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17.怪しい人だかり



「ねぇねぇ、見てっていい?」


「別に急いでないし、ええで」


「やったぁ!」



 跳ねるように人だかりに突撃し、その小柄な体を集団に無理やりねじ込む。

群衆のNPCは、怪訝な顔をするでもなく、まーちゃんを一番前へと通してくれた。



「さぁさぁ! ご覧ください! こちらの木組み、何だと思いますか?

 なんと、こうして火をつけると、あっという間に焚き火に早変わり!」



 群衆の囲む中では、一人の男がただ組まれただけの薪を、無駄に大袈裟な言いぶりで紹介していた。

その光景に、ポカンとした顔のまーちゃんは俺に問いかける。



「ねえ、あれ普通の薪だよね?」


「せやな」


「あの人、薪で何するんだろ? 手品かな?」


「わからん。ワイはあんま街を見回った事ないしな」


「そっか。とりあえず見てよっか」


「せやな」



 今の状態は、組まれて小さなキャンプファイヤーのような状態の薪に、男は火をつけ、焚き火へと変えた。

うーん、手品というか至って普通のことのような……。



「さて、これだけでは終わりませんよ!

 見て! みてみてみて!!

 この焚き火に串刺しの生肉を近づけると……?

 なんと、あの何の変哲もない生肉が、バーベキューに!」


「…………?」



 顔を見合わせ、言葉を探す俺たち。普通、至って普通。

たとえこれがVRゲームじゃなくたって、火に当てれば肉は焼けるだろう。

そんなことを大袈裟に言う男に、俺たちは言葉を失ったのだ。


 けれど周囲の人々、つまりNPCたちの反応は違ったものだった。



「まっ、まさか肉を焼くなんて!?」


「すごいっ! 絶対美味しいやつだ!!」



 などと、口々に歓声を上げている。

その反応に、俺は背中を冷たいものが撫でたような、薄ら寒さを感じた。



「兄ちゃん! 俺にそれをくれ!!」


「おい! 俺もだ! 俺にも10個くれ!!」



 そんなことなどつゆ知らず、周囲の人々は競うように、そのただの薪を買おうと男へと詰め寄った。



「なんやこれ……。なんや、なんやこれ……?

 いや、語彙力消失したわ!! とりあえず、なんかやばない?」


「うん……。なんか怖いね……」



 見ているうちに、男の背に積み上げられていた薪はみるみる減ってゆき、このまま完売御礼となりそうだった。


 けれどその熱狂に呑まれる者たちばかりではない。

その様子を遠巻きに見て、まるで新興宗教の集会を見てしまったと言わんばかりの表情をするNPCの存在に、俺はこの世界がまだ一応狂ってはいないのだと安心したのだ。



「おい、お前ら。何見てんだよ」


「へ……?」



  その声に振り返れば、先ほどの催眠商法モドキを行っていた男が、こちらへと来ていた。

先ほどの笑顔とは対照的に、ゴミでも見るような目だ。


 少しばかりその態度に苛立ったが、俺は今セーフモードで戦えないし、何より街中で戦うとペナルティもある。

なので大人の対応として、適当にあしらうとしよう。



「あぁ、悪いな兄ちゃん。人だかりできてたから、なんかのイベントかと思って見てたんや」


「…………。あんま見るなよ。アレやってんのは、かなり恥ずかしいんだからな」


「へ? 恥ずかしい? なんでや?」


「あ? もしかしてお前ら、実演販売スキル知らねえのか?」


「あー、スキルツリーにはあるわ。取ってないけど」


「そっ、そうか。悪い悪い、冷やかしかと思ってな」



 男は恥ずかしそうに苦笑いしながら、その短い髪をボサボサとかきむしる。

何がそんなに恥ずかしいのか、そして何を勘違いしていたのかわからないが、どうやら悪い人ではなさそうだ。


 ならついてだ、その商人のスキル、実演販売とやらを聞いてみようと思う。

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