57.暴飲暴食
気まずさが多少和らいだ頃、店員が料理を持ってくる。
テーブルの上には、色とりどりの野菜が盛られた、食べ応えはなさそうなサラダだったり、パスタやピザまで並んでいる。
オススメと書いてあったからと、全部頼んだのは失敗だっただろうか。
ま、最終的に俺なら食べ切れるから問題ないんだけどな。
本気のデブの食いっぷりを舐めてもらっては困る。
運ばれてきた料理の中には、ワインも含まれていた。
二人ともすでにお酒は飲める歳だし、俺も普段は飲まないが、多少酔いが回った方が気楽だと頼んだのだ。
乾杯して、一口含んで後悔したけどね。俺は、ジュースみたいに甘い酒しか飲めない。
梅酒みたいに、ソーダ割りとかできないかなと考えながらも、口の中の渋みを消すよう料理を詰め込んだ。
「おいしい」
「そっか、気に入ってもらえたみたいで良かったわ」
「ふふっ……。やっと、いつも通りだね」
「んっ……。せやろか……」
ぐいっとワインを飲み干した。
なんだか、酔ってしまわないとまたドモってしまいそうで、急に怖くなったのだ。
だって、目の前には本物で、えーっと世界も本物で……?
ステータスオープンって言ってもウインドウも出なくてー……。
「大丈夫? 顔赤いよ?」
「へーきへーき! へへへ……」
「もしかして、お酒弱かったの?」
「んなわけあらへんやろー? まだまだ全然イケるでー! 次なに飲もかなぁー?」
「あ、あの……。あんまり無理しない方が……」
「ええのええの! まーちゃんは何飲む?
おっ、イタリア産のビールもあるやん! これにしよー」
「あの、本当に大丈夫!?」
なにを心配してるのやら。
こんな時くらいしか酒なんて飲まないんだから、このさいガッツリ飲んどこう!
ウマイメシ、ウマイサケ、んでー、目の前にはー。誰や?
「ああ、そうそう! まーちゃんや!」
「へっ?」
「正直なー、女の子やと思ってたからびっくりしたでー!」
「あっ……。あの、ごめんなさい……」
「ええねんええねん! 気にせんとき!
それにワイかって、ゲームとちごてこんなんやで?
がっかりもええとこやろー?」
「そっ! そんな事ないよっ! その、トンちゃんが……。
えーっと、なんて言ったらいいのかな……」
「んあー? なんやー?」
「怖い人じゃなくてよかったって……」
「へへへ……。怖いおっちゃんがよかったんかー?」
「ホントに大丈夫?」
なにをそんなに……。なんか洒落たビールやなぁ……。
グラスに開けてグイーッとなー。
「まっ、また一気に飲んで……」
「ウマイでー? まーちゃんも飲むかー?」
「えっと、大丈夫。まだワインあるから……」
「へへへ……。にしても、久々やわ。他の人と一緒にメシ食うんなんて」
「そうなの? いつもは一人?」
「せやで? ってゆーてもな、ゲームしながら、テキトーにお菓子食うて済ましてんねんけどなー」
「それは……。体に悪そうだよ」
「ゆーてな、制限時間あんねんから、休んでる暇あらへんやん?
ボスのリスポーンに合わせて生活してんねんから、寝るのも食うのもめちゃくちゃやで」
「トンちゃんって、もしかしてすごくゲームやり込んでる?」
「ははは、ずっとゲームばっかや。もう二、三年ゲームしかしとらんで」
「…………」
なんや? まーちゃんうつむいてしもたな。おもんなかったかな?
にしても、酒はウマイし料理もウマイし……。
えーっと、なんやっけ? まあええわ。適当に食うとこ。
「んー……。なんや、さすがにフワフワしてきたわ」
「えっ……? やっぱり飲み過ぎだって!」
「んー? せやろか? まーでも、まだまだイケるでー!」
「ほら、お水飲んで」
「んー?」
まーちゃんが、ワイの隣に座り直して水入れてくれたわ。
それに、デコに手当てて……。
「うわっ、顔すごい熱いよ!?」
「まーちゃんの手、冷たいなぁ……」
「そっちが熱いんだって……」
「へへへ……」
あー、なんかもう、眠たなってきたわ……。




