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ここは日出ずる国  作者: 銀河乞食分隊
平原騒乱
30/60

シベリア

クラスノヤルスク攻防戦 なのか?

 西でドイツ攻防戦が始まった頃、東でもソビエトを攻撃する準備が始まっていた。

 クラスノヤルスクまで直線で320キロのタイシェト郊外に造成された軍用飛行場に、ロシアと日本の航空機が続々と降り立っていた。

 歩兵や戦車などは更に先のボロジノに野営地を築き駐屯を始めた。この先にはクラスノヤルスクまで大規模な部隊が展開出来そうな場所は無い。

 新司偵が盛んに上空を飛び交っていれば、ソビエトも馬鹿ではないのでクラスノヤルスク周辺に戦力を集積し始めている。

 しかし、ソビエト中央にしてみればこちら側は2線級。陸軍戦力で大きく劣るロシアと日本である。現状に少し積み重ねれば問題ないという判断だった。それ以前に精鋭戦力をヨーロッパ正面に集めていたので、大規模な精鋭部隊を差し向ける余裕は無かった。勢い中央アジア系の戦力が集められた。そしてその部隊の装備は旧式装備が中心だった。

 戦闘機にYakは少なく、未だI-16が主力だった。戦車もBT-7が主力でT-34やKV-1はごく少数だった。

 さすがに戦場の神と信奉される大砲は、日本からすれば信じられない門数が用意されていた。



 後方のイルクーツクに置かれたロシア西部方面軍司令部で、二人の在地最高指揮官が会おうとしていた。

 この司令部は先日、BFJRロシア方面軍司令部も兼ねるようになっていた。名前だけで人員は同じだったが、そのうちイギリス人やフランス人が現れるだろう。


「ウラスチノフ中将閣下、お見えです」


 副官が報告する。


「入ってもらうように」


「了解」


 山下中将は長年のロシア勤務でロシア語を使っての日常会話は概ね話せるようになっていた。

 ウラスチノフ中将が通訳を連れていない。作戦細部の難しい話では無いだろう。


 副官がどうぞと言ってドアを開けた。


「やあ、山下中将。今いいかな」


「どうぞ。そちらへお掛けください」

「君、紅茶とジャムを。後人払いをな」


「畏まりました」


「悪いね」


「いえ、今日はどんなお話ですか」


「偵察機の報告を見た。意外に数が多い」


「でも旧式ですよ」


「分かっているだろう。山下中将。数は力だよ」


「確かにあの数の歩兵はやっかいですな」


「そうだ。あんな数の内、どれだけ捕虜になると思うと気が重くてね」


「作戦止めますか?」


「それは無い。新しく出来たBFJR司令部も期待しているようだ」


「そうですな。こちらが引きつければ西は楽になるでしょう。でもあの数が捕虜になったらどうします?」


「補給がな。シベリア鉄道1本だからつらいものがある」


「逃げてくれませんかな」


「アチンスクまでか?道沿いで200キロ近いだろう?着の身着のまままでは無理だな。これから急に気温が下がる。大軍が補給できる場所も無い」


「結末は見たくないですね」


「同意するよ。士気が著しく下がりそうだ」


「ではアチンスクまで1ヶ月で進出は無理という事で決定ですか。シベリア鉄道の破壊もしない方が良さそうですな」


「仕方ない。シベリア鉄道で少しでも効率よく逃げてもらう。でなければ我々の兵站が破綻する可能性がある。それでも大量の捕虜が出るだろう。我々の食料や衣服まで削ってでも捕虜に与えなければ、後でどんな事になるやら」


「我々は首の上に国際的な非難を浴びますか」


「ソビエトと違うという事を見せつけなければいけないのに、同じではな」


 ソビエトがウクライナや中央アジアから農産物を収奪して飢餓輸出をしたために、ウクライナや中央アジアで多数の餓死者が出たというのは、かろうじて脱出した人達から世界に知れ渡っていた。


「ではクラスノヤルスクで越冬ですな」


「そうだな。今は資材の集積を優先しよう。クラスノヤルスクの向こうは春になってからだ」


 もう勝った気でいる二人の将軍だが、質で圧倒しうるという考えがあり、それはある意味正しかった。

 クラスノヤルスクからボロジノ攻撃に飛んでくるソビエト軍機は旧式機が多く、いたずらに損害を増すばかりだった。ロシアや日本にはもうエースが何人も出ている。ただ数の力は恐ろしく、それなりに損害を被っている。

 

 空の戦いは圧倒的だった。ごく少数のYak以外は新鋭機に乗る日露のパイロットにすれば的でしか無かった。怖いのは囲まれた時と上からかぶられた時だ。油断してケツを容易に採られる者もいる。

 この時のキルスコアは2:1どころでは無く、最高だと15:1と言う信じられない数字がある。

 だが、戦闘機を阻止している間に少数の高速爆撃機Pe-2が阻止線を突破して損害を与えていた。数の主力であるSB爆撃機の多くは阻止線を突破できずにいた。 

 そして1週間もしないうちにソビエトの航空戦力は枯渇してしまった。

 

