62.運営からの手紙
いつも通り、いつもと違う格好のまーちゃんの腕に抱かれ、街を歩く。
今日は、ぶらぶらと歩いて見てまわりたい気分だそうなのだ。
「ねえ、トンちゃん。メッセージは見た?」
「メッセージ? もしかして、送ってくれてた?」
「違うよー。運営からのメッセージ」
「へ? そういえば、今日はチェックしてないな」
言われてメッセージボックスを開けば、確かに一通入っていた。
まーちゃんにも来ていたってことは、プレイヤー全員に送ったものだろう。
「ちょっと見てみるね」
「うん」
まーちゃんの腕の中、揺られながらメッセージを開く。
半透明の画面は、俺の揺れに合わせるように上下に動き、俺から見れば止まって見える。
おかげで酔わない親切設計だ。
「えーっと……。ふぁっ!?」
「ね? びっくりでしょ?」
「え? 同じのが、まーちゃんにも来てた?」
「うん。二人でってことらしいね」
そこに書かれていたのは、インタビューの依頼だ。
戦闘職最強プレイヤーに対するインタビュー。
そして今現在、純生産職として昇りつめようとしている、友人も一緒にという内容だった。
「けどさ、今までこんなの来たことないんだけどなぁ……。
俺へのインタビューなら、戦闘スキルコンプリートの時に来そうじゃない?」
「ん-、どうなんだろうね。たまたま、ボクが目に止まったんじゃないかな?」
「そうなのかな……」
「まっ、ともかく! インタビュー受けるんだから、準備しないとね?」
「準備? なんの?」
「もちろん、トンちゃんの服だよ!」
「えっ……」
まさかとは思うが、今日狩りもせず街をぶらついていたのは、そのためだったのだろうか。
しかし、俺はセーフティーモードを解除できない。なぜなら、制限時間が間近だからだ。
「あのさ、俺の活動時間は、もうかなりギリギリなんだよね。
だから、セーフティーモードは外せないし、服を買う意味もないんだよね」
「ふふん! それは大丈夫!」
まーちゃんは胸を張って、自信満々だ。まさか、運営がその辺を忖度してくれたのだろうか?
そりゃ、インタビューは向こうの都合だし、そうしてもらわないと困るけどな。
けど、そんなことメッセージにはなかったような……。
「ボク、やっとレベル50になったんだよね!」
自慢顔のまーちゃんの言葉を理解するのに、一瞬時間を要した。
レベル50。それはつまり、結婚システムの条件をクリアしたということだ。
「マジ!? おめでとう!」
「へへへ、ありがとね。これで、結婚できるね!」
「うん。しかし、いつの間にレベル上げてた?
俺と一緒の時には、まだ50になってなかったよね?」
「実はー、映画見に行く前の日に、別れたあとこっそり鍛えてたのだー!」
「マジで!? こっそり鍛えるなんて、水臭いじゃん」
「へへへ……。びっくりさせたくてね」
「今日は二回もびっくりさせられてるな」
俺が緊張のあまり眠れなかったあの日、まーちゃんはこっそり鍛えるほど余裕があったのか……。
なんか俺ばっかり緊張してたってのが今さら分かって、なんとももどかしい気分だ。
そりゃあの時、俺の挙動不審も大目に見るほどの余裕があったわけだ。
「なんか、俺ばっかびっくりさせられてるのは、すわりが悪いな……」
「だってー、いつもはトンちゃんにお世話になりっぱなしだし?
戦う時とか、常に余裕なトンちゃん見てたら、びっくりさせたくなっちゃったんだもん」
「むー……」
そりゃ分からんでもない。けど腑に落ちないのは変わらない。
なにも準備してたりするわけじゃないけど、何かびっくりさせられるものはないか……。
そう頭を巡らせれば、ふとひとつひらめいた。
「そうだ! 俺の家に来ない?」
「へっ!? まさか、映画に飽き足らず!?」
「そうじゃなーい! 俺の、こっちでの家!
まだ見せたことなかったでしょ?」
「あっ! そういえば、家持ってるって言ってたね」
「まあ、お客さん呼ぶようなものじゃないけど、びっくりするモノはあるはず」
「へへへ、楽しみだなー」
まーちゃんはそんなに楽しみなのか、ニコニコしている。
俺のコレクションを見て、驚いてくれるだろうか。




