Mが崩れる日 Ⅲ
ロ日軍も強引にモスクワ突入。
「林大尉以下10機、これより離脱。秘匿目標へ向かう」
「指揮官機了解」
通話機から流れてくる飛行機同士の会話を聞きながら、ク7に乗る陸軍モスクワ強襲部隊隊長佐々木中佐は敵中枢に殴り込みに行く10機を羨ましく見た。
まだ対空砲が残っている可能性がある。モスクワ中心部への特攻は危険に思える。もっともこちらも飛行場という重要目標への強襲だ。危険度は高い。
なにしろ飛行場を確保しなければいけない。あそこら辺を撃ちまくって攻め込むだけの方が任務自体は楽かもな。しかも、動く車両があればグライダーをどかせという都合の良すぎる命令も付いていた。爆破した方が早そうだが、一応動く奴を探す振りはするか。なに、飛行機の邪魔にならなければいいのだ。細かくすれば邪魔にならんだろう。
「各員、装備の固縛と自身の固縛を確認しろ」
「「「はっ」」」
10機の秘匿目標攻撃部隊は機内でこんなやりとりをしていた。とても短い着陸地点へ艦上機まがいに極短距離で着陸しようというのだ。座席は全て後方を向き着陸時に掛かるGを少しでもマシな方向へ掛かるように配慮された。
ク7の後部には巨大パラシュートが取り付けられ、胴体両脇には逆噴射ロケットが取り付けられている。これらにより一応接地後50メートルでほぼ停止するようになっている。ロケットは最後機体の向きを変えるように予備も付けられている。ロケットによる方向転換は滑走中である程度の速度があれば可能だった。
四式特にも同様の装備が付けられているが、小型で操縦性も悪くないので建物の隙間から着陸できそうだ。
ただ、幅あるが長さが足りない着陸地点のために立てられた対策だが、大問題なのがその着陸地点両側に建物があることだった。そこでどちらかには最後の障壁となって貰うことにして、どちらかを吹き飛ばし低くなって貰うことになった。
だって邪魔だから。
大聖堂の方が小さくて破壊しやすいので爆撃して吹き飛ばす事になった。民間施設の上、宗教施設なので問題は無いかと協議したが、共産党では宗教を認めていないので活動はしていない。よって人はいないだろうと。もしいても、運の悪い人はいる物だ。避難しないに人が悪い。コラテラルダメージだ。等の意見で反対意見は少なかった。
それよりも博物館の所蔵品が大事だという意見も多かった。
ピンポイント爆撃となれば急降下爆撃機の出番である。今回の特攻には彗星8機が付いてきている。
「二小隊は突入せよ。間違うなよ、聖堂だぞ。博物館には落とすな」
「了解、突入します。目標、聖堂」
4機が突入する。50番は大げさだろうという事で25番通常をぶら下げている。動き回る船じゃ無い。陸上の固定目標だ。4機も行けば潰せるだろう。それに50番では破片が飛び散る範囲が広くなる。下手をすると赤の広場が破片で一杯だ。25番通常なら炸薬量も少なくそこまで派手に飛び散らないだろうという考えだ。
聖堂は3発で崩れ落ちた。残りの1発はとどめを刺した。
「二小隊、任務完了」
「見事だ。もっともあんな的を外すようじゃ母艦に推薦できんがな」
「母艦航空隊に推薦してくれますか」
「帰投後な。気を引き締めろ。まだ戦場だ。地上支援が残っている。対空砲火に喰われるな」
「「おう!」」
さて俺たちはどうするか?25番を抱えたまま待機だが、地上で呼んでくれんかな。
「モスクワ上空にある全機。こちらヤード。爆撃できる機体は存在するか」
設定されていた共通周波数で誰何が有った。英語で聞いてきた。符丁はヤード。英仏軍でもイギリス軍か。良し応えてやろう。
「ヤード。こちら日本海軍六二五航空隊。25ば‥ソーリー。500ポンド装備。4機。ただし、アーマーピアシング」
「こちらヤード、了解。地図で見てくれ。クレムリンより1マイル北で交戦中の部隊が支援を求めている。到着後発煙筒で位置を知らせる。後は現地で交信してくれ。周波数は****khz。以上」
「了解、周波数は****khz。ただちに向かう」
「サンクス」
ニーボードに置かれた地図を見るまでも無かった。クレムリン上空にいるのだ。
「一小隊、続け。二小隊は引き続き上空哨戒」
「「了解」」
偵察員が交信している。
「中井中尉。戦車が建物にいて地上では撃破困難だそうです」
「発煙筒は?」
「建物前になんとしても置くそうです」
「わかった」
しばらくして発煙筒の煙が上がった。
「よし、行くぞ。3番4番は待機。2番続け」
「「了解」」
目標めがけて降下を開始した。
[ホンジツ テンキセイロウナレドモ ゴミオオシ]
「電文入りました」
それは先行して障害物を排除する役目の彗星部隊からだった。無電でなくで無線電話で良いと言ったのにな。わざとらしい。20キロも離れていないのだ。わざわざ電文というのは外連味が多いのではないかな。
針路が定まり降下していく。もうじき牽引機から離脱する。わずかな衝撃と共に機速がいきなり落ちる。頼むぞ、操縦員。
10機のク7は人員輸送用の8機が左右に分かれ中央は軽戦車を載せている2機のスペースとして開けておくことは事前に定められている。
ク7は着地寸前にパラシュートを展開。きちんと開く。不安だった。接地抵抗とパラシュートでいきなり速度が落ちる。後ろ向きに乗っている突入部隊は良いが、前を向いている操縦員は大変だろう。そしてロケット噴射の轟音が聞こえると見事に博物館の左に突っ込んだ。主翼を引っ掛けたようだ。轟音と衝撃と供に機体が止まった。
ロ日連合軍が初めてモスクワに踏み込んだのは、赤の広場だった.
「総員、降りろ。急げ」
後続機が突っ込んでくる前に全員出なければいけない。ベルトを外すのももどかしい。装備を確認する間もなく乗降ランプから機外へと飛び出す。見ると右でも博物館橫に機体が突っ込んでいる。
こちら側の門は2カ所しかない。一刻も早く確保する必要があった。事前の打ち合わせ通り、敵に気をつけつつ爆薬を持った兵が門に取り付き爆破する。
ステンMK-Ⅳを撃ちまくりつつ、クレムリン宮殿内部に侵入する。
後は出たとこ勝負だ。実際情報は少なく、誰かを捕まえて速やかななる尋問(人に言えないやり方で)をしてどこに何があるか確かめなければならなかった。
古来この手の建物には偉いさん用の緊急脱出口がつきもので情報にはあるが増やしているといけない。
早く戦車に来て欲しい。まさかクレムリンの中に戦車は居ないはずだ。対戦車銃が有れば拙いが、無い事を祈ろう。
次回更新未定。早い内に。




