45.裁縫上手な先輩
きらきらと目を輝かせながら、まーちゃんは元ボロ雑巾だったぬいぐるみが、再び綺麗な姿を取り戻す様を眺めている。
じっと見つめられて、作業しにくいだろうと俺なら思うのだが、どうやらチョロ先は逆のようだ。
いつものマジメな顔ではあるものの、少し頬が緩んでいるように思う。
そりゃね、まーちゃんみたいな可愛い女の子に羨望の眼差しを向けられて、それを無碍にするやつの方が少ないだろうけどね。
得意げな表情を浮かべながら、チョロ先はよそ見しながらでも作業できるとアピールするように、まーちゃんに話しかけた。
「君は、製造系のスキルを取るつもりなんだったな。どんなものを作りたいんだ?
取るスキルによって作れるものも違えば、スキル同士を組み合わせないと作れないものもあるぞ」
「…………」
しかし、まーちゃんは言葉を発しない。
さすがにしばらく顔を合わせてるし、多少慣れたと思っていたが……。
うっかり暴言を吐いてしまうのが怖いのだろう。
「そういや、前は大工スキル取って、家具作りたいって言ってたな。
でもまーちゃんは可愛いモノ好きやし、裁縫取るのも良さそうやないか?」
「なんでお前が答える……。まぁいい、確かに裁縫はおすすめだ。
布製の防具類を作れるし、アバタ……、じゃない……、えっと……」
「普通の服も作れるんか? それええんちゃう?
まーちゃんは、ワイの知らんうちに、可愛い服見つけて買うくらいにはコダワリあるしな。
自分で作れれば、そのセンスでもっと似合うモンも作れるんちゃう?」
「お前、それは……。いや、指摘するのも無粋か」
「ん? なんや?」
なにか言いかけたが、さっと言葉を引っ込める。
気にはなるが、今はまーちゃんの話だ。俺には製造系スキルについて説明できないし、聞かせてもらおう。
「せっかくやから、製造系のスキルについて教えてもらい。
店で売るのにええモンとか、自分で使うのにいいモンとか、色々あるやろ?」
「そうだな。スキルポイントの制限もあるし、取捨選択は必要だ。
とくに製造スキルを取りすぎて、戦闘スキルを伸ばせなければ、今後支障が出るかもしれないからな」
「あ、それについては大丈夫や。まーちゃんは戦闘スキル取ってへんで」
「はあっ!? なんだそれは!?」
ドンっと作業台に手をつき、食い入るチョロ先に、まーちゃんも俺もビクリとのけぞった。
まあでも、普通のプレイヤーからすれば、かなりの特殊な育成してるし、こういう反応も致し方なしだ。
とはいえ、まーちゃんは驚きすぎてビクビクしている。
慣れたと思ったらこれだ、なかなか手のかかる子だ。
「すまない、驚かせてしまった……。
いや、驚いたのはこちらの方だが……」
「まぁまぁ、色々あってん。
でもその分、いろんなスキル取れるんやしええやろ?」
「確かにそうだな……。
しかし、本当に全部のスキルを製造系に回すなら、今まで誰もなし得なかった、全製造スキルのマスターも可能では……」
「え? そうなん? 製造系全部取るって、普通は無理なん?」
「戦闘系にポイントを振れば、全て取ることは不可能だ。
前提スキル、つまり実演販売などに必要なポイントも計算すると、生涯で得られるポイント全てを使わないと無理になっているのだ」
「はー、スキルのカミサマは、きっちり考えとんやなぁ」
「だからこそロマンであり、伝説なのだ。
戦闘を極めた者はこの世界に一人居るらしいが、こちらはまだゼロだ」
「戦闘を極めた……?」
「そういえば、最近ボス討伐アナウンスが流れてこないな」
「そっ、それはええから! それはええから、スキルの説明をやな……」
「ん? あぁ、そうだったな」
危ない、最近のんびりしすぎて忘れていたが、おそらくその戦闘を極めたってのは俺のことだ。
ボス討伐アナウンスで、名前が出るわけではないので気づかれていないが、知らぬうちに有名人になっていたらしい。
戦闘系のプレイヤーが噂する程度だと思っていたのに、まさかチョロ先みたいな商人系の人にも認知されていたとは……。




