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 シーリン過去編33:三角形

 二層目、三層目の地図が順調に埋まる。

 魔物は隣の区画にいる段階で鬼姉妹が感知し、わしらが移動した時は既に退治された後だ。

 無事探索が進む中、無造作に現れる床の構造体へ直接書かれた「二等辺三角形」だけは謎に満ちていた。

 連続した区画で現れる時もあれば、数区画無い時もあり、規則性は見つからない。

 わしの記憶では一層目には一つとして無かったものだ。

 稀に構造体へ直接何かが書かれている事があると知っておるが、これほど同じ形の物が多数見つかった記録は神殿で閲覧したスーンプ城へ関する記録の中では見た覚えがない。

 フクロ城の記録は記録自体が見つけ出せなかった。

 ヒトの力で迷宮の構造体へ傷を付ける事が不可能と言われておるのだ。

 わしは「二等辺三角形」がわしへ試練を課す神の意図と感じていた。

 この謎は解かねばならぬ。

 指し示す方向へ通路があるだけならこれほど悩まなかった。

 先には「隠し通路」がある時もあれば、何もない「ただの壁」である時もあるのだ。

 無論、普通に通路がある事も当然ある。

 わしには「二等辺三角形」が何を示しているのか、法則を見つける事はできなかった。



 謎も解けぬまま第三層の探索を終え、現在、四層目へ向かう大階段がある区画で降りる前にわしらは大休憩を取っていた。

 通常、大休憩の時は交代で見張りをしながら軽く飲食を取る。

 鬼姉妹の二人が居れば見張り要らずなので五人車座で休憩となっておるのだが。

 飲食のかたわら、わしは自分だけでは解けぬ謎の手掛かりになるやも知れぬと思いイヌ達の意見を求めた。


「この三角印は何だと思う?」

「分かりませぬが、地図へは全て記録しております」

「助かる。なんであれ、ヒトの仕業でない事だけは確かであろうからな」

「神の試練でありましょうか?」

「おぬしもそう思うか。わしもだ」


 トリの淹れた茶を飲みながらイヌと話し合っておると、突然立ち上がった鬼姉妹の口から警告が発せられた。


「「来たわ! ただならぬ気配よ!!」」

「どこからだ?」

「「団体様が階段を上がってきているわ」」

「何だと!?」


 通常魔物が階段を昇り降りする事は稀だ。

 迷宮内に魔物が溢れ、生存競争に負けた魔物が階段を昇ると言われている。

 満月の夜に多く見られる現象だが、銀の月の満月はまだ先のはずだ。

 それとも赤か金、最悪は黒が満月となったと言うのか?

 三つの月は昇るまで満月であるか分からない。

 黒の月にいたっては丸く星が見えないと観測する事で判断するほど判別が困難だ。

 月の影響で無いならば時間の流れが違う区画で長く過ごした可能性も捨てきれない。

 落ち着け!

 今は余計なことを考えるな。

 理由など後回しだ。

 現実、四層目の敵が階段を昇ってきておるのだ。

 気を引き締めて現実へ対処せねばならぬ。



 戦闘は突然始まった。

 区画へ入ってきた巨人族のすねを赤鬼が叩き折り、宙を舞った青鬼が顔面へ鉄杖を叩き込み、とどめとばかりに階段へ蹴り落とした。

 落下する巨人族に巻き込まれ大階段から魔物の悲鳴がこだましてくる。

 初戦にして多大な戦果だが鬼姉妹の二人は不満気に呟いた。


「「失敗したわ。条件反射で動いては駄目ね。倒せる敵の数を減らしてしまったわ」」


 わしにとっては恐ろしい魔族も魔物も鬼姉妹には有象無象といったところか。

 だがなぜ巨人族が先鋒なのだ?

 四層目で何か悪い事の起きている予感がしてきた。


「巨人族は拠点を作り上げ、奴らなりに安泰な暮らしをしていたのではないのか?」

「「何か勘違いしていない? 少し落ち着きなさい」」


 わしが落ち着いていないないだと?

 おぬし達こそ魔物を叩き潰す感触で愉悦に浸っておるではないか!

 だが今は彼女達の邪魔をしない方が良い。

 とばっちりを受けたらたまらぬからな。

 あいや待て!

 その魔物は確か一角白馬ユニコーン

 図鑑でしか見た事がない稀な魔物……いや言葉が通じると言われているから魔族になるのか?

 それはどちらでもかまわぬ。

 こやつら、使えばどんな病魔も怪我も治る、売れば大金となる角を粉砕しおった。

 わしの目には一角白馬はこうべれ、鬼姉妹へ従順の意を示していたように見えたが、一切構わず粉砕しおった!

