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ここは日出ずる国  作者: 銀河乞食分隊
南海鳴動
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南シナ海 激突

遂に戦端は開かれた。

 海南島は空襲を受けている。

 海南島の飛行場は三亜郊外に軍民共同の海南島飛行場が有り、他に二ヶ所の小型機用飛行場が有る。英仏の最後通牒を受け急ピッチで拡大をしたのだが、完成には遠かった。

 その各基地から電探に映る大編隊に向けて迎撃機が次々と発進していった。

 本土外ではサイパンと並ぶ重要拠点で有り、陸海共同で防衛に当たる。

 仏印のフエやダナンからなら二百キロほどしか無い。海南島も仏印も高いところにレーダーを置き少しでも遠くから捉えようとしている。特に海南島基地が有る三亜手前には山脈が有り高所に大出力電探を設置。仏印側海岸付近まで見えた。他には東方と海口に電探を設置。こちらは対岸を刺激しないよう大出力では無い。東方の電探が探知して直ぐに、三亜の大出力電探が仏印の基地を発進して間もない編隊を捉えたのが四十分前。



「飛行中の全機。六十四戦隊、加藤だ。陸軍機はハノイ方面から来襲する敵機を迎撃せよ。海軍機はフエ、ダナン方面から来襲する敵機を迎撃せよ」


 陸軍航空隊の加藤建夫中佐は最近とみに良く通話が出来るようになった無線機を通じて命令をした。自分ももちろん隼を駆って空中に在る。

 今週の空中指揮は陸軍の番だ。自分の時にこのような事態になって、いつも以上にやる気がみなぎる。

 余裕で迎撃態勢に入ることが出来た。ただ敵機数が予想以上で有り、迎撃網をかいくぐって爆撃機が海南島基地を爆撃するかも知れない。



 

「海軍航空隊。海南空、新郷だ。海軍機は洋上に出てフエとダナンから来る敵機の相手をする。間違えて陸軍さんを手伝いに行った奴は一週間飛行作業禁止だ」


「「「「「!!!!!!」」」」」


 すさまじい抗議の声が聞こえた。皆早めに片付けて残った獲物をぶんどりに行く腹だったんだろう。

 だが向こうは名にし負う加藤建夫中佐率いる飛行隊だぞ。もう一つは、かわせみ部隊という横空みたいな連中だ。下手をするとこちらへ手伝いに来かねない。




 だがお互いにそんな余裕は無かった。敵機が多すぎた。飽和攻撃だろう。最新情報よりも機数が多い。

 海軍の零戦が、陸軍の隼が大空を舞う。キ-44が突き刺す。キ-61も突き刺す。それでも敵機は三亜の基地攻撃をしようと前進を止めない。

 かなりの機数を撃墜したがそれでも侵入に成功した爆撃機が爆撃を始めた。





 海竜の護衛任務を割り当てられた初霜は二十ミリ機銃と三十ミリ機銃を撃ちまくっている。

 主砲で撃ってみたが、無駄だった。そもそも平射砲なので照準装置も対艦専用だ。航空機など狙うように出来ていない。機銃の邪魔になるので航海位置に戻してある。砲側に上がっていた砲弾も戻させた。



