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46.着信アリ



「色々説明したが、結局やりたいこと次第だ。

 自分の店を持ち、理想の飾り付けをしたいなら、やはり大工と裁縫は欲しいな。

 その二つで雑貨・家具・服の三点は作れるようになる」


「せやなせやな」


「あと防具の知識があれば、裁縫と合わせて防具、大工と合わせて盾が作れるな」


「ええやんええやん。実用的や」


「それで……」


「あっ……。スマン、なんや通話来たみたいや。ちょっとワイは席外すで」


「あ、あぁ。わかった」



 ピコンと鳴ったお知らせに、俺は作業部屋を後にし、ウインドウを開く。

宙に浮かぶ画面に表示されたのは、ネズセンセの名前だった。


 何か約束事でもしたかと頭を巡らせたが、そんなはずはない。俺のコミュ障っぷりをナメてもらっては困る。

できるだけ関わり合う人を減らすよう、余計な約束などしないのが、俺の立ち回りだ。


 といっても、さすがにこれを放置するのは……。

まぁ、いつもの「関西弁で喋るおっちゃんモード」なら、会話に詰まることはない。

適当にあしらってしまおう。



「はいよー、どないしたん?」


「おっ、元気してるー?」


「ぼちぼちやなぁ。そっちは元気そうでなにより」



 接続ボタンを押せば、あのネズミの姿が画面に映った。どうやら、ビデオ通話らしい。

もしかして、全ての通話はビデオ通話なのか? 使ったことない機能だからよくわからないな。



「ほんで、いきなりなんなん? 連絡よこすなんて、初めてやん」


「まあねー。色々あって、各地飛び回ってるから」


「へー。あっ、もしかしてあれか? 獣人の国がナントカってやつ、ホンマにやっとんか?」


「まーそれもある。けどねー、他にも色々あるのさ!」


「ほーん。別に何やっててもええねんけど」


「あっ、興味なさげだね!?」


「そらそやろ。好きにやれんのが、このセカイのええとこやし」


「ははは、キミも馴染んできたねぇ」


「何がや?」



 画面の向こうのネズミは、俺の言葉に何を思ったのか笑い出す。

そして、そのワケを聞けば、俺も毒されてきたなと、自分で思い知らされたのだ。



「いやね、この『ゲーム』って言わなかったなって」


「あ……」


「うんうん。マコちゃんとは、うまくやれてるってことだね!」


「ま、まぁな……。

 なんや! からかうために電話したんか!? 切るで!?」


「あー! 待って待って! ごめんって!」



 強い口調で言えば、本当に怒ったと思ったのか、ネズセンセは焦りながら謝罪してくる。

謝るくらいなら、最初から言わなければいいのに。



「いやいや、あのね! あー、関係なくはない話なんだけど」


「なんや、じれったいな」


「映画興味ない?」


「はい?」


「それがね、映画の無料券が当たったんだけど、アカさんも僕も都合が悪くてね。

 有効期限も近くて、もったいないから、二人にどうかなって思って」


「ホンマに切るで?」


「ちょっと待ってよー! ホントなんだって!」


「だいたいな、まーちゃんがどこに住んでるかもわからんし、映画館も遠いトコなんちゃうん?」


「そうなんだけど、映画館は系列のトコならどこでも使えるんだ。

 ただし一枚で二人っていうのが決まってるから、二人の住んでる場所が遠いと、無理かもしれないけど……」


「ほーん……。ん? さっきアカセンと一緒に行くつもりやったって言うてなかった?

 もしかして二人って、リアルでも知り合いなんか?」


「え? そだよ? 言ってなかった?」


「…………。せやな、聞かんかったしな」



 いつも一緒にいて仲がいいと思っていたが、どうやら元々の知り合いだったようだ。

…………。ずっと一緒に居るけど、まーちゃんとはリアルの話をしたことがない。


 それは、ずっとまーちゃんに合わせて、この世界がゲームだって思わせないようにしていたからだ。

だけど本当は……、本物の自分を見せるのが怖かっただけなのかもしれない……。



「どしたの?」


「なんでもあらへん」



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