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53.待ち合わせ

 待ち合わせ場所は、映画館も入っているビルのコーヒーショップだ。

店の中は、平日昼下がりということもあって、意外と空いている。

人混み、というか人が苦手な俺にとっては、空いていてくれて助かった。


 窓際の一角は、一人客用にカウンターになっていて、外の景色が見渡せる。

その並んだ椅子のひとつに座り、俺は苦労して注文したアイスカフェオレを、一口ストローで吸いとった。


 意味のわからないメニュー表に硬直し、意味のわからないサイズ表記に戸惑い、最終的に出た言葉は「カフェオレ、普通のサイズで」だった。


 待ち合わせ場所に、身の丈に合わないこんな場所を指定したのは間違いだったと思う。

けれど、相手は身なりにも気を使う人なんだから、おしゃれな場所でないといけないなと思ったのだ。


 まぁ、実際にはどんな人かは知らないわけだし、もしかすると知らないまま終わるのかもしれないけど。

そう思いながら、待ち合わせ時間までの一時間を、場違いだと感じながらも過ごさなければならない。

だからといって、スマホでもいじって待ってようかとは思えなかった。そんな余裕はない。

時間の余裕じゃなく、心の余裕がだ。


 今にも緊張でぶっ倒れてしまいそうだし、額に汗が滲んて仕方ない。

駅のコンビニで買ったハンカチで汗を拭いながら、ガラスに反射する人の姿を、こっそりと確認していく。


 ガラス越しに映る背面の景色は、少ないながらも出入りする人たちを写し込む。

スーツを着た営業の人だったり、主婦だったり……。

時間帯のせいか、学生の姿はなかった。そりゃそうか、今日は平日だしな。


 そういえば、平日に待ち合わせしたが、仕事は大丈夫なのだろうか?

俺は、ずっと平日も休日も関係ない生活をしていたから問題なかった。

けど、まーちゃんはどうなんだろう? 仕事してないのかな?

もしかして、既婚者で専業主婦とかか?

もし、学生だったりしたらどうしようか。


 さすがにただのお礼とはいえ、女子高生を連れ回すのは、完全にアウトだ。

せめて大学生でないと、警察のご厄介になる可能性だってある。

もちろん、俺にそんな下心などないけど。絶対に、絶対にだ。


 そんな妄想で現実逃避していれば、カタンというトレーの置かれる音で我に帰る。

左隣の席に、一人の若いスーツの女性がやってきたのだ。



(まさかこの人が?)



 そう思った時、彼女はトレーの上の、クリームの山が築かれたドリンクを飲みながら、ノートパソコンをひらく。

どうやら違ったようだ。

周りの様子をうかがえば、満員というほどではないが、少し人が増えてきたようだ。


 これは困ったな……。二人掛けの席に座っておいたほうがよかったかもしれない。

右手の席は空いているが、そこも埋まれば、まーちゃんが来た時に、座る場所がなくなってしまう。

人と待ち合わせなんて慣れてないのもあるけど、これは迂闊だった。

けれど今さら席を移ろうにも、ちょうど良さそうな場所はもうなかった。


 仕方ないので、来たらそのまま店を出よう。

というか、普通に舞い上がってて忘れているが、俺に気付かなかったフリする可能性の方が高いのだから、気にすることもないか。


 そう思っているうちに、右の席も埋まる。こっちは茶髪の若い男だ。

ジャケット姿はが妙にさまになってる、優男という言葉がしっくりくるようなヤツ。


 待ち合わせ15分前にして、両隣が埋まってしまった。

仕方ないので、もしまーちゃんが来たとして、買ったものはテイクアウトだ。

幸い、この店の飲み物はイートインであっても紙コップなので、なんの問題もない。

まーちゃんが食べ物を頼んでいたら……、その時は俺が席を譲って食べ終わるまで待っていればいいか。


 やっぱり俺、変だ。

来ないと思ってる相手を、こんなに待ち侘びている。

もう、何も期待しないと誓ったのに……。

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