表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界戦国ダンクルス  作者: 蒼了一
弾九郎転生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/180

第13話 窮鳥の見立て

「弾九郎様。こちらへどうぞ」


 ロレイナは艶やかな声で促し、二人を屋敷の奥へと導いた。重厚な鉄の門が軋みを立てながら閉ざされると、外の喧騒はまるで別世界のもののように遠のいていく。


 だが、弾九郎の警戒心は一切緩まなかった。


 ロレイナの微笑みは柔らかいが、その双眸は油断なくこちらを見定めている。背後では数人の男たちが無言で見張っているのがわかった。もし、ここで斬りかかられれば、更なる惨劇は避けられない。


 ──さて、どう転ぶか。


 弾九郎は慎重に呼吸を整えながら、静かに言った。


「ロレイナ。早速だが親分に会わせてほしい」


 ロレイナはゆるりと目を細めた。その表情は愉悦と興味が入り混じったもので、まるで目の前の獲物を品定めするかのようだった。


「結構ですよ。ただ──その前に、そちらのお嬢さんはどうしましょう?」


 ロレイナの視線が弾九郎の腕に向けられる。


 弾九郎がしっかりと抱えていたミリア──彼女はいつの間にか失神していた。


 白い顔には涙の跡が残り、口元は小さく震えている。あまりに急激なショックとパニックが襲い、意識が保てなくなったのだろう。それも無理はない。

 祖父を目の前で惨殺され、その亡骸をさらに陵辱される光景を見せつけられたのだ。耐えられる方がおかしい。


 しかし、弾九郎はほんの一瞬、安堵する自分に気づき、わずかに眉をひそめた。

 この状況で、そんな感情を抱くとは──いや、いまはそれでいい。


 この修羅場で覚醒し続けていれば、彼女は錯乱し、余計な声を上げ、場合によっては更なる大過を招きかねなかった。今は眠らせておくのが最善だ。


 弾九郎は無言でミリアの髪をそっと払い、ロレイナを見つめる。


「彼女のそばは離れない。毛布を一枚貸してくれ」


 ロレイナは仮面の下でわずかに口元を緩めた。


「……心得ました。では、こちらへ」


 *


 燭台の炎が揺れる静寂の間


 広々とした客間には、上質な絨毯が敷かれ、壁には精巧な刺繍が施されたタペストリーがかかっている。重厚な木製の机を挟み、弾九郎とロッソ・グラムが向かい合っていた。部屋の片隅には暖炉があり、薪が静かに燃えている。その柔らかな温もりが、冷えた身体をじんわりと温めてくれた。


「あらかたの事情は聞いた、ダンクロ」


 ロッソは椅子にもたれながら、無造作に足を組む。火の光に照らされた彼の顔には、余裕と貫禄が滲んでいた。


「いきなり済まなかった、親分。急なことで、ここしか行き場が思い当たらなかった」

「いやいや、頼ってくれて俺は嬉しいぞ。それに、ウチに来たのは正解だ。ここなら王兵共も滅多なことでは入って来れん」


 ロッソは手元のグラスを軽く揺らし、琥珀色の液体が波を打つ。


「それは頼もしいかぎりだ。俺達は一段落したらすぐにここを出るから、それまでは頼む」

「ここを出て、どこかあてはあるのか?」


 グラムは何気なく問いかけるが、その眼差しは鋭かった。


「とりあえずこの街を出る。王の手が届かぬ別の土地へ行ってやり直すさ」

「……あのお嬢ちゃんを連れてか?」


 弾九郎は視線を隅にやる。部屋の奥、豪奢なソファに身を沈め、毛布をかぶった小さな影。ミリアだ。彼女はまだ失神から目覚めていない。


「彼女は命の恩人だ。祖父のトルグラス殿が亡くなった以上、あの子を護るのが俺の使命だ」


 炎の揺らめきが弾九郎の瞳に映り込む。その言葉に、グラムは小さく笑った。


「まあ、そんなに急いで考えなくても良いだろう。しばらくゆっくりしてな。いまロレイナに事情を探らせている。あのトルグラスが謀反に加担なんて話は、どう考えてもキナ臭いからな」

「親分はトルグラス殿を知っているのか?」

「直接の面識はないが、腕利きの鍛冶師だからな。街の噂や評判ってのはどうしたって耳に入ってくるのさ」

「そうか……事件の真相を調べてくれるのはありがたい。トルグラス殿の汚名も(すす)がねばならぬしな」


 静寂が満ちる。薪の爆ぜる音がやけに大きく響いた。


「まあ、任しておけ。なんだったらあの娘と一緒に、ずっとウチにいていいんだぞ」


 グラムは軽く言うが、その言葉の裏には何かを探るような意図が見え隠れしていた。


「それは昨日お断りしたはずだ。今回の件は貸しにしておいてくれ。借りは必ず返す」

「そうか……ダンクロに貸しが出来るのか……ならそうだな……借りを返すのは……たとえば、グンダ王の首ってのはどうだ?」


 弾九郎の背筋がわずかに強張る。ロッソは笑っているが、その目は揺るぎなくこちらを見据えている。


「冗談だよ、ダンクロ。驚かせちまったか?」


 豪快な笑い声が響く。しかし、笑いの奥には確かに何かが潜んでいた。


「あの王は最近調子に乗りすぎててな、俺達のシノギに手を突っ込もうとしてんだ。王様ってのは税金を取ってりゃいい。それがヤクザの飯のタネを奪おうなんざぁ考えちゃいけねえよ。そんな奴ァ王様でいる資格がねぇ」


 ロッソ・グラムの言葉に、弾九郎はそっと胸をなで下ろす。少なくともこの男は、無法者ではあるが、筋は通す相手だ。そして王政府に反発している。


 これならば、余程のことが無い限り、自分達を売り飛ばしはしないだろう。

お読みくださり、ありがとうございました。

今回登場したグンダ王は、決して民を思って「社会浄化」を目指しているわけではありません。

彼の狙いは、裏社会に巣食う利権の掌握。

すなわち、自ら王であると同時に、ヤクザの親分にもなろうとしているのです。

次回もまた「異界戦国ダンクルス」をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