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 シーリン過去編43:隠し区画への進入

 先ほどから手のひらが優しく包まれた様に温かいと感じているシーリンです。

 助祭様の無駄な長話に少し辟易へきえきとしてきたところでしたが、今は新たな展開の予感へ少し心躍らせています。

 手に汗握るとの言葉を聞いた事はありますが、このような状態の事なのでしょうか?

 そして、元『モグリ』の彼は偶然にも、本当にわずかな確率の偶然で、くだんの隠し通路へと至ったと言うのでしょうか?

 ありえません。


 ですが「ありえない事などこの世にはありえない」事は真理です。


 一刻も早く迷宮へ向かい真相を知りたいのです。

 助祭様がする話の腰を折ると『話は脱線し余計な時間が掛かる』事を学習しました。

 私は気持ち良く昔語りする助祭様の邪魔をせぬよう、自らの好奇心と口を閉ざします。

 彼の探索が行き詰まった今、助祭様の情報で新たな探索先の糸口が生まれそうですから。

 このまま助祭様の話が長引くと【我慢】の魔法を習得しそうです……




………………




「助祭様。地図で確認しました。新たに隠し通路が生まれております」

「先はどうなっておるのだ? 【近道】ではあるまいな?」

「ここだけ区画が埋まっておりませぬ。周りの区画から考え近道の可能性は低いと思われます。ただ凹部分である為、【宝部屋】や【罠部屋】である可能性を否定できませぬ」

「ふむ。では初めに安全の確認をするとしよう」

「「まどろっこしいわね。手は通ったのだからヒトが入る余地ありって事なのよ」」


 言うが早いか、行動が早いか、鬼姉妹の二人が【未知の区画】の先へ行く。

 瞬時に区画越しでも分かる程、激しい戦闘が繰り広げられていると気配から伝わってくる。

 しばらくすると静かになり、鬼姉妹の青鬼と思われる方が区画越しに報告を始めた。


「通路は一方通行みたい。こちらからそちらには抜けられないわ。このまま姉さんと強行偵察するから、坊主達はここで待っててもらえる? そうそう。私達の食料だけは投げ入れてね」

「二人で大丈夫なのか?」

「そうね。むしろ2人の方が安全だと思うわ。先へ向かう区画もあるから行ってみるわ」

「しばしお待ち下され!」


 犬は大声で呼び掛けたが鬼姉妹からの返事は無かった。

 二人の行動は迅速だ。

 自分が言いたい事だけ言って、すでに行動へ移った後ようだ。

 隣の区画へと移ったのだろう……あやつらならば魔物に殺される事はあるまい……心配なのは【未知の区画】からの出口が無い時だけだ。

 わしらは隠し通路手前の区画で鬼姉妹からの連絡を待つ事とした。

 無論、残ったパーティーメンバーが隠し通路へ侵入する事は禁止とした。


………

……

……

………


「遅い! あやつらはどこまで潜ったのだ?」

「分かりませぬ。一方通行の閉鎖区画ですから、強敵を殲滅せんめつするまで戦い続ける可能性が否定できませぬ」

「十分に考えられるな。トリよ。足労そくろう願うが茶の準備をしてくれるか? 長く待つ事になりそうだ」

「助祭様! 二人にあのような勝手をゆるし続けたのですか?」


 トリの代わりにみっちゃんが、わしの声に応じた。

彼女の言いたい事も分かるが、わしには鬼姉妹を制御出来ぬ。

加えて二人の好きにさせておく事がパーティーの生存率も上がる事実もあるのだ。


「君の言いたい事は分かるが、わしらの最善はここで彼女達の帰りを待つ事。わしらだけで一方通行の壁を抜けたら帰還出来ぬ可能性が高すぎる」

「いつまで待つのですか?」

「とりあえずは食料が尽きるまでだ。トリの危険察知能力は一流だが戦闘力は低いからな。念の為、歩哨ほしょうをイヌとみっちゃんに頼みたい。わしを戦力として加えるなよ。お荷物にならないようにするだけで精一杯の所謂いわゆる【司令塔の一番】だからな」

