柔らかな笑みを浮かべて、レイガス伯爵夫人は話を続けます。


「今、あなたの実家が大変なことになっているのは知っているわよね?」

「はい。使用人がどんどん辞めていると聞いています」

「そうね。だから、最近のあなたのお母様はお茶会が開かれる噂を聞きつけると、何とか呼んでもらおうと必死なの」

「……ど、どういうことなのでしょうか」

「助けてもらおうとしているみたいよ」

「助けてもらう?」

「ええ。ボス公爵家とどうにかして連絡を取りたいみたいね」


 どうして、公爵閣下と連絡を取るためにお茶会に行こうとするのでしょうか。

 少し考えてから、答えを思いついて口にします。


「お母様はボス公爵夫人と仲良くなろうとしているのでしょうか」

「そういうことだと思うわ。公爵閣下のことだから、あなたのお母様の動きに気づいていないわけがないことはわかっているの。なら、なぜ、私があなたをここに呼んだのか、なんだけど」


 レイガス伯爵夫人は言葉を区切ると、温和な笑みを消して厳しい表情で口を開きます。


「あなたが学生の間は多くの人が助けてくれるでしょう。でも、卒業したら別だわ。あなたのお母様の執拗さを私は身を以て知っているの。だから、あなたに提案したいことがあるの」

「提案ですか」


 どんなものかはわかりませんが、敵は同じですから私にとって悪い話ではなさそうです。そう思って見つめると、レイガス伯爵夫人は口を開きます。


「ローンノウル侯爵夫人から話を聞いたのだけど、あなたはアデルバート様から婚約を申し込まれているのよね」

「……はい」

「婚約関係を結ぶには親の許可が必要だから躊躇しているというのは本当かしら」

「本当です」


 頷くと、レイガス伯爵夫人は大きなため息を吐きます。


「私は今まであなたのお母様のせいで、嫌な思いをしてきた分のお返しがしたいのよ」


 そして、レイガス伯爵夫人は笑みを浮かべると、こう言ったのです。


「うちの子にならない? あなたのメリットは嫌な両親と縁が切れること。私のメリットはあの女に精神的な苦痛を与えられること」


 レイガス伯爵夫人の様子から、お母様がよっぽど酷いことをしたのだということが伝わってきました。


「有り難い申し出ではありますが、そこまでしていただける理由がわかりません。よろしければ、母とどのようなことがあったのか詳しくお聞かせ願えませんか」


 お願いすると、レイガス伯爵夫人は私のお母様がレイガス伯爵夫人にした、人として最低な話をしてくれたのでした。

 お母様がしていた学生時代の嫌がらせは、陰口を叩いたり、嘘の噂を流したりとレイガス伯爵夫人にしてみればくだらないもので、相手にする気にはならなかったとのことでした。

 お母様が嫌がらせの域を超えてしまったのは、レイガス伯爵夫人になってからだそうです。

 レイガス伯爵夫人はお母様よりも早くに結婚したので、お母様はそれが気に食わなかったようで、お父様との結婚を早め、レイガス伯爵家よりも盛大な式を挙げたそうでした。


「それまではくだらないことだと思って気にしていなかったの。盛大な式を挙げようが挙げまいが、幸せになるかどうかは別だから。それよりも許せなかったことがあったの」

「何があったのですか?」

「私にはメルルという親友がいたの。メルルの母親が私の家のメイドをしてくれていて、同じ年だからと両親はメルルと私を遊ばせてくれていたの」


 親友がいたという言葉が引っかかりましたが、口を挟まずに先を促すと、レイガス伯爵夫人は一呼吸置いてから、話を続けます。


「主人とは当時から上手くやれていたし、そのうち、子供が生まれて幸せな日々を送っていくものだと思っていたの。でもね、ある日、社交場で私の夫とメルルが逢引きしているという噂が流れていることを知ったの」

「レイガス伯爵夫人はどうやってその噂を知ったのですか? 匿名の誰かが密告してきたとかですか?」


 あなたの旦那様がメイドと浮気しているという噂が流れていますよ、なんて、普通の人は言いにくいはずです。言えるとしたら、よっぽど親しい方になると思うのですが――


「教えてくれたのは、あなたのお母様よ」

「……申し訳ございません」

「あなたが謝ることじゃないわ」


 レイガス伯爵夫人は肩を落とした私を見て苦笑します。


「話を続けるわね。私はすぐに他の友人に確認したの。そうしたら、噂が流れていることは確かだけれど、誰もそんなところを見たことがないし、どうせ、あなたのお母様の嫌がらせだろうと思って無視していたそうなの。私もそうだと思ったけれど、一応、夫に確認してみたわ。夫はそんなことはしてないと否定して、本格的に噂の出どころを確かめることにしたの」


 レイガス伯爵夫人はメルルさんにも話が伝わるだろうと思い、旦那様であるレイガス伯爵と相談して、メルルさんとレイガス伯爵の噂が社交場で流れているという話をしておいたそうです。メルルさんは『わたくしが奥様を裏切るわけがございません!』そう、はっきり言ってくれたこともあり、レイガス伯爵夫人は噂は作られたものなのだと確信して、夫と親友を信じました。

 これからどうしていくか考えていた時に、ある事件が起きたのだそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