22.はじめましてボス戦
周囲を取り囲む、巨大赤キノコのバケモノは、ジリジリとにじり寄ってくる。
人の背丈ほどあるのだから、かなり食べがいがありそうだと思いつつ、そういえばこれ毒の取り扱いを覚えるクエストだから、こいつら全部毒キノコかと残念に思った。
「どっ、どうしようトンちゃん!」
「まぁまぁ、焦んなや」
震える声でまーちゃんはあわわわと焦るが、これもイベントの一環だ。
そりゃ、普通のモンスターならすぐ攻撃してくるし、こうやって団体で襲ってくるなんてことも、ほとんどない。
つまり、冷静に考えればこういう演出なのだとすぐ気付くだろう。
のほほんとその様子を見ている俺と、対照的に焦りまくるまーちゃんに対して声がかけられた。
ついにアイツの登場だ。
「貴様らが侵入者か!!」
「お、来たで。アイツがターゲットや」
「ふえぇぇ……」
キノコの山をかき分けて現れたのは、同じく赤いカサのキノコだ。
けれど、こいつだけ少し色味が違う。イベント専用モンスターだ。
「我が名はカーディナルキャップ! この地を護る者なり!」
「かーでぃなる? きゃっぷ? 隊長ってこと?」
「まぁ、キノコなんは変わらんけどな」
「つべこべうるさいぞ! 貴様も名乗りをあげい!!」
「はいはーい、付き添いのトンちゃんでーす!」
「貴様! 神聖な場になんと不敬な! 力を示す気もないのか!!」
「あ、戦うんはこっちや」
「ひゃぃっ! あ、あの……。マコです……」
「マコか……。よろしい、この神聖なる泉を荒らしたのであれば、覚悟はできているな!?」
「覚悟っ!? ですかっ!?」
「そう。この地に相応しいと、力を示すのだ!」
「えっ……、えぇぇぇぇ!! この数を!?」
「心配せずとも、私との一騎討ちだ! なぜなら我らは、誇り高きキノコの戦士!
一人に対し集団で挑むほど落ちぶれておらんわっ!!」
「ひえっ……」
「なんや、妙に騎士道精神あふれるキノコやろ?」
「外野は黙っておれ!!」
「はーい」
それにしてもこのNPC、めちゃくちゃ優秀だな。
基本的には一人で行うクエストで、しかも完全に外野の俺の発言も拾い、それに対する答えとして相応しい言葉を返してくるのだから。
一体どういうプログラムを組んでるのかと気になってくるほどだ。
まぁ、いわゆる人工知能ってやつなんだろうけど、技術の進歩はすごいもんだなぁ……。
「準備できるまで待ってやる! いつでもかかってくるがよい!」
「ひゃいっ!」
「まーちゃん、やることは基本的に今までと変わらん。殴って、HP減ってきたら薬で回復や。
ただ、毒にしてくるから、その場合すぐに毒消し使うんやで」
「あの、他に何か方法というか……」
「まぁ、様子見もってやな……」
「うん……」
「大丈夫、なんとかなるで!」
「うん! がんばるねっ!」
持ち物を確認し、「よしっ」と気合いを入れてまーちゃんは歩き出す。
けれどそれは、覚悟を決めたというよりは、やるしかないという気持ちがそうさせたようだった。
そしてナントカキャップの前に立ち、静かに小さく一礼した。
「よっ、よろしくお願いしますっ!」
「ふむ。貴様、見込みがあるな……。
しかし手加減はせん! 全力でかかって来い!!」
「ひゃいっ!!」
そうして短剣を構え、まーちゃんは勢いよく飛びかかった。
それにしても、一礼してから戦い出すと、ちゃんとそれに応じたセリフ言うんだなぁ。
俺の時は確か……。あっ、名乗ろうとした時には刻んでたっけ?
というか、その前の囲まれた状態で、そいつらに斬りかかって、それでナントカキャップが部下の身代わりに攻撃を受けたとか、そういう展開だった気がする。
その後体勢を持ち直して、名乗ろうとしたとこを追撃してたんだから、俺って相当短気というか……。
ま、まぁあれだ、効率求めてたらイベントはスキップするものだしね、しかたないよね?
仕方ないよね……?
仕方ないって言え!!
うん、そんなノリでやてたなぁ……。怖すぎるわ、昔の俺。




