仏印戦線 海南島航空撃滅戦 ハノイ航空戦の終わり
あっさり目ですみません
ハノイへの航空撃滅線は上手くいっていた。先に手を出してきた英仏は集積した航空戦力をその日の内にかなり削られ、フエとダナンでは少数展開していた航空機もやられたかハノイへ呼び寄せた。
そこへ畳み掛けるようにハノイ強襲であった。
やられた方はたまらない。
おまけに英仏の戦闘機では航続距離が足りず、三亜基地はハノイから遠かった。先日の戦闘機もフエとダナンから飛んできていた。
既にハノイ周辺の飛行場には機影が見えず、いても空中退避していると思われた。
「なあシン」
「んだよ。ミッキー」
「暇だ」
「いいことじゃないか」
「ハノイまで行っても敵機はいないし,この基地にも空襲があるわけでも無い。俺は空戦がしたい」
「模擬戦なら時々やってるじゃ無いか」
「機体の差が激しい。お前らの零戦と隼はおかしい」
「気にするとハゲるぞ」
サッと手を頭にやり、ホッとするミッキーであった。こいつ家族にいるな?
「まあミッキーがハゲようがどうでもいいんだが、零戦と隼な。確かに凄いんだけど欠点みたいなものも感じるのだろう」
「まあな。軽い空冷エンジン搭載機だから降下始めの突っ込みが甘い。P-39なら降下で逃げる。速度もP-39の方が速いしな」
「軽いから仕方が無い。降下制限速度はP-39とそう変わらないぞ」
「そこは重さと空気抵抗の差だな。尖った機首とのんびりと口を開けた機首じゃあ」
「好きであんぐりしている訳では無いが」
「降下中は差が開くことはあっても縮まることは無い。だからよほど低空で無ければ逃げ切れる」
「そうだな。クルクルやってくれる相手ならいいが、一撃離脱で来られると速度のある方が有利だな」
「それ以前に、そうならないように良く周りを見ろといつも言われるだろう」
「五月蠅いほどに。お前も言われるだろう?」
「俺は「追いすぎだ」といつも言われる。そのあげくに「ケツに着かれているぞ」とな」
「その考え方を変えない限り、お前の将来は暗いな。美人で未婚の妹がいるのだろ。俺が面倒見てやるよ」
「おま・!そう言えば写真を見せたことが有ったな。絶対やらん。俺は生き残る」
「ケツには気を付けろよ」
「俺のケツは俺の物だ。誰にもやらん」
ミッキーと馬鹿話をしているほどには暇だ。この面前基地は最前線なので気ままに訓練飛行をするわけにもいかない。
昨日の出撃では、結局敵機には会わなかった。P-39の滞空時間では待ち構えることも出来ない。
「お前ら暇そうだな」
「「駒井整備長」」
二人は敬礼をする。
「飛行隊長には言ってある。新型が来た。お前らちょっと乗って来い」
「「新型ですか」」
「おお、バリバリだぞ」
「そらすごい、です」
「二番格納庫だ。四機来ている。グレッグとキッペンも待っているぞ」
「髭と隊長ですか」
「フェラーニンが乗りたがっていたが、あいつは後だ。コマイと呼べるまでは乗せん。では行ってこい」
「「はっ」」
ミッキーと二番に来たがグレッグとキッペンは居るものの新型機は見えない。P-39が有るだけだ。
「よう」
「グレッグ、新型と聞いたがどこだ?」
「何言ってる。目の前に有るだろ」
「新型だぞ。P-39じゃない」
「だからこいつだ」
「P-39がか?」
「マークⅡと言うところだな」
「なんだ。手直し品か。がっかりだな」
「まあそう言うな。見た目は変わらないが,かなり強化されている」
キッペン隊長こと、ヴァルター・キッペンベルグ中尉が言った。
「言うほどに?」
「まあ聞け。さっき乗ったがなかなか良いぞ。エンジンの馬力が上がった。と言っても低空じゃあ変わらない。三千メートル以上でかなり違う。速度も十キロ速くなった」
「何ですと?十キロも?」
「お前も知っている秘匿装置の性能が上がった。公式には言えんからエンジンが高出力になっている。ここで一生懸命に飛んだおかげでデータが大量に取れたと言っていたな」
「それだけならかなりとは言わないよな。隊長」
「隊長言うな。まあ明日から正式に隊長なのだが」
「おお?おめでたいのか」
「ミッキー、いいことじゃないか。素直にお祝いしよう」
風杜一飛曹が言う。
「シン、そう言えばこの間の一杯がまだだったな。後で奢れよ」
「この基地の酒保で良ければ」
