12.ヒトリボケ、ヒトリツッコミ
『ほな、明日からレベル上げや!
またおなじじかんにここで会おな!』
なんて言った昨日の俺をぶっ飛ばしたい……。
なんだかんだ、きのうはネズセンセが居たせいで、ボケへのツッコミ役ってことで話せてたけど、よくよく考えてみれば、二人きりとか無理無理むりー!!
それに俺、人付き合いとか苦手だし?
どっちかっていうと、引きこもりクソヲタクだし??
っていうか、どっちかって言わなくたってそうだし???
いやもうマジムリ。このままバックレようかな……。
いやでも、待ってたらかわいそうだし……。
いやいや、それ以前に、向こうが来ない可能性もあるし?
というかむしろ、どっかの掲示板にでも「関西弁のキモいブタに話しかけられた件www」とかいうスレッドが建っている可能性も……。
あー、俺死んだわ。そんなことなってたら、マジで生きていけねーわ。
豆腐メンタルが白あえになって、美味しい一品へと昇華不可避だわ……。
まぁ、実際そんなスレッドあるか確認しに行く勇気もないし、知らぬが仏とも言うし?
はー、もうやだ。何もかもやになってきた。
だいたい寿命システムってなんだよ!!
寿命来る前に他のプレイヤーと結婚しないとキャラリセットとかクソゲーすぎるだろ!!
カッーーー!! 運営の中の人ぶん殴りてぇ!!
って言いながら、いつもならボス狩り行くんだけどな。
そういうわけにもいかないのがまた辛いトコロ。
「まー、しゃーない。行くだけいくか……」
なんか最近独り言が増えた気がする。
現実で誰とも喋ってないから、自分と喋ろうとしてるみたいで、なんか病的だな。
「てーか、アイツをロールプレイングガチ勢とか笑ってたけど、自分と会話してるとか、そっちの方がヤバないか?」
ホントそれ。っていう返事を考えながらの独り言。
うーん、末期症状。これは要治療な気がしてきたぞ……。
「だいたいこのエセ関西弁かって、他の奴らにナメられんようにしてるだけやし、そーゆー意味では、ワイもロールプレイングガチ勢やん。なりきりやん」
わかってるわかってる。もう喋るな。虚しくなる。
とりあえず黙って広場へ行けや。どうせ待ってないし、大丈夫大丈夫。
「それで待ってたらどうすんや? 逃げ帰るんか?」
さすがにそれは……。
まーうん、昨日みたいにノリで誤魔化すしか……。
「ボケがおらんだら、ワイのツッコミ入れられへんやないか!!」
ホントそれ。いやでもほら、今日もネズセンセが勧誘するって言ってたし、アイツがいればなんとか……。
「って、おらんやないかーい!」
うん、最悪のパターン。まーちゃんだけ居て、他誰も居ねえ……。
あー、これは気まずい! マジ気まずいですよ!!
どどどど、どうしたものか……。
と、とりあえず素数を数えて落ち着くんだ!!
「1、3、5、7、9……。
って、これ奇数やないかーい!!」
混乱と混沌の境地。もはや俺にはどうすることもできない。
あー、あー……。よし! 当たって砕けろだ!!
「よっ、よう……。待たせたな」
緊張で心臓というか、なんかもういろんなものが口から飛び出そうだったけど、実際に出てきたのは、ドモりながらの声だけだった。
まーちゃんといえば、目を丸くしてこちらを見るだけで、返事などない。
もしかして、俺が来るとは思ってなかったのか?
それとも、これは本気で来た事に、内心バカにしてるって顔なのか?
「ど、どしたんや? なんかあったんか?」
俺の言葉に、ふるふると首を振り、こちらへと近づいてくる。
そしてガシッと俺のことを掴み、そして昨日と同じようにその腕へと抱き寄せた。
「なっ、なんにゃ!? うっわ、噛んでしもた。はっずかし!!」
「へへ……。来てくれて、ありがとね」
俺の耳元で、小さな、小さな声で、まーちゃんはそう囁いた。




