40.お堅い先輩
俺の考えた、ゲーム設定を誤魔化す10の方法とやらを伝授すれば、チョロ先輩はうんうんとうなずいている。
まぁ、実際は10もないし、口からでまかせなので、その時々によって設定が変わったりしてそうだが… …。
ま、まぁその辺は、物理の試験の摩擦係数とおなじく、無視するものとする。
「色々気になるところはあるが、ステータスを管理する神様なんて設定、適当に思いついたといったわりには、なかなか面白いな」
「異世界やったら、神様くらいおるやろ。魔法も使える世界やし」
「ふむ……。もう少し柔軟な発想が必要なようだな」
「せやな。結構チョ……、ふどー先輩は頭硬いトコあるみたいやしな」
「今、チョロ先輩と言いかけなかったか?」
「気のせいや。気にしたら負けや!」
「まあいいが……」
危ない危ない……。なんとかごまかせたが、思っていることを口に出しかけていた。
いつも口調は変えているけれど、考えまで変わってるわけではないし、気をつけないと……。
「そんなことより、さっき言いかけてたアレってなんや!?」
「ああ、運営が投入するという人工知能のことだ」
「人工知能? 普通にいままでもNPCはソレつことるやろ?」
「そうだ。だがより高性能な、『強い人工知能』と呼ばれるものを入れるらしい」
「強いって名前の時点で、頭が弱そう」
「それを言いだすと、話が進まないのだが……」
「スマンスマン。続けて」
「ああ。その強い人工知能というのは、今までのとは違い、人間のように自ら思考するものを指すらしい。
それを導入し、その人工知能にこのゲームの管理を任せるという話を、前にネット記事で見たんだ」
「へー、よおわからんけど、すんごいんやろな。
てことはNPCも、ソレのせいでややこしなったんか?」
「おそらく。少なくともNPCのリアルな反応は、その人工知能によって搭載されたものだろう」
「あー、ワイがこれ言うのどうかと思うんやけどさ……」
「なんだ?」
「たかがゲームに、そんな高度技術要る!?」
「あぁ。それが普通の反応だろうな……」
反発するかと思いきや、意外と同意見なのかうんうんとうなづく。
そんな反応に、チョロ先とは懐古厨同盟が組めそうだと思わせた。いや、そんな同盟組まないけど。
「しかし、その点も記事は触れていて、どうやら運営というか……、運営会社自体の方針があるようだ」
「その前にいっこ聞いてええか?」
「なんだ?」
「その記事って、なんでそんなトコまで書いてん?」
「経済新聞の電子版の記事だからな」
「はえー……。ホンマ不動先輩、お硬い人やな。
ゲームしてんのが不思議なくらいに」
「誰でも、気分転換にゲームくらいするだろう」
「しかし、ゲームの中でも商人……。気分転換とは」
なんだかチョロ先輩のイメージが、やり手ビジネスマンに変わっていく気がした。
なんたって電子版とはいえ、経済新聞を読むような人だしな。
「話を進めていいか?」
「あっ、はい」
「それで、運営会社の方針というのが、『ゲームを作るではなく、小さな世界を作る』というものだそうだ」
「目標が崇高……」
「ならば、NPCがリアルな反応をするように改良されるのも、納得だろう?」
「せやな。普通の人と変わらん反応せな、世界を作ったとは言えんからな」
「そのうち、スキルやステータスという概念も大きく変更されるかもしれんな……」
「そうなると、ワイは引退かな……。
ワイがやりたいんはゲームであって、リアルの続きやあらへんからな」
「うむ……。確かにそうだな。
だからこそ、今はまだその辺りは変更されていないし、変わるとしてもかなり先だろうな。
それこそ、ユーザーの意識が変わるほどのゲーム感……。いや、世界観ができてからの話だろう」
「うん、やっぱ不動先輩は頭硬い人やな」
「なっ……」
話のオチまでガッチガチに固めるチョロ先輩は、この先の変化に対応できるのか……。
他人事ながらに心配になってきた。




