63.ご招待
「ようこそ! 俺の家へ!」
「うわー。でっかい……」
俺の家の座標を記した魔石を、キャラクター転送用NPCに渡せば、二人が通れるようゲートを開いてくれた。
その先の城にも砦にも見える、武骨な石レンガの建物に、まーちゃんは感嘆の声を上げた。
「ふふふ……。驚くのはまだ早い! 俺のコレクションをとくと見るがいい!」
「楽しみー!」
バンっと開けた扉の先、そこには所せましと並べられた木箱の山。
この中に、今までのBOSSモンスターからぶんどった、レアアイテムの数々が眠っている。
効率厨と収集癖の合わせ技、その集大成がこの砦なのだ!
「この箱には、ボスドロップの防具一式入ってるし、こっちには武器系統。
店売りも含めて、大体この世界の9割がたのアイテムは揃ってるはず」
「…………」
「うむ。驚きすぎて、言葉も出ないか!」
「えーっと……」
呆然と箱の山を眺めるまーちゃんは、何から見ていいのかわからないといった雰囲気だ。
なにせ、これらは俺の今までの全てと言っていいのだからな!
「びっくりはしたけど、どっちかっていうと、ゴミ屋敷を見た時のびっくりに近いかな……」
「なっ!? なんやて!?」
「あっ……、ごめん。その、けなすつもりはなかったんだけど……」
「いやいや、さすがにその反応は予想外やって」
「んーと……」
まーちゃんは、箱の中身を確認しながら少し悩むそぶりを見せた。
何がそんなにお気に召さない……。いや、考えてみれば当然か。
俺にとってはコレクションでも、まーちゃんには興味ないものかもしれないしな。
「うん、大掃除しよう!」
「えっ……。なんでそうなる?」
「だってね、せっかくのコレクションなんだよ?
こんな箱に入れたまんまじゃ、可哀想じゃない」
「可哀想もなにも、ただのアイテムなんだけどな。そこそこ貴重な」
「貴重ならこそ! ちゃんと展示しないと!
博物館だって、美術館だって、箱に入れたまんまじゃ、ただの倉庫だよ!」
「はー……。まあ、そうかもしれないけど」
言ってることは分かるものの、なんというか、俺以外が見ることを想定してなかったので気づかなかった。
効率厨と収集癖、そしてボッチソロプレイヤーというプレイスタイルさえも、この箱の中には詰め込まれていたらしい。
今はもう、一人じゃない。
まだ、まーちゃん以外の人とうまくやれるかはわからないけど、きっとこの先も一人じゃない。
ならばこの箱は、叩き壊してしまうべきだろう。
「それじゃ、この家を大改造しないとね。それで、人を呼べる博物館にしよう。
まーちゃん、手伝ってくれるよね?」
「もちろん!」
「そうだな……。人を呼べる状態にしたら、ここで店しようか。
まーちゃんの作ったアイテムを売る店にな」
「いいの?」
「もちろん。それとも、まーちゃんは自分で家持ちたい?」
「ううん。ここがいいな」
「そっか。それじゃ、決まり!」
店なんてするつもりがなかったから、街からは遠いし、大繁盛するようなものではないかもしれない。けど一緒に何かするには、十分な広さだ。
それに、集客のための宣伝とか、そういうことだって二人なら楽しくやれそうだ。
「うん。片付けたあとの最初のお客さんは、運営の人だな」
「そっか、ここでインタビュー受ければ、宣伝にもなるもんね!」
「そゆこと。それには、掃除だけじゃ足りないな……」
「うん。ネズミの人たちみたいに、ちゃんとお客さんを招く準備しなきゃだね!」
「また、街に買い出しに行かないとね」
「お茶とお菓子と、あとは家具のセットもいるし……」
「まーちゃん、まずは場所確保からしないと」
「うん、そうだね! ぱぱっとやっちゃおう!」
「それじゃ、大掃除開始!」
今までと違う、この世界の楽しみ方。そして、今までとは違う毎日。
それを思えば、目の前の箱の山を片付けるのも、楽しい時間になりそうだ。
そんな予感が、ひしひしと伝わってきたのだった。