「この間、モーゼルワインのいい奴が何故か有った」
「おい」
「もう予約した。お前のツケにしといてやる」
「勘弁してくれ」
風杜一飛曹は助かったのは事実だから、まあいいかなとも思う。
「さて、速度だけでは無いぞ。機首機関銃が7.7ミリから13ミリになった」
「13ミリ?」
「日本陸軍開発だな。軽量高発射速度のいい奴だ」
「待て、そんな都合のいい奴が有るもんか」
「良くわかっているな。弾道特性はブローニングM2ほどでは無い。弾頭重量が軽いから破壊力と貫通力に劣る」
「ただの大きい7.7ミリか」
「がっかりしたか。だがこれを聞けばどうだ。炸裂弾が使える」
「え?」
「炸裂弾だ。三発に一発混ぜてある」
「えーと、あれか。こいつはホ103なのか。だとすれば曳光弾で徹甲弾で炸裂弾なのか」
「いや違うぞ。曳光徹甲弾、焼夷弾、炸裂弾の順だ」
「かなりの威力なのか」
「貫通力と弾道性能はブローニングM2には勝てないが、近接戦なら発射速度が高い方が良いだろ」
「確かにな。聞くといいことだらけに思うが、故障も多いと聞くぞ」
「かなり改善されたようだ。特に筒内爆発はほぼ無くなったという」
「ほぼな」
「完全など無いさ」
「だが機首が重くなったな。運動性は如何なんだ」
「これでもオリジナルとは比べて少し重くなっただけだ。37ミリ機関砲が重かったからな。でも他の装備も入れて全部で百キロくらい重くなった。でも機動力は変わらなかったぞ」
「それでも速度が上がったのか」
「ああ。それと長く空中に居たいミッキーには朗報だぞ」
「何かいやな予感がする」
「ドロップタンクを増やした」
「は?」
「ドロップタンクを増やした」
「いやいや、どこに付けるんだ」
「主翼下左右に小型の奴を」
「胴体下のは」
「もちろん付ける」
「3本かよ」
「良かったな。ハノイ上空で粘れるぞ」
「ああ、そうかい。じゃあ粘ればいいのだろ」
「頑張れ」
風杜一飛曹は俺は付き合わないぞという感じを込めた言葉を発した。
「そう言えばな、主翼の7.7ミリを希望者は外していいそうだ」
「「「いいのか?」」」
「13ミリが付いたから攻撃力に不足は無いだろうと」
「主翼が軽くなるのはいいな」
「外してみるか。まだ来たばかりで外した奴はいないんだ」
「じゃあ俺。一番」
「駒井さんに言っておくよ」
四日後、熊田少佐率いる八十八戦隊、P-39三十六機がハノイ空襲へと出撃した。
ハノイへと向かうP-39のうち八機は新型だった。キッペン中尉、グレッグ少尉、ミッキー上飛曹、風杜一飛曹で一編隊。もう一編隊はウーデット中尉、木下上飛曹、坂上二飛曹、コードウェル二飛曹 (マイク)だった。
新型は十三機来たが、五機は錬成用として出撃には加わっていない。新型を受領したパイロットは全員主翼の7.7ミリ機関銃四丁を外した。キレが良くなったと言っている。
旧型は左右主翼下に百キロ爆弾一発ずつ懸架している。
もちろん全機増槽装備だ。
事前の情報によると、ハノイ周辺飛行場に機影は見えずと言うことだった。これは百式司令部偵察機が超低空接近からの急上昇をして確認した物で信じても良さそうだった。
フエとダナンの飛行場はまだ復旧していないと言うことだ。
通常高度で近づくがさっぱり反応は無い。編隊を散開させて偵察させてみるが、やはり反応が無い。対空砲火さえ撃ってこない。
無駄足踏んだかと熊田少佐は思ったが、仕事はやらなければいけない。
「各機、爆装機は適当な目標に落としとけ。民間施設には当てるなよ。新型は上空警戒。掛かれ」
「「「了解」」」
民間施設に当てるなと言うことは、目立つ軍事施設で戦闘機乗りでも当てられる的。飛行場しか無かった。適当に投下して帰還の途に就く。
仏印北部の航空戦力は壊滅したか。熊田は帰り道でそう思った。
仏印南部はイギリス圏から近い。そっちは相当手応えが有りそうだが、足掛かりが無い。八十八戦隊の出番は無いな。
八十八戦隊は、面前基地になんの戦果も無いまま帰投した。
フランス単独ではこの程度じゃ無いかと思います。
初っぱなはイギリスと合同でしたが、イギリスも酷く消耗して仏印北部には出てこないでしょう。
遠すぎた橋では無く遠すぎた戦場ですね。
次回 七月九日か十日 05:00予定




