47.ワルノリ・タテノリ
ネズセンセとの通話を終え、作業部屋に戻れば、まーちゃんたちは別のぬいぐるみを作りながら、まだスキルの話をしていた。
「スマン、待たせたな」
「いや、大丈夫だ」
「なんや、新しいの作っとんか?」
「あぁ。君たち二人の、お揃いがあった方がいいだろう?」
「えっ……」
なぜそうなった!? と言いかけて、まーちゃんの「お願い」の視線に、すんでのところで思いとどまった。
「ってことは、ワイの分か? なんや悪いなぁ……」
「気にすることはない。大した仕事でもないしな。
それに、スキルを取っていない時に作ろうとした場合どうなるかも見られたし、なかなか面白かったぞ」
「そういや、スキル取ってなかったらどうなるんや?
剣士系のスキルなくても剣は使えるけど、スキルなくてもそういうんは作れんのか?」
「それがだな……。試してみたら、道具を持ち上げられなかったんだ」
「へ?」
「いや、道具は持ち上がるんだが、道具と材料を両方持とうとすると、重量オーバー……。あー……」
「あぁ、それは多分あれやな……。
スキルのカミサマが『お前にはまだ早いっ!!』みたいな」
「それではまるで、頑固者師匠みたいだな」
「寿司を握ろうなど、10年早いわ! みたいな」
「寿司屋の修行も、最初は下働きからというな」
適当なごまかしで、それっぽい話をでっち上げるのもこれで何度目か……。
工場見学に来た子供のように目を輝かせ、ぬいぐるみが形作られる様子に見入る、まーちゃんの様子を見ながら、俺は言いようのない後ろめたさを感じていた。
『まーちゃんとは、ゲームの中での友達や。
ワイは、リアルで会うつもりなんてない』
画面越しのネズミにそう言い放った俺は、どんな顔をしていたんだろう。
今まで、ゲームでもリアルでも、ずっと一人を貫いてきた。
もう二度と、誰かに期待なんてしない。ずっと一人で過ごすんだと、そう思ってきた日々。
なのに今は、こうやって他の人と過ごしてる。最初はゲームシステムのせいで嫌々だった。
けど今は……、こうやって、少しずつ知り合いが増えて……。
それが少し、居心地がいいとさえ思ってしまっている。
『まぁまぁ、そう言わずに。ほら、お礼したいでしょ?』
『お礼? なんのや?』
『結婚システム。あのシステムの抜け道のために、無理させてるでしょ?』
『ぐっ……』
『普通さー、商人でも戦闘スキル取るべ?
経験値稼ぐには、戦うしかないんだもん』
『せやけど……』
『あー、かわいそうに。君の無茶振りがなければ、もっと好きに、この世界を楽しめただろうにねぇ……』
『うぐぐ……』
そう言われてしまえば、俺も弱かった。
まーちゃんは、この世界をただ単純に楽しみたかっただけで、伝説の製造職を目指してやってきたわけじゃない。
それを俺が、無理やり俺の目的のために、俺の効率至上主義に基づいた、作業のような世界にしてしまったんだ。
『YOU! 彼女をデートに誘っちゃいなYO!』
『なんやその、どこぞの凄腕アイドルプロデューサーみたいな喋りは』
『そんでお礼に、ご飯ぐらい奢っちゃいなYO!』
『悪ノリネズミ……』
『悪ノリは今に始まったことじゃないZE!』
『ウゼェ……』
『ま、そゆことなんでー! がんばえー!』
『ちょ! 待ち! ワイはまだ誘うなんて……』
俺の言葉を聞かずに、悪ノリネズミは通話を切った。
思い出すほどに不可解で、意味不明なあのネズミの投げつけてきた爆弾。
それをどうするか、俺はまーちゃんの顔を見ながら、考え続けていた。
「…………?」
「なっ、なんでもあらへん!」
突然振り向き、「そんなに見つめてどうしたの?」とでも言いたげなまーちゃんに、俺はギクシャクしながら、そう答えるのがいっぱいいっぱいだった。




