Mへ至る道 Ⅱ
短いです。
[Mへ至る道]は若干遅れ気味だったが、初期目標を達成したと言って良かった。
英仏軍はトヴェリを落とし、陣を構えた。現地の飛行場をできるだけ拡張していく。
リガを出た混成軍もスモレンスクを激闘の末落とした損害は酷かった。モスクワ西の重要地点であり、防備も堅かった。結果ヴァジャマまで進撃できたが、部隊の損耗率が酷くモスクワ突入の余力があるとは思えない。
参謀達の表情は明るいが、実際に敵と相対する兵士達は複雑だった。トヴェリで有った事は全軍に緊急な戦訓として伝達されていた。今まではそんな事例は無かった。追い詰められたソビエトが行った事だと。
自分が縛り付けられた子供を殺す。例え敵であっても躊躇われるものだった。更に参謀達は残酷な事実を伝えることにした。子供を助けようとして仕掛け爆弾にやられる事態もあると。トヴェリでは運良く作動しなかったが実際に数カ所有ったという。
前線兵士の対応は分かれた。無視して吹き飛ばす事に決めた者と、できる限り助けようという者に。
それらは上層部に伝わり、結局人員を増やして対応することになった。兵士の精神的な負担増による疲弊と時間をこれ以上取られたくない思いから本国に今以上の増派を要請した。練度はほどほどで良いので後詰めが欲しいと。
助けようという意思を持つ兵士が多いのに、司令部や政治家達はホッとした。そして後詰めとなるべく錬成中の部隊の中から優良部隊を引き抜き前線へ送る。
そして[Mへ至る道]後半が始まる。
英仏軍の今回の目標はモスクワ至近の都市クリン。混成軍の目標はクベンカ。ただ混成軍の現有戦力ではかなり厳しいと言わざるを得なかった。そのためクベンカは出来れば程度だった。
モスクワに近くなるほど物資が残されており正規軍も多い。抵抗が激しくなってきている。これまでのように餓えの恐怖は無い。航空戦力を主力にしたゴリ押しで進むしか無い。クリンとクベンカが選ばれたのは飛行場だった。モスクワに近くモスクワ防衛用としての飛行場であり、設備は整っている。新規開設よりも有る物を使う方が手っ取り早いのだから狙わない手は無い。
もちろんモスクワに近いだけにソビエト軍の反撃が有るだろう。ただ足となる車両を潰しておけば航空優勢の中、数十キロの距離を歩兵だけで前進できるものでは無い。ソビエト軍が信奉する戦場の神でも射程外だ。よほどの削りきれないほどいる大軍でなければ近づけないと思われた。
「道路に地雷が多数埋設されており、処理をしないと進めません」
「地雷か。そう言えばアレが来ていたな。フランス軍に頼んでM4戦車の地雷処理車を出して貰おう」
「そのように要請します」
そのM4は車体前面にローラーを取り付け回るようになっていた。ローラーには鎖が取り付けられブンブン回るのだ。普通の地雷には効果てきめんだった。対人地雷なら爆発しても鉄のローラーを破壊することは無い。精々鎖がちぎれるくらいだ。ただ、それでも排除できない地雷があり、工兵部隊が目を皿にして地面を這っている。ソビエト人民共和国は、先の少年縛り付けと共に自国内で地雷を使うなどなりふり構わない姿勢になってきている。
それでも圧倒的な航空優勢の中、進撃は続く。だがやはり、モスクワ西部方面は混成軍の現有戦力ではきついのかあまり進んでいない。
さらに兵力の少ない東部では進撃は止まっている。途中の都市への生活物資だけでも輸送体制がいっぱいに近い。とても進撃できる体制にはなっていない。
南部は補給については大丈夫だが、兵力不足であって進撃ははかばかしくない。
トルコは、スターリングラード手前で大規模な野戦陣地を構築し始めたと情報は入る。聞けば国内が危ういほどの兵力を注ぎ込んでいるとか。アストラハンを落とし、ヴォルガ川の河川交通を使えるようになったのは大きいらしい。
「左民家から銃撃!」
「退避!散開!」
「おい、スミス1等兵がやられた。助けに行く」
「バカ。止めろ、アレは囮だ。スミスは足を打たれて動けない。そこへ、のこのこ助けに行けば・」
ターン
「ぐあ…」
「ハミルトン!」
スミスを助けようとしたのだろう。ハミルトン2等兵がスミスの手前で倒れている。かすかに動いているので、息はあるのだろう。
「…」
「通信手、狙撃兵がいて動けんと小隊本部に通信」
「了解です。「・・・そうです。座標は・・・・」・・・「了解」」
「分隊長。5分後に装甲車が来てくれます」
「5分か。ケリー兵長とオーウェル2曹はあの辺りの民家後方に回ってくれ。どの民家かよく分からんが、狙撃手が逃げると面倒だ」
「「了解」」
5分と言ったが装甲車が来たのは8分後だった。装甲車が機関銃を撃ちまくりながら盾になっている間に、スミスとハミルトンを救出した。スミスは後方送り。もう軍務は出来ないだろう。負傷除隊だ。ハミルトンは残念だった。5分だったら、もしかしてハミルトンはと思うが、詮無い事だ。
狙撃兵は、逃げだそうとしたところをケリーとオーウェルによって射殺された。
英仏軍は損害を重ねながらもクリンを取った。他の方面ははかばかしくない。
やはり主役は我々だな。英仏軍はそう思った。
次回更新未定。近いうちに




