42.荷運びクエスト
「それでね、冒険者じゃない街の人をスカウトして、商人ギルドに登録すれば、自分のお店で働いてもらえるんだって」
「ほうほう。だから先輩は、ギルドに来とったんか」
「そうみたい。熟練度が上がると、雇える人数が増えたり、扱ってもらう商品を増やせるんだって」
「ほー。製造できるようになったら、販売を任せられるっちゅうわけやな」
「そうみたい。自分のお店か……。いいなぁ……」
チョロ先輩たちと別れたあと、森の間を縫うように通る道を、ゴロゴロと台車を引きながら、まーちゃんは、あの高性能NPCから聞いた話を俺にしてくれていた。
どうやら話を聞いて、自分の店を開くという夢を持ったようだ。
本人が店頭に立つのは難しそうだが、まーちゃんの店なら、きっとかわいい店になるんだろうな。
「そうなると、やっぱ資金繰りが問題やな。
クエストでちまちま稼いでても、店開くための家は買われへんしなぁ」
「そうだね……。この荷物をシルバ村に届けるクエストだと、どのくらいで家が買えるんだろう?」
「安い家でも、ざっと300回くらいやな」
「えぇぇぇ……」
「しかも、クエストは常に出てるとも限らんっていうオマケ付きや」
「はぁ……。夢は遠いなぁ……」
現実を思い知ったまーちゃんは、がっくりと肩を落とす。まぁ、これゲームなんだけど。
しかし、先輩が販売員の登録に来たってことは、家を買って店を開いているということか……。
別にどっちが早いとか、そういう競争をしているわけではないが、少し置いていかれていると感じて悔しいのは、やっぱり俺が根は効率厨のせいだろうな。
そんなことを思っていれば、茂みがガサガサと揺れていることに気付く。
クエストに関連したイベントかどうかは分からないが、どうやら戦闘になりそうだ。
「まーちゃん、剣構え」
「はいっ!」
茂みから黒い影が飛び出す。それは俺と同じ、30センチくらいの大きさ。
そして、ヨタヨタと二足歩行をしている。
「えっ……。かっ! かわいい!!」
まーちゃんがその姿をしっかりと見た時、緊張の面持ちは、即座に乙女のそれへと変わった。
そこに居たのは、薄汚れた灰色のうさぎ。けれど、ただのうさぎではない。
目はボタン、口はバッテンの刺繍がされた、うさぎのぬいぐるみだ。
全身ボロボロで、耳は折れ、所々生地が破れて、中の綿が飛び出している。
というか、こんなボロ雑巾でも、まーちゃんはかわいいと思うのか……。
「待ち!! 油断したらアカン!!」
「え? きゃっ!」
どんっ! という音とともに、まーちゃんは尻餅をつく。ボロ雑巾のタックル攻撃だ。
ぬいぐるみに悪霊が憑いたものなのに、何故か攻撃は物理攻撃という、妙なモンスター。
厄介なことに、コイツは切り裂いても綿が集まって、修復される特性がある。
そのため、炎属性の魔法で焼き払うのが、一番効果的な対処法だ。
「まーちゃん! これ使い!」
「へっ!?」
俺が出した剣は、赤くゆらめくオーラを宿す剣。切り裂いた相手を焼き尽くす、業火の剣だ。
あー、名前は秘密にしておこう。どらごんばすたぁ事件から、全部名前を非表示にする細工したから、今度は大丈夫なはずだ。
「その剣で斬って、焼き払うんや!」
「それって、大丈夫なの!?」
「アイテムは手に入らんが、普通に戦っても勝てんで!」
「うー……。それは後で! 一回普通に戦ってみるね!」
「ちょっ……」
「なんたって、切れ味の良さが自慢ですからっ!」(514)
まーちゃんは、持っていた剣でズバッと、うさぎのぬいぐるみを縦半分に叩き斬った。
それは見事な腕前で、ダメージの数字も十分な値を叩き出す。
そして、ぬいぐるみはぼてっと、その身を地面に横たえるのだった。
「やったぁ!」
「油断したらアカン!」
「へっ?」
俺の声にもう一度敵に向き直れば、そこにはもぞもぞと這い寄って集まり、綿の群れが塊へと変化してゆく所だった。
「えっ……。気持ち悪っ!!」
「また来るで!!」




