49.ネズミ、襲来
嫌な連絡が入った。今日、俺とまーちゃんに、あのネズミが会いにくるらしい。
といっても俺は、昨日の通話のこともあって、もちろん来るなと言ったのだ。
だから、俺たちの居場所も教えていない。
今は、呪われたぬいぐるみたちがわらわらと出てくる、廃墟のおもちゃ工場でまーちゃんのレベル上げ中だ。
というのも、ぬいぐるみをもみくちゃにして倒すことで得られる布と綿は、意外と貴重らしいのだ。
昨日、俺が通話中に話をしていたそうなのだが、ワタと布は、どちらも裁縫スキルの初期の熟練度を上げるのに必要らしい。
そのため、スキルを持つ人には多く必要とされるのだが、供給元が少なく、高値で売れるそうだ。
なので、レベル上げもできて、金も稼げる相手として、狩場をここへと変えたのだ。
綿を揉む……、というか引きちぎる作業が必要なので、効率は落ちるものの、レベル上げと収入の一挙両得な場所は少ないので悪くない。
それに、まーちゃんもスキル取ったら必要になるし、事前に集めておくのもいいだろう。
だけど、あのネズミのことだ……。
なんとなく、なんとなくだが、なぜかこちらの居場所を把握している気がする。
それは、前に会った時の違和感。ゆっくり考えてみるほどに、それは違和感の塊なのだ。
クエストで山を登った時、なぜあいつらは、あそこにいたのだろうか。
あの場所は、トラップで落とされる場所だ。
つまり普通に行動していれば、踏み入るはずのないエリア。
そんな場所に、なんであいつらはいたんだ?
商人の不動と、商人ギルドで出会うのとはワケが違う。
なんの意味も、意図もなければ、出会うはずもない相手なんだ。
「トンちゃん、どうしたの? 難しい顔しちゃって」
「へぁっ!? そ、そうか!? 気のせいやって」
「ふーん?」
いやいや、考えすぎだな。
昨日の悪ノリで、少し俺も人間不信に……。ネズミ不信か? うん、そういうのになっているんだろう。
それに、前会った時、見かけたからついてきたって言ってたはずだ。
それなら、街で見かけて、山に行くのも、ずっと後ろから追いかけてたって可能性もある。
あの悪ノリネズミのことだから、十分考えられる話だ。
だから、ここにいることがバレる事はないはず……。
確実にないと言い切れる。
…………、はずだった。
「きたよー!」
「マジで来やがった……」
「連れない反応だなぁ」
そこには笑顔で手を振る、全長約1.5メートルのネズミ。
そしてその隣には、いつも通り黙ったまま腕組みしている、赤い狼が立っている。
まーちゃんは二人が来る事など知らなかったのだが、それでも失礼のないようにと黙りこみながらも、ぺこりとお辞儀をした。
だいぶ慣れた相手とはいえ、心が落ち着くまで沈黙を貫くのは、いつもどおりの光景だ。
「なんでセンセらは、こうもワイらの居場所わかるんや?」
「ふふふ、それは企業秘密なのさ!」
「なんの企業や」
「そんなのいーじゃん? ちょっと休憩に、街へ戻らない?」
「マイペースというか、なんというか……。まーちゃん、休憩にするか?」
そう問えば、まーちゃんは少し悩むそぶりをしながらも、静かにうなずいた。
悩む間は「ホントはいやだけど、相手に悪いしな」という、そういった考えが巡る間だと思う。
「ほな、いこか」
「ほいほい! んじゃ、街までのゲート出しちゃうよん!」
「えっ、ネズセンセって、転移魔法使えるような魔法使いやったんや?」
「そだよ? 赤さんが接近戦闘、僕が魔法での支援だよ」
「ほーん。意外とちゃんと冒険できる組み合わせやったんやな」
「まー、そんなに戦闘はしてないけどね?」
そんな話をしながら、前足でゆっくりと空間をなぞれば、その軌跡が切り口のように開き、青白い時空の裂け目が現れる。これが複数人を移動させるための、転移用ゲートだ。
俺もスキルは持っているし、クエストでNPCを移動させるために使ったこともある。
けれど、基本的に一人で行動する俺には、直接指定した場所へジャンプする魔法で十分だった。
だからこそ、俺には縁のない魔法。そして、誰かに用意してもらうなんて、今までは無かった。
そんな事を思い出すと、本当に……。
本当にまーちゃんと出会ってから、俺の生活は一変したのだと感じるのだ。