 ボロジノに野営していた日露連合軍に前進命令が出されたのはこの時だった。日に日に寒くなる。無意識なのか早くクラスノヤルスクを攻めたいのか。自然に行軍の足は速くなっていた。

 制空権は日露連合軍が持っているが、時たま超低空をIℓ-Ⅱが襲撃してくる。そいつは厄介だった。歩兵や戦闘車両にとっては難物だった。

 進撃経路が分かっているだけに、クラスノヤルスクに近づくと激しい砲撃が待っていた。相当数爆撃で潰したはずだが、残っていた門数も多かった。

 航空支援を要請し、頭上を数十機の味方機が通過していく。手を振っても分からないだろうが、手を振っていた。

 砲撃が散発化し再び前進が始まる。エニセイ河畔に着いた頃にはほぼ砲撃は無くなっていた。

 無人の野を行くほどでは無かったが、航空戦力の隔絶はそれに近い事を実現した。

 橋は落とされていた。シベリア鉄道の鉄橋でさえも落とされている。

 橋が落ちているのは想定済みなので、後方から持ってきた舟艇を展開しようとすると、向こう岸から撃ってきた。それもすぐに直協機が潰していく。

 後方からは野戦砲が市街地に落とさないよう向こうの山地を狙って派手に撃っている。こちらにはこの砲撃をいつでも市街地に落とす事が出来ると脅す。航空機がビラをまき始めた。


------------------

 降伏せよ。

 もしくは後方に待避せよ。

 後方に退避するなら追撃はしない。

 24時間待つ。

------------------


 ビラはロシア語の他、中央アジア語で書かれたものもあった。

 文盲の兵士が多い事を考えて、拡声器でもがなり立てる。内容は同じだ。各言語でがなる。

 

 

「三田分隊長、散発的ですが市内で銃声が聞こえます」


「確かに聞こえるが、こちらへの着弾は無いぞ」


「どうしたんでしょうね」


「さあな」


 しかし分隊長には経験があった。上等兵で2.26事件の鎮圧に向かった時だ。内輪もめが始まっていた。そこに鎮圧軍が有無を言わさず押し寄せて無駄に被害を拡大してしまった。


「小隊長の所に行ってくる。河田上等兵、後は任せる」


「了解です。お気を付けて」


「すぐそこだ。問題ない」


三田(みた)小隊長、三田分隊長、意見具申があります」


「なんだ三田(さんだ)軍曹、どうかしたか」


「はっ、市街地で銃声が聞こえますが内輪もめでは無いかと愚考します」


 三田は自身の経験を語った。


「そうか。つらかったな。意見具申理解した。上に具申する」


「ありがとうございます」


 報告は上に上がった。前線司令部でも内輪もめの可能性を考えていたが、経験者が言うのではと信じる気になった。


 数時間後、激しい銃撃音が市街から聞こえてきた。銃撃音が止むと、少しして高い建物の上で白旗が振られた。

 向こう岸には白旗を持った軍使らしい軍人が見えた。民間人を伴っている。


 緊急事態だった。



 前線司令部では司令のイワンコフ少将が焦れていた。


「イワンコフ少将、軍使が現れたと報告があります」


「軍使だと?」


「白旗を持って、渡河してきたそうです」


「今はどうしている」


「渡河地点で待たせてあると」


「すぐに会いに行くぞ。すべての後方に連絡を取れ。クラスノヤルスクは降伏したと」


「はっ」



 この降伏は、完全に想定外であった。

 軍の多くは撤退するものと思っていた。

 内実は撤退どころでは無かった。食料・弾薬共に逼迫し、あと数日で市内から食料が無くなりそうだったと言う。シベリア鉄道の列車は市内に無く、後方からの便は航空攻撃される恐れを理由に来ない。

 その中でモスクワから派遣された政治将校や共産党員が贅沢をし、クラスノヤルスク死守を命令していた。自分達は自動車を確保していてだ。

 見捨てられた。そう考えた一部の兵がそれに対して反抗を開始。それが引き金となって内紛に発達したと。

 結果として、クラスノヤルス駐留ソビエト軍は降伏し、住民は保護を申し出た。


 イルクーツクでは頭を抱えた。イルクーツクどころでは無くすべての日露で兵站に関わる者と政治家がだ。

 いきなり軍民併せて10万人近い人間が、兵站の負荷となった。しかも数日の内に食糧が尽きると言う恐怖。



 政治宣伝にはいいかもしれないが、実務者には悪夢でしか無かった。

ポチョムキン的なアレで、あるいはドイツ海軍の反乱か


三田の一人は強引にさんだと読ませます。

軍曹と言えばサンダ*スです。


降伏は、書いていてアチンスクまでの後退戦を書きたく無くなったためです。

餓死者と凍死者の山を書きたくは無いと。根性が足りません。


次回、不定期です。


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