「分かりました。では長く待つ事を前提でより快適に過ごす事としましょう」


 みっちゃんはそう言うと小盾を腕から外して休息の準備を始める。

 彼女の小盾は神殿所属の軽戦士に人気がある『簡易の卓袱台ちゃぶだいとなる木製小盾』であった。

 盾の裏に備え付けられた小さなほうきで床を掃くと卓袱台を広げた。

 実際迷宮は、迷宮外の異物を常に飲み込むから、場所を選べば塵芥ちりあくた一つ無い事の方が多い。

 (ゆえに床を掃く事は彼女のこだわりであろうが、その気遣い、わしは好ましく思う。


 茶が準備され、わしとトリ、みっちゃんの三人が区画の中央で卓を囲う。

 イヌは少し離れた場所へ立ち歩哨の任へついている。

 卓で会話が全く無い。

 トリは常にわしの腕へ自分の腕を絡ませており、みっちゃんの冷めた視線がそれを見つめる。

 わしはイヌへ『助けてくれ』と視線を送るが、彼はこちらを見ようともしない。

 分かってやっておるのだとしたら、わしは少し悲しいぞ、イヌよ。




 イヌとみっちゃんが歩哨を交代すると、ようやく卓で会話が生まれた。


「鬼姉妹の二人はなかなか帰って来ませぬな」

「うむ。何せ【未知の区画】だ。何が起こっても不思議では無いからな」

「二人ならぁ大丈夫だよぉ」

「トリが言うのなら大丈夫なのだろうな」


 トリの勘は【魔法】と思えるほど、的を得ている事が多い。

 常々思うが、本人は気付いておらぬだけで、実は【魔法】を使っている可能性まであるな。

 真に魔法の才ある者は『欲しい』と強く願うだけで【魔法】を習得する話だ。

 同じく【聖人】も成る者は望まなくとも成れると聞く。

 わしは【聖人】の才も【魔法】の才も無い。

 それでも傷を癒す魔法を習得出来ただけでも神から愛されてたと思う。

 出来ぬ者は一生かかっても出来ぬのが【魔法】であり【聖人】なのだから。




 時折遭遇する魔物を撃退しつつ、二度目の食事を交代で取っている最中の事だ。

 体の前面を返り血で余す所なく染めた鬼姉妹の二人がわしら四人と合流した。

 事の顛末を聞こうとわしが口を開けるより早く、二人の口が開く。


「「この先は一本道で最奥に昇降機があったわ」」

「イヌの地図に書き込めるか?」

「「勿論よ。その前にわたしもご飯ちょうだい」」

「はぁぁいっ。どぅぞぉ」


 トリが飯を用意すると、二人は返り血を拭う事なく、食事と報告を同時に始めた。


「「良い戦いだったよ。未踏の区画だけあってユニークなモンスターがいっぱいだった」」

「報告は嬉しいが、食べるか、話すか、どっちかにせぬか」

「あたしは食べる」

「ならば私が報告するわ」


 赤鬼が食事を続け、青鬼が箸を休めて報告を始める。

 青鬼の方が理知的な為、彼女からの報告の方がわしは歓迎できる。


「一方通行の隠し通路の先の区画から基本的な敵の強さが全く違うわ。少なくとも一層目をうろつく冒険者が遭遇したら全滅間違い無しの魔物達ね」

「例えばどのような魔物がいたのだ?」

「そうね。コボルドやゴブリンが殺し合って強い個体が生まれたと言うよりも根本から別の魔物へ進化したって感じかな」

「良く分からぬな」

「どんなに頭が良くても猿は猿だけど『猿がヒトへ進化しました』ってイメージね」

「そのような事は神がお認めにならぬ」

「実際そんな感じとしか言いようが無いわ。コウと私で倒しちゃったから、実物は死体だけだけど。見てみる? 死体だけでも禍々(まがまが)しさは伝わってくるから」

「隠し通路は一方通行であろう? わしらが行っても無事帰って来れるか……とは言え、いずれ行かねばならぬか……」

「すぐに戻れるわ。地図を良く見て。左右の区画がどちらも一方通行で戻って来れるわ。最初に言ったわよ。先へ続く区画『も』あるって」


 彼女が「も」に力を込めてしれっと言う。

 わしは「ならば何故なぜすぐに帰って来ぬのか」との言葉を飲み込んだ。

 だがしかし、そこに強い魔物が居るならば、彼女達はどこまでも行くだろう。

 昇降機で引き返して来ただけでも僥倖ぎょうこうだと思わねばな。

 兎にも角にもわしの運か人徳か、彼女達はパーティーの元へ戻って来てくれた。

 閑話休題だ。

 先々の事を考えると『禍々しい死体』を一度は見ておかねばなるまい。

 今後の事はそれから考えるとしよう。

 わしは「半刻(約1時間)休憩を延長した後、隠し通路の先へ進む」と皆へ宣言した。




 休憩が終わり隠し通路へ皆で入ってすぐに異様さを感じた。

 区画を移動するやトリは怯えてわしの腕を抱え込んで放さぬ。

 この区画も見かけ自体は今までの区画と何ら変わりを見いだせぬのだが……言葉にし難い気味悪さ……一言で言えば「ここに居たくない」とわしの勘が告げ体が震える。

 散乱している魔物の死体が原因……とは言えぬな……この程度の死体は鬼姉妹との付き合いで何度も見て来ておる。

 散乱した魔物の様子を鬼姉妹の解説を交えて聞こうとした時、初めて気付いた。

 鬼姉妹が居らぬ。


「「坊主。わたし達、入れないみたい」」


 耳をすませば、今来た区画から鬼姉妹の声が聞こえてくる。

 区画越しなので聞こえは悪いが間違いなく鬼姉妹の声。

 鬼姉妹無しでこの場に留まるのは危険だ。

 わしは魔物の様子を確認したらすぐに鬼姉妹の元へ戻ると決めた。


「魔物の様子を確認したらすぐ戻るゆえ、おぬしらはその場で待っておれ」

「「りょ」」


 分かったと言う意味ととらえ、手早く魔物の観察へ移る。

 切断面を見比べ、繋ぎ合わせ、一体のヒト型魔物を再構築する。

 なるほど。

 鬼姉妹が言った言葉が分かる。

 確かに異様だ。

 ゴブリンと言えばゴブリンかも知れぬ。

 しかし太く長い腕に短い足はとてもゴブリンとは言えぬ。

 腕と足が入れ替わったような風貌ふうぼうは新種の魔物と言っても良いほどだ。

 そして一番の難儀は、それを上回る気味悪さがわしの内から込み上げてくる事なのだ。

 わしらは最低限の記録を取ると【未知の区画】から脱出し、通常の区画へ戻り、鬼姉妹の元へと向かった。

 合流への途中で仲間を見渡せば、トリは元より、イヌもみっちゃんも青ざめた顔をしていた。

 無論わしもその中の一人だ。




 そして鬼姉妹と合流後、前回と同じ矢印に沿った経路を辿る事で【隠し区画】へ侵入出来る事を確認し、今後の行動を決める話し合いが始まる。


 読者様皆様には、我が渾身の駄作をここまで読んでいただき感謝の言葉しかありません。

ただでさえ更新が遅いこの作品ですが、今年からは半年に一回の更新にさせて頂きたく思います。

 変わらずお付き合いいただけたら幸いです。


   万年

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