64.暴言インタビュー
インタビュー当日。運営の中の人二人が、俺の砦へとやってきた。
軽い挨拶と説明を受ける中、俺は二人の声がなんだかたわんで聞こえ、意外と緊張しているのだと自覚した。
しかし人間語り出せば早いものである。今までの歴戦の武勇伝を披露したのだった。
まさかそれが、禁止ワードの連発だとも知らずに。
「ともかく、禁止ワードの代替案は後で考えるとして……」
運営会社のインタビュアー、生駒と名乗る女性は、凍り付いた空気を取っ払うように切り出した。
まーちゃんの暴言癖は今さらだし、暴言の語彙力が高いのは分かっていたが、うっかり出てしまったようだ。
多分今回は、相手に対して言ったわけではないし、緊張で口をついたというよりは、本気で代替案を出したつもりだったんだと思う。
俺の戦闘時の暴言よりも、かなり鋭利な言葉の刃だったけどな……。
「トントンさんは、ずっと一人でやってきたのに、どうしてまた生産職の育成をはじめたの?」
「あー、それはやな……。結婚システムがあったからやな。
そろそろ寿命来てたから、相手が必要やろ?
それで、戦闘スキル入れてない相手探してたんや」
「なるほどね。もしかして、二人は元々知り合い?」
「ちゃうで。色々あってん」
「ふーん……」
そうだ、いい機会だしここで聞いておこう。
俺を振り回した、あの忌まわしいシステムの話を。
「それよりもやな! なんなんあのシステム!?」
「なんのこと?」
「結婚システムや! あれのせいで、えらいめに……。
いや、あれのおかげでまーちゃんと会ったわけやし、今はそうでもないけどやな!
それでもあの謎システムなんなん!?」
「あー、それね……。んー、どうしよっかなー」
なにやら悩み顔の生駒。
聞かれちゃマズいことなのか、適当な言い訳を考えているのか……。
「先輩、俺も知りたかったんですよね。
あれって、結構不評で、いつもクレーム処理に困るんですからね」
「あー……。まあいっか。これは、ここだけのハナシね?」
「なんや、もったいぶって……」
一応理由があるらしい。
しかし、同じくインタビューしにきた石切も知らないとは、そんなに重要なことなのだろうか?
「ユーザーってのはね、砂なのよ」
「は?」
「それ、理由になってます?」
「で、ゲームってのはザルなのよ」
「分かるように説明してもらえるか?」
「だーかーらー、一人だとさらっと網目を抜けていっちゃうでしょ?
なんで抜けられないように、ユーザー同士をくっつけるわけよ!」
「えっ……」
「納得できるような、できんような……」
「あなただってそうでしょ?
もしアイテム全部集め終わって、目標がなくなったら、やめちゃうじゃない。
なら、目標がなくてもやめれない理由を作るのも、私たちのシゴトってわけよ。
ほら、スマホのゲームだって、ギルドだなんだと横の繋がり作らせるじゃない?
あれだって目的は同じなのよ」
「ほーん……。なんというか、そういうこと考えて作られとんのは、意外やわ」
「単なるユーザーへの嫌がらせじゃなかったんですね……」
「ちょっと、石切君!? そんな風に思ってたの!?」
「だってほら、前の実演販売スキルの裏設定の理由がひどかったから……」
「あれは裏のない、ただのゲーム性の話よ」
「もしかしてそれって、実演販売スキルやと攻撃力上がるってやつか?」
「そうよ。あなたたちはもう気付いてたでしょうけどね。
それにあなたは、ソロの時だって『憤怒の剣』効果使ってたし」
「え? そうなん?」
「えっ……。気付いてなかったの?」
「一応、どういう効果か説明してもらえるか?」
「スキル説明にあるのは、HPが減ると攻撃力が上がるってだけだけど、裏設定があるの。
それが、怒りを表す言葉を発しながら攻撃すると、攻撃力が上がるってものよ」
「あー……。だからワイが、ソロでボス討伐できてたんか」
「そういうことね」
まったく、ここの運営ってのは隠し設定が大好きらしい。
ということは、もしかするとまだ知られていないものもあるのだろうか……。
思わぬところでやり込み要素を発見してしまったな。
「あっ、ごめん。着信だわ。ちょっと待っててね」
まだ見ぬ要素にゲーマーの血がざわめく中、生駒が言う。
どうやら、リアルの方に連絡が入ったらしい。
彼女はそのまま、素早くログアウトしてしまった。




