67.裏方たちの会合
「かんぱーい!」
賑やかな居酒屋の喧騒に負けぬほどの、よく通る声が響く。声の主は、生駒愛理。
その席には、同僚の石切だけでなく、外部の者である森口と赤目の姿があった。
4人の中で、石切だけが場違いな空気に、若干縮こまっている。
「いやー、色々あったけど、解決しそうで良かった!」
ジョッキに注がれたビールを一気に飲み干し、生駒は一仕事終えた顔で言い放つ。
それに反応するのは、おなじくぐいっと半分ほど飲み込んだ森口だ。
「いやいや、愛理さん? まだ解決してないどころか、対象者に接触すらしてないんだからね?」
「って言ってもー、事件として扱われればさ、解決みたいなもんじゃない」
「どうだろうねー。実際、何人送り込まれてるかわからないし、全部調べるのは大変そうだよ?」
「それはそっちの仕事! 私の仕事が終わったからいーのいーの!」
「あー、そっすか」
面倒になったかのように、森口は話を切り上げた。
そこに、申し訳なさそうに石切が口を挟む。
「あの……。インタビューの時の話って、本当なんですか?」
「え? いまさらそこ!?」
「いやだって、ゲーム内転生なんて信じろって方が無茶ですよ……」
「まー、そうだろうね。私も、この子たちから言われなきゃ信じなかったし」
「わー、僕たち信用あるんだねー!」
「信用は、ないわ」
「ふえっ!? ひどーい」
いつも通りの話のそれ具合に、赤目はため息をつく。
この場を収められるのは、自分しかいないと自覚したのだ。
「本当かどうか、それは調べればわかること。
その上で事件として取り上げられれば、本当であったと保障される。
それまでは疑っていてくれて構わない。
その間は、そちらに手間をかけさせるつもりもない」
「は、はぁ……」
「と言いながら、リスト渡したりと、手伝わせる気満々だったよね?」
「その方が早いかなーって」
「ま、結果的に一歩前進したからいいけどさ」
生駒は並べられた料理の中から、焼き鳥を一本頬張りつつ話に割り込んだ。
森口もまた、だし巻きを頬張りつつ答える。
そんな二人に、石切と赤目は緊張感なさすぎると、内心ため息をつくのだった。
「しかし、ここからが問題だ。
転移者の数もわからなければ、こちらに戻す方法もわからない。
そして、転移者を見分けることも難しいだろう」
「えー? なんでさ? こっちには運営という、ゲーム内のカミサマがいるんだよ?」
「ま、そうなんだけどね? でも、こっちですぐに調べるのは難しいでしょうね」
「なんでさ?」
「考えてみなさいよ。今までなんで、そんな事態に私たちが気づかなかったか」
むぅと唸りながら、思案する森口。
その答えを言い当てたのは、石切だった。
「NPCの異常は、プレイヤーからの報告でしか気付けないからですね?」
「そうなの。私たちは、NPCのプログラムを組んだら、基本的に再確認なんてしないわ。
だから、異常行動をバグとして報告されない限り、見て回らないの」
「それに、愛理さんの組んだプログラムは、裏設定が多いですからね。
妙に人間じみた行動をするようになってるので、見分けにくいかもしれません」
話される運営の内情に、森口は興味津々といった様子。
その横では、赤目が真面目にも、メモにペンを走らせていた。
「へー。たとえばどんな?」
「簡単なので言えば、挨拶すれば、ちゃんと返してくるとかですね。
会釈にだって反応して、返してくれますよ。
もちろん、そういう行動が適切なキャラに限りますが」
「ふむふむ。ゲームとしてNPCを雑に扱う人には、気づけないような仕様だねぇ……」
「それはつまり、NPCらしからぬ行動も、プログラム通りの可能性があるということ。
今回の事件、そう簡単には解決できないかもしれないな」
今度試してみようと、ワクワクする森口とは反対に、赤目は面倒な事態に頭を痛めていた。
彼らの捜査は、これからが本番だ。




