表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ計画進行中!】99回のやり直しは無駄だったので、何もかも諦めて早々の死を目指します  作者: みなと
本来の世界にて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/34

⑱再出発のためのけじめとして

 一人になりたい、けれど『独り』は嫌。

 隣にいてほしいけれど、顔は見てほしくない。


 あれこれとワガママな発言ばかりだったと我ながら思うけれど、ルーカスはそれを聞き入れてくれた。


 ただ、隣にいる。

 触れるか触れないかの位置に腰を下ろして座って、二人でぼんやりと王宮の中庭を眺めていた。


「…………」


 私は、これからどうしたらいいのだろうか。

 戻ってきて早々に侍女と揉め事を起こし、可愛くもない態度ばかりで意地を張って、……情けないったらありゃしない。


「ルクレツィア」

「……何です?」

「お前は、お前らしくあれ」

「意味、分からないんですけど」

「良いんだよ、お前はひねくれていても、どうであろうともそのままで良い。お前が思ったことを素直に言え。溜め込むな、我慢するな、おかしいと思ったらおかしいと、そう言え」


 ぽんぽんと言葉を紡ぐルーカスの声音に、嘘の色はない。

 本当に彼は、私のことをとても心配してくれているのだと、本能的に……とでも言うのだろうか。すごく、伝わってくる。それを伝えようとしてくれているのが、あれこれ諦めまくってしまった私にすら、伝わってくる。


「……ルーカス様」

「様はいらん」

「……ルーカス」

「……ん?」


 何をどうやって、何を言えばいいのか分からなくて。

 ここに来てから、私はダイアナ様に悪態をついたり、何なら出会う人皆に対して喧嘩腰だったし、半年経過しているけれど、好意的に接したことなんかない。


「……私、最悪よね」

「何が」

「八つ当たりしか、してない」


 ぽろりと零れた言葉は、そのまま止まることなくあれこれ出てくる。いつの間にか丁寧語だって無くしてしまっていた。

 どうしよう、本当に止まらない。


「別にいいだろ、八つ当たりしたって」

「だって、女王様に八つ当たりしてるのよ?」

「女王であると同時に、ダイアナ様はお前の母親だからな」

「侍女長にだって……」

「あれは向こうが悪い。それと、いつまでもまがい物のことを慕うなら出ていけ、という処分がくだるところだ」

「え」


 そんな処分聞いてませんけど!

 っていうか……結構容赦ない、のかしら。

 でも、ルーカス様……ううん、ルーカスの言っていることも分かる。そもそも彼女たちや彼らの言うところの『高貴な魂を持っていたルクレツィア様』は、人間のルクレツィアではない。

 あくまで私の体に入ってしまったあの子……今の名前は『リネーア』だったわね。そのリネーアが持っていた魂はあくまで人間なのであって、所謂この神界での魂ではないからまがい物に騙されていた、ということは間違いなんかじゃない。

 本来の持ち主であり、正しきところに戻ったにも関わらず彼女たちが私を受け入れないこと、つまりは『ニンゲン』であるリネーアのことが純粋に好きだったということ、あるいは彼女や彼らが『リネーア』を気に入りすぎて、私を排除したいのか。


「……本当、あのリネーアとやらは愛されていたのね」

「いや、その愛されるべき存在が本来はお前なんだ、ってのは自覚してくれ」

「……どうやって?」

「そうなるよな」


 気が付いたら、私はルーカスと比較的ぽんぽんとスムーズに会話のキャッチボールが出来ていた。

 ……どれだけぶりだろう、こんなにするする会話ができるだなんて。すごく久しぶりで嬉しいような、むず痒いような……嫌ね、この痒い感じ。


「半年かけて、ようやく色々排除もして、元通りに戻りつつある、っていう感じはあるんだが……」

「うん」

「使用人が一番の問題なんだ。他の家臣たちはお前の……ルクレツィアの存在を認めているし、どうにかして面会しようと必死になっている、がそれは置いておくとして。そもそも、だ」

「……うん」

「女王の言葉を聞けない、聞くことをしない使用人、いるか?」

「いらない」


 問いかけに間髪を容れずに答えると、ルーカスから笑い声が聞こえてくる。

 どうしよう、何となく、今、見たい。だから私は体の向きを変えて、顔の向きも変えて、ルーカスの方を向いた。


「……」

「何だよ」

「何となく、あなたの顔が見たくなって」

「何だそりゃ」


 ふは、と気の抜けたような笑い声を出すルーカスを見ていると、どことなく安心できた。

 きっと私は今、この国に……いいえ、この世界に帰ってきてから、ようやく安心できたのかもしれない。


「ありがとう」


 ものすごく小さな声だったけれど、私の口からは、自然とお礼の言葉が出てきた。


 ――ああ、そうか。


 私は、信じられる人がいなくて……でも、ここに帰ってきたら『味方がいる』って心のどこかで思い込んでたからこそ、周りの人に拒絶されたことで失望していた。拗ねていた。……まるで子供ね。


