39.秘密会議
「で、従業員って、なんの従業員なんや?」
「あぁ。その前に、君は実演販売のスキルは取ったか?」
その質問に、まーちゃんは黙ったまま、コクコクとうなずいている。
「そうか。なら、その先のスキルツリーも見ているだろう?
そこに、従業員雇用があるはずだ」
「ほーん。ワイは実演販売取ってないから覚えられへんけど、ツリーにはあるな」
「取るかどうかはプレイ方針次第だが、商人系を目指すならば欲しいスキルだな」
「あっ……」
その言葉に、俺は大事な事を思い出す。
チョロ先輩は、まーちゃんがロールプレイングガチ勢だということを知らないのだ。
「プレイ方針」なんて言われても、今は気にならなかったのか熱心に聞いているが、そのうちふてくされる可能性もある。
俺はそっとチョロ先輩に近付き、耳打ちをする。
まーちゃんに聞かれないよう、細心の注意を払いながら。
「ちょっと、言っとかなアカンことがあんねんけど……」
「なんだ?」
「ここじゃマズい。奥行こか」
「ん?」
そんな俺の様子に、まーちゃんは頭の上に「?」を浮かべている。
それは隣に立つ、見目麗しいNPCも同じだった。
いや、よくできたAIだが、そんな二人して息を合わせたかのように、小首を傾げられると……。
二人とも見ためが良いから、すんげーかわいいな!!
「ちょっと二人は待っててなー。
ガールズトーク、っちゅうんを楽しんでってなー」
「なんだそれは……」
キレのないツッコミを入れるチョロ先輩を部屋の奥へ押し込み、俺はこそこそと話す。
「あんな、悪いんやけど頼みがあんねん」
「わざわざ、こんなところで話す必要のある事か?」
「あることや。あんな、まーちゃんはいわゆる、ロールプレイングガチ勢やねん。
つまり、この世界をゲームとしてじゃなく、異世界やろ思て楽しんでんねん。
せやから、ゲーム的な話も、うまいことごまかしたって欲しいねん」
「あぁ、それか……」
ため息のように漏れる言葉とともに、チョロ先輩の目が泳ぐ。
何か隠しているのだろうか?
「なんや? なんか問題があんのか?」
「それがだな、最近同じような問題が起きて困っているのだ」
「へー。ロールプレイングガチ勢って、そんなおるもんなんか」
「そうではない。NPCだ」
「へ? NPCがどないしたん?」
「それが、さきほどの販売候補の彼女、NPCとは思えぬ反応をするのだ。
前までは声をかけて、販売員になってもらいたいという話をすれば、すぐに受けていたんだがな……」
「今はちゃうんか?」
「あぁ。何度か交流して、親睦を深めてからでないとダメになった。
その上、まさにこの世界が本物であるような振る舞いをするのだ」
「へ? そんなけったいなプログラム組まれとんか?」
ってことは、まーちゃんと一緒だから回避できていた揉め事も多いのかもしれない。
ただのNPCだと思って、店員に雑な対応をしていれば、相手によっては喧嘩をふっかけてくる、なんてことも考えられる。
特に冒険者ギルドにいる、荒くれ者のNPCなんかだと、そういう風に作られていても、リアリティを求めたんだと納得できるしな。
「おそらく、アレが投入されたんだろうな……」
「アレ? なんや、もったいぶらんと教えてえな」
「…………。知っているが、お前の態度が気に入らない。
と、いつもなら言っている所だが……。
少し手伝ってもらえるなら考えよう」
「手伝い? ワイにできることならええで」
「なに、簡単なことだ。いつもあの子と話す時、どういうふうにゲーム的要素を隠しているか教えて欲しい」
「あぁ、NPCとのやり取りに困ってんのか……」
「そうだ。今ではリアリティがないと思っていた、昔の会話を選択するタイプのゲームのありがたさが身に染みているのだ……」
「わかる。ゲームはリアルやったらええってもんでもないなって、最近ワイも思たところやわ… …」
昔のゲームを思い出し、若干懐古気味になった俺たちは、タイミングを計ったかのようにため息をつくのだった。