 声を上げるいとまさえ無い速さで粉砕しおった!!

 しかし「清らかな乙女にしか従わぬ」と言われた一角白馬が鬼姉妹へ従順の意を示すとは……普段の言動からは考えられぬが鬼姉妹が清らかな乙女だと言うのか……それとも伝承が間違っておるのか……わしの見間違いが一番可能性が高いか……思案を巡らせているうちにまたも図鑑でしか見た事の無い「既存の生物を合体させた姿の魔物」が倒される。

 ついぞ肉塊へ変貌したその魔物の名は出てこなかった。



 狂乱の宴は続いた。

 次は何を倒したと言うのだ?

 階段の上り口は魔物のしかばねで半分埋もれ、乗り越えた魔物が鬼姉妹に粉砕される。

 その行為はもはや作業と化していた。

 鬼姉妹の前面は返り血で真っ赤に染まっておるが、背中は驚くほど綺麗なままだ。

 これではビキニアーマーも無用の長物だな。

 いつだったか酒の席で彼女達から聞いた「ずっとオレのターン」と言う言葉が頭へ思い浮ぶ。

 だが時が経つほどに流石の鬼姉妹も疲れが見え始めた。

 倒された魔物は、巨人族など分かりやすい者はともかく、神殿の図鑑でしか見た事がない魔物も多い。

 だが判別は難しい。

 鬼姉妹の攻撃は「叩き潰す」と言うより「爆ぜる」と言った方がしっくりとくるほどの威力。

 魔物は見事に肉塊となっていた。


「キリが無いわね。ソウ」

「それは弱音? コウ」

「雑魚を叩くだけのお仕事は好きじゃ無いのよ」

「集団戦は楽しいけどね。私も相手が雑魚過ぎてさすがに飽きてきたわ」

「おぬしら。ならば殺すでない。戦闘能力だけ奪い生かせておけば魔物の侵攻は止まる!」

「「乗ったわ!」」


 終戦はわずかな刻を待たずして迎えた。

 押し寄せる魔物の波を鬼姉妹の二人は無傷で乗り切った。

 無数の死体に囲まれ、攻撃器官を全て破壊され達磨だるまとなった魔物が蠢いている。

 わしは瀕死の魔物へ流れ出る血を止める程度の回復魔法を掛けて回り安全を確保する。

 中には「殺してくれ」と目で訴えかける魔族も居たが、わしは無視した。

 神の使徒として魔族へ苦しみを与える事は徳を積む行為であるのに、わしの心の内へ罪悪感が生まれる。

 だがわしは神への祈りを唱え魔族の訴えを無視し罪悪感すら自らの徳として積み上げた。


「「鬼畜ね」」

「そなたらもな。牙はへし折られ、手足と尾は潰され、まさに達磨だが致命傷では無い」

「「これだけ実力差があるとね。手加減する事は好きじゃ無いけど、技は磨けたわ」」

「ここまでするとはまことに鬼だな」

「「瀕死を保つ為に回復魔法を掛ける鬼畜よりはましなつもりよ」」

「安全の為だ」


 鬼姉妹に言われるまでもなく自分が一番の「鬼畜」と分かっている。

 意図的に「一区画へ入れるのは敵味方合わせて二十体まで」という規則を使う戦術。

 上級の冒険者達はこの戦術を駆使し、迷宮内に安全地帯を作り出す。

 一つの例を挙げるならば「迷宮内の宿屋」が良い例だろう。

 だがフクロ城には宿屋はない。

 この状況を生かして今日はここを宿とするとしよう。


「この状況を生かして今日はここで寝よう。どうだ?」

「「苦しむ魔物のうめき声を子守唄になんて良い趣味ね」」

「確かに。ゆっくり出来るかは疑問ですな。しかしながら安全は確保できています」

「「まあね」」

「トリも! 坊主がぁ隣にいてくれるならぁ怖くないよぉ」

「満場一致だな。ただしトリは一人で寝ること」

「えぇー!? ぶぅぶぅ!」

「「男らしい所を見せなさいよ」」

「その通りですな」

「イヌよ。おぬしまで……」


 結局トリはわしの隣で寝る事となった。

 これも神の試練と考えれば良い。

 何より安全が優先だ。



 野営は魔物の生死を確認しながら行われた。

 スーンプ城の大階段区画でこんな行為をすれば、追放されそうな行為だが、ここフクロ城はわしらの他に冒険者はいない。

 休息時の話題はくだんの二等辺三角形が中心となった。

 鬼姉妹の二人は三角形など気にする素振りも見せない中、わしとイヌ、トリの三人が地図を見ながら頭を付き合わせている。


「イヌよ。なんぞ規則性は見えるか?」