「……なぁ、ルクレツィア」

「何?」

「お前、普通に会話できるんじゃん」

「……まぁ……それなりに。……あなたは普通に話してくれる、から」


 ああそうか、とルーカスの口から零れた言葉に続いて、納得したように何度か頷いていた。

 そして、ふと何かを思いついたようにルーカスは言葉を続ける。


「ルクレツィア、王宮にいる使用人、総入れ替えでも提案してみたら?」

「会話の流れって読んでおります?」


 ルーカスの提案に、思わずげんなりしてしまう、ついでに弾かれたようにルーカスの方を向く。

 最初に私がルーカスの方を向かない、と言っていたからかもしれないけれど、どこかいたずらっ子のような目の輝きに、私からは盛大な『はあああああ』というため息が零れた。


「こっち見ないんじゃなかったか?」

「そっち向いた方が、普通に話せそうだったんです!」


 そう私が叫ぶように告げると、にま、とルーカスは楽しそうに笑っている。


「そうか、それは嬉しいことだ」

「……昔の私って、こうだったのかしら」

「……あー……そうだな……」


 少し考えているらしいルーカスを、私はじっと見る。

 魂の入れ替えという何とも無茶なことをしでかしたあのロザリアのせいで、私の幼いころの、この世界にいたという時期の記憶は曖昧なものになってしまっている。

 だから、今、純粋に知りたいと思った。

 私は、どんな私だったのだろうか。ルーカスと過ごしていた私は、どんなことを楽しんでいたのか。そして、ダイアナ様と一緒にいたときは、どんな私だったのか。


「……昔のお前をこと聞いて、どうするつもりだ?」

「どう、って」


 思ってもみなかった問いかけに、私は言葉に詰まってしまった。

 私は……どうしたいのかしら……?


「過去のお前は、過去のものでしかない」


 淡々と、ルーカスは言葉を紡ぐ。

 私はそれを、ただ聞いていることしかできなかった。


「よりによって、魂の入れ替えをされたんだ。記憶が曖昧になっているのは当たり前のことだし、そもそも世界をまたいでの入れ替えをされていたわけで……」

「つまり?」

「昔のことを聞くよりも、今のお前が普通に過ごしていけばいいんじゃないか?」

「……は!?」

「使用人の総入れ替えを行えば、荒れ放題だったお前を知っている人も少なくなる。何か言われたとしても、『魂の入れ替えのせいでこうなった』ということを理解できる人の方が多くもなるだろう。そうなるように、ダイアナ様がお触れを出すとかも言っていたな」

「……こっちに伝わってないんですけど!?」

「文書は届いているんじゃないか?」

「…………」


 ルーカスの指摘やら何やらに、私は思わず頭を抱えてしまいそうになるけれど……真実すぎてぐうの音も出ない、ってこういうことなんでしょうね……って。


「物事の、運びが、雑よ!」

「おう、落ち着けルクレツィア」


 ツッコミを入れてしまうことは、どうにか許してほしい。

 だって……っ、ああでも私が意思疎通をはからなかったことによって引き起こされていることには違いないし……。


「……私の感覚がおかしかった、わよね」

「八つ当たりは仕方ないと思うが」

「……もうちょっと……その……心を、開けるように、頑張って……みよう、かしら」


 もごもごと呟くというか、悔し気にというか。

 きっと、私の顔はとんでもない顔になってしまっているのだろうと思う。


 半年間、私はどうにか自分の心を落ち着けられるようにと、部屋に引きこもってばかりだった。どうして私だけがこんな思いを、と自分をまるで『悲劇のヒロイン』のように、無意識に思っていたのかもしれない。


 ――もう、やめよう。


 私は、私で。他の何でもない。

 リネーアを慕う人がいるのであれば、……その人数が多いのであれば、確かに彼らは彼女のそばへと行った方が良いのかもしれない。私の世話ほど、嫌なことはないと思う。


 だったら……。


「ルーカス」

「やっと名前呼び慣れてきたか、あと丁寧語も無くなったな」

「短剣とかある?」

「は? おい」


 違う、と言わんばかりに首を横に振って、そしてぐしゃりと長い自分の髪先を掴んだ。オマケと言ってはなんだけど、ルーカスに私が欲しいものを借りなければいけない。


「何をする気だ」


 ルーカスが出してきたであろう、護身用のようなシンプルな短剣を私は受け取って、髪をひとまとめにして、思いきり、遠慮なく。


「けじめ、とも言うのかしら」


 ぐ、っと力を込め、その短剣で自分の伸びまくっていた髪を、ばっさり切った。


「お前!」

「……うん、すっきりした!」

「せめて一言言ってからやれ!?」

「止めるかな、って思って」


 当たり前だろうが! と叫んだルーカスを見て、そして私は自分の長かった髪の毛を切った後の毛束を見て、思う。


 優しくされることだって慣れてなんかいない。

 愛されることには、もっと慣れていないし、体は痒くなるし、何ならが吐き気だってするけれど。


「止まってなんか……いたくない。きちんと、したいの」

「なら髪整えることからな!」


 まるでツッコミ役のようなルーカスの言葉を受けて、私たちは王宮内へと戻っていった、のだが。


 私のざんばらで無残なことになった髪を見て、王宮の使用人たちをはじめとしてダイアナ様が悲鳴を上げたのは、勿論言うまでもなかった、です。

こちらも更新、再開いたします。

色々落ち着いてきたので、ちょっとだけ文体や色々が変化あったかもしれませんが、ご了承くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