 発見は敵味方ほぼ同時だった。どちらの艦隊も電波管制を敷いており、レーダーは作動させていない。索敵機と陸上機の目が頼りだった。

 その時点で電波管制解除をし電探を作動させている。


 一航戦と二航戦が攻撃隊を発艦させ直援機を上げたと思ったら、電探に映った敵機がやって来た。

 後で判明したことだが、ホーカー・シーハリケーン、ブラックバーン・スクア、フェアリー・ソードフィッシュの編隊だった。総数百十機が押し寄せてきた。

 電探誘導された直援機が敵編隊に襲いかかる。だが直援機の数が少ない事もあってなかなか編隊が崩れない。

 それでも双眼鏡で見ると結構落ちているようだ。やがて定められた艦隊防空圏に入ってくる。この時半分程度に減っていたと思うのは贔屓目なのか。

 全員、初めての実戦だ。緊張しているだろう。普段の訓練通りの力を出してくれればいいが。

 防空指揮所にいる初霜艦長、脇坂少佐は祈る。


「砲術、目標敵雷撃機だ。間違えるなよ」

『はっ、目標敵雷撃機。てー!』


 主砲が発射される。六門斉発だ。敵編隊の遙か向こうで炸裂した。信管の調定が合っていない。もう一回撃った。同じだ。


「砲術、主砲撃ち方止め」

『艦長』

「邪魔なだけだ。機銃のみに注力せよ」

『はっ。装填済み砲弾を撃った後、主砲撃ち方止め』


 もう一回撃ったがやはり同じだ。まるっきり合っていない。


「砲術士。三十ミリは降爆をやれ。二十ミリは雷撃だ」

『了解。三十ミリ降爆、二十ミリ雷撃』

「とにかく撃ちまくれ。今の主砲で分かった。狙い撃っても当たらん」

「上空四時敵機来ます」

「面舵用意」

『おもかじよ~い』


 敵急降下爆撃機を見ると腕はいいのだろう。腹の据わった飛び方をしている。こちらへ突っ込んできた。

 三十ミリは撃ち続けるが当たるのか?射弾が止まった?なんだ?それより敵機だ。


「面舵一杯」

『おもかじいっぱーい』


 さすがに丁寧に作られた艦の動きは速い。一気に向きを変える。

 敵急降下爆撃機が投弾するが見ても位置が悪い。左舷の離れた所に水柱が上がる。一本、二本、三本。爆撃は終わった。


「舵戻せ」

『もどーせー』


 熟練の操舵手はこちらの号令に合わせて艦を自在に操る。

 雷撃機が来る。初霜は二航戦の護衛だ。母艦に雷撃を喰わせない。

 二十ミリが撃ち始めた。

 当たらないものだ。結構のんびり飛んでいるくせに。100ノットくらいか?突入速度150ノットを超える九十七艦攻で訓練しているのにな。やはり実戦は違うのだ。

 海竜は派手だな。撃ちまくると言うのはあのことを言うのだろう。敵雷撃機がポトポト落ちる。

 空襲は終わった。初霜戦果無し。被弾損傷無し。


 第一機動艦隊全体では被害はあった。

 飛龍が飛行甲板後部に爆弾を食らい火災発生。着艦制動装置が損傷。飛行甲板の損傷も有り着艦不能。

 雲龍が魚雷一発被雷。バルジのおかげだろうか。発着艦可能である。全速は出せない。

 夕暮は敵雷撃機を撃破したはいいが、艦尾に激突された。抱いていた魚雷が爆発し爆雷が誘爆。艦尾が吹き飛ばされ浸水止まらず。総員退艦命令が出た。

 日向は急降下爆撃を被弾したが砲塔天蓋に命中、戦艦の主砲弾防御だ。五百ポンド爆弾ごときで貫通出来るわけも無かった。

 青葉、後部主砲付近に爆弾一発が命中。後部主砲使用不能。左舷高角砲一基使用不能。

 金剛、右舷ケースメイト付近に爆弾二発命中。右舷副砲三基使用不能、右舷高角砲二基使用不能。機銃数基使用不能。右舷対空火力激減。

 蒼龍、海竜、伊勢に至近弾。若干の浸水以上の被害無し。


 百機もの攻撃を受けてこの程度で済んだというか、あの程度の性能しかない敵にこれだけ受けてしまったというか。

 まさか雷撃機が複葉機だとは思わなかった。急降下爆撃機もあまり高性能ではないようだし。


 帰ったら、戦訓として機銃の増設と装填弾数の増加を上申しよう。三十ミリ機銃は装填数三十発で直ぐに弾切れだ。二十ミリ機銃は装填数六十発で弾切れは少なかった。



 第一機動艦隊の戦果は大きかった。敵もレーダー誘導で迎撃機を上げてきたが護衛の零戦に機数でも空戦性能でも圧倒されてしまう。フェアリー・フルマーでは最初から勝負にならなかった。シーハリケーンが数機上がってきたが数の暴力の前に沈黙した。

 

 第一機動艦隊を発艦した攻撃隊は、零戦四十六機、九十九艦爆五十二機、九十七艦攻六十四機、計百六十二機だった。

 二十機も上がってこない敵迎撃機は文字通り叩き落とされた。それでもシーハリケーンが健闘して一機撃墜の戦果を上げたが、そこまでだった。

 後は空母と戦艦めがけて突っ込むだけだった。

 急降下爆撃機は空母めがけて逆落としに降下していった。見事な一本棒である。やや遅れて艦攻が飛行甲板並みの高度で飛び雷撃をしかける。

 一部の零戦は対空砲火めがけて機銃掃射をしている。


 その一本棒から爆弾が投下された。降爆よりも雷撃を避けたいのだろう。空母は艦首を艦攻に向けようとしている。

 至近弾、命中、命中、至近弾、外れ。三機編隊ふたつの六機だったが、一機は対空砲火で散った。確かに飛行甲板に命中したのだが、爆炎が上がったのみで平然としている。装甲部分に命中したらしい。

 その空母は雷撃も見事な操艦で凌ぎきった。

 しかし、他の二隻の空母はそこまで運命に好意を寄せられていなかった。

 アークロイヤルに爆弾二発命中。そこへ魚雷三本命中。

 イラストリアスには飛行甲板先端に爆弾一発命中。魚雷二本命中。他三発爆弾が命中したが装甲部分で大きな被害にはならなかった。

 戦艦はプリンス・オブ・ウェールズに攻撃が集中。爆弾四発、魚雷二発が命中。

 フランス戦艦ストラスブールに爆弾二発、魚雷二本が命中。

 巡洋艦はフランス海軍のトルーヴィルに爆弾二発命中。たったこれだけで大火災発生、行動不能になってしまった。

 デヴォンジャーには魚雷一本命中。左舷機関室が使えなくなってしまう。

 駆逐艦はグローウォームに魚雷一本命中、沈没。グローウォームはヴィクトリアスの盾になって被雷した。

 レオパールに爆弾一発命中、至近弾二発、魚雷一本命中。浸水が激しく行動不能。

 

 そこで攻撃隊は引き上げていった。


 帰ってきた攻撃隊はかなりやられた味方艦隊に呆然とする。おまけにどう見てもアークロイヤルはダメだった。傾斜が酷い。

 ヴィクトリアスに損傷していない機体は優先的に着艦するよう指示が出る。損傷機はイラストリアスに着艦だった。


 帰還機数五十五機、未帰還五十七機だった。



 帰還した第一機動艦隊攻撃隊は、煙を出している空母を見て慌てた。損害が少ない。撃墜されたのは戦闘機二機、艦爆八機、艦攻十二機だ。全部降りられるのか?


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