「とんと見えませぬな」

「トリも見せてぇ」

「なんぞ分かったら教えてくれ」

「頑張るよぉ」


 イヌはともかくトリに何か分かるとは思えぬがねられる方が面倒だ。

 一層目から三層目までの地図を一枚ずつ配り、交換しながら考え込むが規則性は見えない。

 そんな時、暇を持て余した鬼姉妹がとんでもない事を言い立ち上がる。


「「暇だし、一狩り行ってくるわ」」

「待て! 待て待て!! 待て待て待て!!!」

「「しつこい男は嫌われるわよ?」」

「いや待て。おぬしらが抜けたら魔物が侵入してくるではないか!」

「「なら何か面白い話でもして……と言っても坊主の話は面白くないわね」」

「悪かったな! 明日の四層目に備えてゆっくり休んでくれ。万全の状態で臨んだ方がおぬしらも敵も楽しく戦えるぞ」

「「坊主にしては面白い事を提案するじゃない。寝るわ。おやすみ」」


 さすが一流冒険者と言うべきか。

 鬼姉妹達は一呼吸するかしないかの間に寝息を立てていた。

 これでいて、攻撃を仕掛けようとするだけで目を覚ますのだから、羨ましくもある。

 鬼姉妹の「一狩り行こうぜ」問題を解決し、魔物の状態を確認し、イヌとトリの所へ戻ると、今度はトリが問題を起こしていた。

 一層目の地図へ二等辺三角形を勝手に書き込んでいたのである。


「トリよ。何をしておるのだ?」

「一層目がぁ三角なくてぇさみしかったからぁ書いてみたのっ」

「そんな事をしては駄目だろう?」

「二層目とぉ三層目のぉ三角を書き写しているだけだよぉ」

「とにかく駄目だ」

「いいえ。待ってくだされ。何か見えて来ましたぞ。続けてくだされ」

「坊主ぅ。どうすれば良いのぉ?」

「地図を作ったイヌが良いと言うのだから良い。トリよ続けてくれ」

「わかったよっ!」


 イヌの協力を得て、トリは不恰好な三角形を楽し気に書き込んでいく。

 出来上がった地図からは三角形の共通点が見えていた。

 不思議と三角形の指す先に行き止まりがなかったのである。

 三角形が重なる区画もあったが、指し示す先の区画が同じにしろ別にしろ完全な行き止まりはなかったのだ。

 なぜ重なりがあるのか?

 二回同じ通路を通るのか?

 何にせよ、空いている区画が埋まるほど答えへ近づきそうだ。



 わしらは翌朝に鬼姉妹へ報告する事を決め、わしとイヌと交代で見廻りをする事にして眠りへついた。

 四層目の探索をする気力を養う為に。




………………




「迷宮内の三角形ですか……察するにその順で一層目を回れば何かが起こると言う事ですか? 話の流れ的に隠し通路が現れるのですね?」

「こらこら。先読みするでない。年寄りの話は辛抱強く最後まで聞くものだぞ」

「「助祭様の話は無駄に長いからシーリンちゃんの気持ち分かるわ」」

「おぬしらまで……」

「「そろそろ夕飯の支度を始めないと訓練後の空腹で帰ってくる衛兵さん達が暴動を起こしかねないわ。シーリンちゃん続きは明日にして今日は泊まって行きなさい」」

「いえ。家の手伝いがありますから帰ります」

「姉さん。私が夕飯の支度をするから。シーリンちゃんの斡旋屋へ伝言を頼むわ」

「任せて。あの館長なら『片手時の格闘訓練をみっちりとやる』って言えば完堕ちよ!」

「助祭様はシーリンちゃんへ話を続けてあげて」

「帰ります。配膳も修行の一環として行っておりますので」

「姉さん。修行を追加ね。『他の斡旋屋で給仕をする事も良い訓練だ』って事で」

「それはもう館長が喜びそうね」


 たぃ姉さんの言葉に館長が喜ぶ姿がはっきりと脳裏へ浮かびます。

 扉が壊れる勢いで飛び出すたぃ姉さんを見送ったわたしは、「諦観」と言う言葉の意味を実感して、フクロ城へ泊まる事にしました。

いつも拙作をお読みくださりありがとうございます。

私事ですが、諸事情で毎月投稿する事が難しくなってきました。

今後は基本的に隔月で投稿したいと思います。

その分、遅れている本編の制作を早めたいと考えています。

今後もよろしくお願いします。


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