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【書籍発売中】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら  作者: 風見ゆうみ


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14  お姉様とお幸せに

 始業式の日の朝、アデルバート様と掲示板で同じクラスであることを確認したあと、一緒に教室に向かいながら、両親から連絡が来たことを話しました。


「アンナの両親は、俺がアンナとの婚約を望んでいることを知ったのかもしれないな」

「そうかもしれません。気を遣っていただいているだけですのに、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「気を遣ってるわけじゃない。そのほうがお互いに都合が良いだろ」

「待っていただけるのはありがたいんですが、アデルバート様はもうすぐ社交界デビューですし、パートナーが必要になってくるかと思いますけど、そちらはどうされるのですか?」

「一人で出席するだけだ」


 アデルバート様の女性不信は相変わらずです。

 事故死の時もありますが、大半が女性に逆恨みされて殺されていますから余計にでしょう。アデルバート様も同じ人に殺されないようにしていたから、毎回、死因が変わっていますしね。


 全ての女性が苦手なわけではないので、学園生活もそこまで大変ではないようです。でも、社交場となると、婚約者がいない今の状態では、我こそ婚約者にという女性が、アデルバート様に群がるのではないかと心配です。

 そう思うと、やはり、婚約のお話を受けるべきでしょうか。でも、そうなると、お姉様が奪おうとするかもしれませんから悩ましいところです。


「そういえば、ミドルレイ子爵家から釣書がきた」

「……ミドルレイ子爵家?」


 聞き覚えがあり、それが何の話で覚えているのか記憶を探ろうとしていた時に、背後から声をかけられました。


「おはよう」


 振り返ると、そこには爽やかな笑みを浮かべた、ロウト伯爵令息が立っていたのです。


「久しぶりだね」


 ロウト伯爵令息は後ろで一つにまとめた金色の長い髪を揺らしながら近づいてくると、私に話しかけてきました。


「おはようございます。お久しぶりです。お姉様とのお話は聞いております。婚約、おめでとうございます」


 私にとってはどうでも良いことですが、一応、義理の兄になる方です。一般的な挨拶は必要だと思い、カーテシーをしました。

 今までの人生ですと、お姉様とロウト伯爵令息は卒業してすぐに結婚しました。そして、その一年後に今のロウト伯爵が亡くなり、跡を継いだのです。ロウト伯爵の死因は、どの人生でも病気でお亡くなりになったという記憶しかありません。

 ……そうです。ロウト伯爵を助けたらどうなるのでしょうか。今までは自分やエイン様、お姉様のことしか考えていませんでしたが、これも新しい選択肢です。

 そんなことを考えていますと、ロウト伯爵令息が言います。


「ありがとう。挨拶ができなかったから、今、話せて良かったよ」

「家庭の事情でご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません」

「仕方がないよ。色々とあるみたいだからね」


 ロウト伯爵令息は苦笑して首を横に振りました。


「あの、私に何か御用でしょうか」


 ロウト伯爵令息はお姉様と同い年です。一つ下の学年は私たちとは校舎が別ですので、わざわざ私に話しかけに来たのだと判断して聞いてみました。


「用っていうか、君は僕の妹になる人だから、ちゃんと挨拶しておきたかったんだ」

「それはどうもご丁寧にありがとうございます」


 一礼したあと、ちょうど良い機会なので気になっていたことを尋ねてみます。


「あの……、せっかく、ご挨拶に来ていただいたのに失礼な質問をしてもよろしいでしょうか」

「何かな」


 ロウト伯爵令息は笑みを絶やさぬまま、首を傾げました。許可が下りましたので遠慮なく聞かせてもらうことにします。


「どうして、お姉様と婚約したのですか?」

「どういうことかな?」

「そのままの意味です。お姉様と婚約するメリットがあるようには思えないのですが」


 ロウト伯爵令息は目を瞬かせたあと、なぜか声を上げて笑い始めました。


「笑うような話をしたつもりはないのですが」

「ご、ごめんね。あはは。仲が悪いっていう話は本当なんだなって思ってさ」

「お姉様が叩いたことがきっかけで、私が施設に入ったことをご存知ないのですか?」

「もちろん、知っているよ。だけど、ミルーナはとても優しい子なんだ。君を叩いてしまったことをとても反省しているんだよ。それに、もう、六年も経っているじゃないか。だから、許してあげてほしいんだけど、駄目かな?」

「……申し訳ございませんが、ご期待に沿うことはできかねます」


 冷たい口調で答えると、ロウト伯爵令息は眉尻を下げて頷きます。


「そうだよね。本当にごめんね。そんなに簡単に許せることじゃないよね。でもさ、ミルーナは僕に会うたびに、後悔しているって泣いているんだよ」

「ロウト卿、自分の教室に行ったほうがいいんじゃないのか」


 アデルバート様が促すと、ロウト伯爵令息は慌てた顔になりました。


「そうですね。呼び止めてしまい申し訳ございませんでした。じゃあ、アンナ、またね」

「お姉様とお幸せに」


 もう、関わり合いになりたくありませんので、私は「また」という言葉を返す気には、どうしてもなりませんでした。

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