33.あっとほーむなしょくばです
「ついに……! ついに来たわ!!」
「うわっ! いきなりなんですか……」
「ついに来たのよ! 私の忍ばせたシステムを利用する子が!!」
「はい?」
オフィスの仕切りの隣から突然聞こえた声に、石切琢磨は何事かと問いかけた。
けれど返ってきた答えは、彼を困惑させるだけだった。
「あの、愛理さん……。今度はなにやらかしたんですか?」
「やらかしたとは失礼ね! ちょっと細工してただけよ?」
「それ多分、ユーザーにバレたら面倒なヤツですよね?」
「なによ、別にいいじゃない。私たちがルールなんだから」
「うーん……。内容の重大さによるんで、説明してもらっていいですか?」
ドヤ顔の生駒愛理は、胸を張って彼に説明をし始める。
「石切君、このゲームが生産職に厳しいという評価を受けているのは、当然知ってるよね?」
「そりゃもう、何件もクレーム食らってますからね。
先輩が一向に修正の許可出さないんで、『仕様だ』の一点張りで放置してますけど」
「そう! そんな状況を知っていながら、私が許可を出さなかった理由、わかる?」
「知りませんよそんなこと。
だいたい、戦闘でしか経験値入らないって仕様にこだわる理由なんて、初期に面倒なプログラム組んで改造できなくなったとか、その程度しか思いつきませんし。
でも、実際プログラム的には簡単に修正できそうでしたし、ただのこだわりじゃないんですか?」
「まぁ、こだわりっちゃこだわりだけどね?
けど意味もなく生産職を不遇にしてたわけじゃないわ!」
「じゃあ、なんなんです?」
「抜け道を作って、それを見つける人が出るのを待ってたの!」
「抜け道?」
「そう! 生産職の不遇スキル、実演販売の活用よ!」
「あー、あのNPCに高値で売れる代わりに、時間のかかる面倒なスキルっすよね。
普通に売却価格上がる交渉スキルの方が使い勝手いいって、攻略wikiに書かれてましたね」
「実はそんな不遇スキルが、めちゃくちゃ強かったりしたら、面白いと思わない!?」
「思わないっす」
「かっー! 分かってねぇなぁ!!
不遇からの成り上がりは、ランキングを席巻する鉄板ネタじゃないのさ!」
「それ、どこのネット小説サイトのランキングっすか」
「どこのだろうね」
ホントにどこのだよ。大抵のだよ。
両者そう思ったことは、言うまでもない
「ともかくよ! そのスキルを使えば、武器の攻撃力が爆上がりすんのよ!」
「へ、へぇ……。なんでまた、そんな面倒な仕様を?」
「浪漫よ」
「は、はぁ……。左様にございますか……」
「てことで、この子がそれを見つけた子よ!」
「どれどれ……」
指し示すモニターには、可愛らしいアバターの商人の女の子と、羽の生えた小さな黒ブタが映っていた。
そして大量の剣を言葉巧みに売り捌きながら、モンスターを次々と討伐するのだ。
「あの、モンスターが武器買ってません?」
「そりゃね、NPC相手に発動するスキルだからね。モンスターも対象よ」
「意味がわからない……」
「そりゃ、モンスターの湧く場所に、街に居るはずのNPC出せないじゃない」
「どうしてです?」
「NPCは一般人だからよ!」
「あ、世界観の話っすか……」
呆れる石切に対し、生駒はいまだにドヤ顔だ。
それほどまでに、彼女はこの裏技とも言える仕様を気に入っていたのだろう。
そう察した石切は、これ以上ツッコミを入れることを放棄するのだった。
「まぁいいんですけど、ユーザーの観察はほどほどにして、ちゃんと仕事してくださいよ?」
「そのへんも抜かりないよ。次に仕込む仕様の穴を考えてるトコだから!」
「いや、そういうんじゃなくて……。まぁいいか、先輩が楽しいなら」
あきらめの境地に至り、適当に切り上げて自分の仕事に戻る石切であった。




