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【書籍発売中】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら  作者: 風見ゆうみ


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12  良い方向に動くはずです

「騙したのね!」


 家に帰るなり、玄関で待ち構えていたお姉様が持っていたシルバートレイで何度も私を叩いてきました。 シルバートレイというのは、メイドがお茶やお菓子を運ぶ時に使っている丸い銀色のトレイです。


「許せない! アンナの分際で!」

「……っ! 痛いですっ!」


 子どもの力ですが、叩かれれば痛いです。


「エイン様はアンナは自分のことなんて好きじゃないって言っていたわ! この嘘つき!」


 さすがのお姉様も真実に気づきましたか。何も考えていないだろうと馬鹿にし過ぎていました。

 私は頭と顔を守るため、必死に手や腕で防御します。周りにいる使用人や兵士は、お姉様のヒステリーが始まったと思っているのか、止めもせずに傍観しているだけです。

 お姉様に手や腕をバシバシと叩かれながら考えます。この暴力は、命を守るための証拠を作れるのではないでしょうか。


「痛いです、ごめんなさい! やめてください!」


 泣き真似をしていると、息を荒くしたお姉様は疲れたか叩くのをやめて去っていきました。メイドたちも何もなかったように仕事に戻っていきます。

 部屋に戻ったあとも、叩かれた腕や手首の痛みが治まらず、勉強に集中できませんでした。

 でもきっと、この痛みは私にとって良い方向に動くはずです。そう信じて、なかなか引いてこない痛みに耐えたのでした。


******


 次の日の朝、腕を確認してみると、私の思い通り、たくさんの青あざができていました。

 制服は自分で着替えますし、長袖シャツのため家の人間には気づかれずに学園に向かい、私はシモン先生に助けを求めました。

 青あざを見た先生は血相を変えて、私を学園の医務室に連れて行き、常駐の先生に診てもらうように手配してくれました。

 緊急の職員会議が行われ、家族が私を虐待していると認識されました。確認をされた両親は子どもの喧嘩だと言いはりましたが、それを止めなかった使用人たちの対応もありえないことです。

 お姉様が持っていたシルバートレイは有名な商品らしく、対象年齢が十五歳以上のものだったので、どうして、九歳のお姉様に買い与えたのかということも問題になりました。

 先生たちは、このようなことがまた起きる可能性があり、次は命を奪われてしまう可能性もあると判断したため、虐待されている子供を守るための支援団体に連絡を入れてくれました。

 その後、両親は厳重注意。お姉様は十日間の謹慎となり、私は貴族の子供ばかり集められている私設の保護施設に預けられ、そこから学園に通うことになったのでした。

施設に保護されてからは、家族やエイン様たちと関わることはなくなりました。というのも、家族は自分たちのことで精一杯で、私にかまっている余裕がなかったからです。

 先生たちには守秘義務がありますので、生徒の家庭の話を外部に話すことはできません。ですが、アデルバート様含む、クラスメイトの両親が社交界で自分の子どもが私から聞いた話として私の家族の話をしてくれたのです。

 瞬く間に話は広がり、多くの貴族に話が行き渡りました。お父様たちは噂の火を消すために必死になりました。

 屋根裏部屋で暮らしていたなんて、アンナの嘘だと言い張り、お姉様からの暴力についても、兵士や使用人たちが報告しなかったから、自分は知らないと言ったそうです。

 普通ならば大人の言うことを信じるでしょう。ですが、私は賢い子どもとして有名です。大人の言葉よりも賢い子どもの言葉を信じる人が多数だったのです。

 苦肉の策として多くの使用人や兵士を解雇しました。突然、解雇された使用人たちはお父様たちを訴えようとしましたが、裁判をするには費用がかかります。それに勝てたとしても、それで一生暮らしていけるようなお金がもらえるわけではありません。子どもが虐待されているのに見て見ぬふりをしていたという不利な点もありますので、解雇が不当かと言われるとそうでもないと判断したそうです。

 使用人や兵士たちのその後は、実家や奥さんに養ってもらったりして、新たな職を探しているとのことです。

 紹介状がないどころか、虐待を見て見ぬふりをしたことは貴族の間で知れ渡っていますから、雇ってくれる貴族がいるはずがなく、使用人や兵士にはもう二度と戻れないだろうと保護施設の職員の人が教えてくれたのでした。

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