44.先輩のお店訪問
「ちゅーことでな! このぬいぐるみ修理してやって欲しいんや」
「店まで来て、何事かと思えば……」
商人ギルドの運搬クエストを終えた後、俺たちは不動先輩、別名チョロ先輩と連絡を取り、店までやってきていた。
店は街の中の建物の一角を借りた場所で、レンガ作りの、すこし寒々しい外観とは違い、中は木の温もりあふれる、商品棚が並ぶ雑貨屋だった。
棚には色とりどりのぬいぐるみが置いてあり、もしかしてチョロ先は、こういうかわいいもの好きなのかと思ったが、そういうわけではないらしい。
「こんなけぬいぐるみ作るくらいやし、朝飯前やろ?」
「これは練習用だ。今は作っていない」
「へ? なんでや? ぬいぐるみ屋するんちゃうんか?」
「お前は……。俺がぬいぐるみ好きだと思ったのか?」
「好きやなかったら、こんなに作らんやろ?」
「そうか、製造系スキルの事を知らなければ、そう思われても仕方ないか……。
せっかくだ、裏の作業場を見せてやろう。君はこういうの、好きなんだろう?」
キョロキョロと周りを見回すまーちゃんは、そう問いかけられると、目を輝かせてコクコクとうなずく。
どうやら、まーちゃんに対するサービス精神らしい。
チョロ先輩も可愛い子には甘いのか。やはりチョロい。
「何か失礼な事を考えなかったか?」
「んなわけあらへんやろ?」
ギロりと睨まれたが、さすがに読心術なんてスキルはないはずだ。
あったとして、心を読まれるとかゲームにしたってありえないしな。
カウンター奥の扉の先、そこが作業スペースだ。
さまざまな布地や綿、木材に皮など、製造するのに必要な物が整然と棚に並ぶ、店先とは違う無機質で、整然とした部屋。
こういう所に性格は出るものだ。チョロ先輩のきっちりとした、お堅い性格が現れている。
特に、ゲームなのに棚の所に、置く材料のネームプレートがかかっている所にそれを感じる。
「裏はなんちゅーか、ザ・仕事場って感じやな」
「楽しげな所だって、裏側とは大抵そういうものだろう」
「夢も希望もあらへん発言やな。ん? これは……」
きょろきょろと見回す先、そこにあったのは、戦闘系スキルを取る者にとっては大変お世話になるもの、人形の打ち込み台があった。
「これって、戦闘スキル磨くための的やんな? なんでこんなもんがあるんや?」
「それだ」
「へ?」
「それを作れるようになるために、練習としてぬいぐるみを作っていたのだ」
「……へ?」
いまいちピンときてない俺に、若干ため息まじりにチョロ先は説明してくれる。
てか仕方なくない? 俺戦闘しかしたことないんだし。
「製造スキルはな、スキルを取ったからといって、全てを作れるわけではないのだ。
最初は小さいもの、そして次第にスキルの習熟度が上がれば、大きいものも作れるようになるのだ」
「ほうほう。つまりこの的って、結構習熟度高くないと作れんのか」
「そうだ。裁縫スキルと、大工のスキルが必要なのだ。
それで裁縫スキルを磨くため、ぬいぐるみを作っていたんだ」
「まぁせやろな。強度ないとあかんし、こんなデカいもん、素人には作れんからな」
近づいてよく見れば、縫い合わせる材料は普通の糸ではなく、うどんを思わせる太さに切られた革だった。
こんなものを糸代わりにするのだから、そりゃリアルな世界を作ろうとする運営なら、かなりの習熟度を要求するよう設定するはずだ。
「そういうわけで、今は熟練度も上がったので、ぬいぐるみは作っていないのだ」
「ほーん……。え?」
「まっ……、まぁ、オーダーされたなら作らんでもないがっ……!」
涙目で無言の訴えを起こすまーちゃんに気づいた先輩は、あせって取り繕う。
可愛いは正義。そして相手はチョロい。言葉はなくたって、この勝負まーちゃんの勝ちだ。
「お前、また失礼な事を考えていないか?」
「そんなワケあらへんやろー? 先輩の凄腕見れると思うと、楽しみでしゃーないわ」
「そっ、そうか? ならゆっくり見ていくといい」
やっぱりチョロい。




