66.ゆけゆけとんちゃんと!
「―――――。
というわけでー、僕たちはゲーム内転生者を探してたんだよ」
ネズミの口から発せられた話は、到底信じられるようなものではなかった。
えーっと、なんだ? ゲーム内に転生したプレイヤーを探し出し、救出するのが二人の役目?
そのためにゲーム内に入り込み、怪しい人物に片っ端から声をかけていた?
その中の一人が、まーちゃんだった……?
「あほくさ。せめて、もうちょっとマシな嘘つきや」
「えー、ホントなんだけどなー」
「そないな話、信じられるわけが……」
しかし、考えてみれば納得できる。
いや、ゲーム内転生があるとかうんぬんではなく、二人の行動に納得がいくという話だ。
確かに言っていた通り、二人は街中で色んなヤツに声を掛けていたし、まーちゃんもその中の一人。
そして「ロールプレイングガチ勢」として、まーちゃんを俺に紹介したのだ。「この世界を本物として楽しんでいる人」だと。
それに、武器を作るため山に登った時、まーちゃんのピンチに二人は駆けつけた。
万一転生者であったなら、ゲームと違い、復活できるとは限らないから……。
「まさか、まーちゃんを映画に誘えってワイに言ったのは……」
「そのまさかだよ。転生者なら、映画には行けないからね」
「クッソ! 思い通り動かされてたんかいな!
すんげームカつくんやけど!?」
「ははは、ごめんごめん。
でも、正直に言っても協力してくれないでしょ?」
「そりゃそうやけど……」
「マコちゃんもごめんね。こんなことに巻き込んじゃって」
「いえ……。いいんです……。楽しかったですし」
「そう? それならよかった」
「良いわけないやろ!!」
なんともお気楽な雰囲気に呑まれそうだが、こっちは良くない!
うまく誘導されてたってのが、すんげームカつく!
「えー? 二人で楽しんでたんじゃないのー?」
「っ……!」
だが、ここで楽しくなかったと言えば、嘘になる。
なにより、まーちゃんと会えたことは、俺にとってかけがえのないものになっていたから……。
「ちゃうわ! 転生者の話や! 結局見つかっとらんのやろ!?」
「あー、そっちねー。
うーん、手詰まりかなーって思って、愛理さんに電話したんだよねー」
「でも、こっちは事件が立証されなければ動けないのよ。
ゲームといえど、個人情報扱ってるからね」
「はー、面倒なことになっとんやなぁ……」
「ってことでさ、二人とも、それっぽい人みかけなかった?」
「ざっくりしすぎやわ……。VRやで? そんなんわかるわけないやろ?」
「だよねー」
ネズミは、イコマの前にあるお茶を奪い飲み干す。
ホント、事件を追っている刑事とは思えない自由気ままっぷりだ。
にしても、転生者か……。
俺は他のプレイヤーと関わらないし、思い当たる人物なんて居ない。
というか、唯一顔見知りの商人、不動は完全にゲームとして楽しんでたしな。商売を。
「明らかにゲームの制限を受けてない人ってのが分かれば、簡単に見つけられるんだけどねー」
「そんなプレイヤーはBAN対象よ。
それに自由度が高いし、裏設定もあるからチートが分かりにくいのよね」
「それは、愛理さんがそう設定したせいだよねー?」
「私のせい!?」
「確かに、色々とややこしそうやなぁ……。
NPCですら、なんやっけ……。えっと、頭悪そうな名前のAI……。
せや『強い人工知能』やっけ? それでえらいリアルになっとるしな」
「え……?」
ふと、イコマとイシキリの視線がこちらに集まる。
「なんや? 何かマズいこと言ったか?」
「いや、強い人工知能は、まだ導入してないんだけど……」
「ん? でもワイは超高性能NPC見たで?
あ、まーちゃんも見たよな? 不動サンの従業員」
「うん……。話しかけてくるくらいに、普通の人って感じがしたよ」
「まさか……」
「いや、まさかまさか……」
ネズセンセとイコマの視線がぶつかる。
なにが「まさか」なんだ?
その答えは、赤い狼の口から出た。
「転生者はプレイヤーではなく、NPCになっている……。その可能性があるんだな?」
「「それだー!!」」
二人の声が揃った。
納得。それはまさかだわ。
というか、ゲーム内転生でNPCに転生とか、哀れみしか感じないぞ。
「よし! 今すぐ裏取るわよ!」
「あいあいさー!」
「ほーん。がんばえー」
「ちょっと! トンちゃんも手伝ってよー」
傍観者決め込んだ俺に、ネズミは逃がさんと投げかけてくる。
でも答えは考えるまでもなく決まっていた。
「え? 嫌や」
「なんでさ!?」
「いやだって、ワイは部外者やし? それにな……」
「それになにさ?」
「ワイには、時間がないねん。
二つの世界を楽しむには、どんなに時間があっても足らんわ。
もちろん、まーちゃんと、な!」
まーちゃんへと向き直る俺に、まーちゃんも笑顔で返す。
「うん! 色んなところ行こうね! トンちゃんと!」




