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61.元凶襲来



「昨夜はお楽しみでしたね」


「ふぁっ!?」



 帰ってすぐログインした俺の耳元に、突然囁き声が入ってきた。

ばっと振り向けば、悪い笑みを浮かべた、デカいネズミが立っている。

けれど、今日は一人だった。もしくは、正確には一匹か。



「なんやねん! びっくりしたやろ!」


「いやあ、仕返しに驚かせようと思って」


「なんの仕返しや! ってか、なんでワイが来たんバレたんや!?」


「そりゃ、連絡先交換してる相手は、ログイン状態が表示されるし?」


「えっ……」


「え? まさか知らなかった?

 連絡先リストの、名前の前に丸付いてるでしょ?

 それが緑ならログイン、赤ならログアウト状態なんだよ?」


「知らんかった……」


「えぇ……。結構長いプレイヤーなんじゃなかったの?」


「いやほら、ワイは元々ぼっちソロプレイヤーやし?」


「元々、ねぇ……」



 ニヤリというよりは、ニチャァといった笑み。

あー、余計なこと言ってしまったな……。

言葉に詰まる俺に、ネズミは追撃を撃ち込む。



「そりゃねえ、今はずっと一緒の、仲のいいコがいるもんねぇ?」


「うっ! うっせえわ!!」


「それで、今は彼女を待ってるってコトかな〜?」


「なっ、なんやねんその言い方は!!」


「そんなに必死になるなんて、やっぱりなんかあったんですね!?

 さてさて、根掘り葉掘り取り調べさせていただきましょうかねぇ?」


「やめろや!! それに……」


「ん? それになに?」


「いや……。もしかしたら、まーちゃんはもう来えへんかもしれへんし……」


「なになに? ケンカした?」


「…………」



 言えるわけないよなぁ。

まーちゃんは本当は男で、俺も本当は根暗だなんてさ。

今も気まずくて、不安でしかたない。

笑って別れたからって、相手の本音を覗く力なんて、俺にはないんだから。


 それに今だって、まーちゃんはログインしているのに、メッセージも飛んでこなければ、いつもの待ち合わせ場所にも来ていない。

愛想尽かされたんだと思うには、十分すぎだ。



「ま、何があったかは知らないけど、大丈夫じゃない?」


「はー……。好き勝手言いよるわ」


「いやだって、ほら……」


「ん?」



 指差す先、振り向けば、そこには笑顔でこちらに手を振るまーちゃんの姿があった。

よかった、来てくれたんだ。心底安心している俺自身に、俺自身が驚いた。


 けれど、いつもと様子が違う。

レベル上げ用のゴテゴテした装備じゃなく、澄み渡る空のように美しい水色の、可愛らしいワンピース姿だ。



「よっ、よう……。えらいかわいいから、びっくりしたわ」


「へへへ……。驚かせようと思って、さっき急いで買ってきたの。どうかな?」


「似合ってると思うで。まあ、まーちゃんはなに着てもかわいいけどな」


「ホントに? ホントのホントに?」


「ホンマやって! 嘘ついたってしゃーないやん!」


「…………。嘘っぽいなぁー?」



 じーっと俺の目を見つめてくる。

嘘っぽい? いつも通り褒めただけなんだけどな。

まさか……。



「からかっとん?」


「ホントの気持ち聞きたいなーって」


「はぁ……」



 どうやら、俺の本当の言葉で言ってほしいらしい。

いまさら少し恥ずかしいが、小さく咳払いして言い直す。



「俺は……、似合ってると思うよ」


「へへへ。嬉しいなっ!」



 ぎゅっと抱き寄せられ、頭を撫でられた。

まったく、まーちゃんには勝てそうにないな。

そんな俺たちをニヤニヤと見つめるネズミは、わざとらしく言う。



「あー、暑い暑い。のぼせ上がりそうな熱気だねぇ……。

 それじゃ、おじゃま虫はそろそろ退散しましょうかねー」


「はいはい。お疲れさま」



 言い残せばシュンと消え、ネズミはログアウトしていった。

そういや、アイツが目の前でログアウトするのは初めてだな。



「ねえ、なんの用事だったの?」


「え? そういや、なんの用事だったんだろ?

 まあ、いつもからかいに来てるだけな気もするけど……」



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