ソユーズⅡ
短いです。
ロ日連合軍は若干の遅れを出しながらも順調に進撃していた。補給が順調だったからだ。
南北アメリカから食料が届き、港湾からの輸送も鉄道・トラックとも十分な輸送力が確保されている。
これはひとえにアメリカの力だった。その自動車産業の力はヨーロッパ各国とロシア・日本を合わせても太刀打ちできないほどの生産力があった。具体的には戦場にあるトラックの5割がアメリカ製だった。後はイギリスが2割、ドイツが1割5分、フランスが1割、ロ日が5分であった。
ロ日に限ってはアメリカ製トラックが8割になる。他の戦車・装甲車等、戦闘用車両も入れれば全体に占めるアメリカ製車両は6割を超える。特に人気が有るのがウィリス社の4輪駆動車、ジープだ。各国とも4輪駆動車はあるが、軍隊が戦場で使うために考えられた実用性一点張りの使いやすさと性能は素晴らしいものが有った。
それでもBFJR連合主要各国は、生産力を必要以上に上げない。既に戦後を見据えている。国内産業がいきなりの需要減で疲弊・衰退するよりも、外部から購入して戦後の需要減と景気減速に備えたかった。
そんな後方の事情はどうでもいいとばかりに、ロ日連合軍としてはかなり潤沢な補給体制の元で進撃をしている。特にロシア軍向けの銃弾や砲弾は全てフランスとドイツで生産されていたので距離の問題は無かった。日本陸軍にしても、徐々に現地で購入できる兵器を採用し始めている。やはり地球を半周してくるのは兵站に負担が大きい。
ヴォロシロフグラードは工業都市で交通の要衝だけに抵抗は激しいと思われたが、やはり物資の逼迫で内紛が発生。
降伏勧告を突きつけた数時間後には降伏してきた。
これでヴォロネジまでドン川の河川輸送が現実となった。既に大発艇は大量に運び込まれている。鉄道、トラックに次ぐ輸送手段が確保された。
この物資逼迫による継戦力(特に食糧難)の低下はモスクワ以外の各地で発生しており、モスクワに対する反感は共産党を見限る形で現実となってきている。政治思想なんかよりも飯なのはどこでも同じだろう。一部の狂信的な共産党員を除けば、既にソビエトは死に体であることがわかってきたのだろう。
各地で戦況を印刷したチラシを空からばらまいており、ソビエト国民が共産党のプロパガンタ新聞やプロパガンタ放送の都合の良い発表では無く、事実を知ることもその流れに拍車をかけている。ちなみにソビエトのラジオは共産党が配布した物はチャンネルが2個で固定されて共産党の放送しか聴けない。ただ少数の国外品が流入しており、民衆はそのラジオでかろうじて外部の情報を入手していた。もちろん共産党にバレれば粛清対象であり極秘で聞いている。
ヴォロシロフグラードを落としたロ日連合軍の次の目標はポドゴレンスキーだった。
日本陸軍戦車部隊も進撃しているが
「進士。戦車が居ない」
「太田中隊長。戦車が居ないのはいいことじゃないですか」
「この野郎。俺は戦車戦がしたいんだ」
「[君子危うきに近寄らず]ですよ」
「俺は君子じゃ無い」
「自分は危険は回避したいですね。皆そうですよ、多分」
「俺はこっち(ヨーロッパ)に来てから二十発くらいしか撃ってない。それも戦車相手には五発だ」
「安全でいいんですよ。他の中隊には一発も撃ってない奴もいるそうですから。空から戦闘車両や陣地を殺ってくれれば、自分達は楽じゃ無いですか」
「俺に砲を撃たせろ~~~~~」
「勝手に撃つと始末書が大変ですよ」
「進士、お前が書け」
「お断りします」
ポドゴレンスキーも同じであった。飢えた住民と少数の正規兵。おざなりに残された旧式戦車。太田が撃つ前に他の連中が始末してしまった。残された少ない対戦車砲陣地や機関銃陣地も蹂躙された。
そして降伏だった。
ヴォロネジは目の前と言うには少し遠い140キロまで来た。が、ここで足止めになってしまった。食糧問題だった。ソビエト軍の焦土戦術にやられたと言えばそのものだったが、占領下においての住民慰撫は何よりも大切だった。シベリアと同じ問題に直面した。
これはレニングラード方面でも同じだった。あちらは人口が多く大変なようだ。ただ、こちら側はウクライナを始めとした食糧供給地であり、春小麦の刈り入れ時期という事もあって自給率は高い。冬小麦の刈り入れが終わり、冬小麦はあらから収奪していった。春小麦の刈り入れまで持つような食糧は残していかなかったが、それまで持たせれば後は楽になる。
だがその食糧問題による戦線の停滞がクリスマスまでに戦争が終わらない可能性を示してきた。これにはBFJR連合が困った。来年春までとなれば戦費がとんでもない程膨れ上がってしまう。ロシアの冬となれば、住民や兵隊が凍えないようにしなければならない。その維持費だけでも考えたくなかった。
ロシアの冬に勝つ気はなかった。ここに強引なモスクワ攻略戦が始まろうとしている。
次回更新、多分5月8日までには。
小麦の刈り入れ時期はクロップカレンダーを参考にしています。




