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 シーリン過去編17ー1:スーンプ城迷宮探索壱

左腕の骨折で迷宮探索よりも情報収集を優先させました。

こんにちは。

わたしはドカチーニの斡旋屋で受付嬢兼冒険者をやっているシーリンと申します。

現在は助祭様から【フクロ城】の【隠し通路】の事を聞いているはずです。

はずなのですが話は横道へ……【スーンプ城】の冒険譚へれました。

一刻も早く【隠し通路】の事を聞きたい一方で、助祭様の昔語りに引き込まれます。

鬼姉妹の二人が本当にたぃ姉とちぃ姉なのでしょうか?

わたしの気持ちを(んでかどうか。

話は助祭様を含めた三人の冒険譚へ移りました。




………………




わしが迷宮から生還して最初の記憶は『パーティー全滅』の報告だった。

と言っても、わしが報告したのではない。

鬼姉妹達により虚偽の報告がなされていた。

わしはそれをどこか遠くで起きた出来事のように聞いていただけだ。

神の試練でわしが虚偽報告を見逃すなど、今思い出すと、悔しい限りだ。


「……て事でミノタウルスかオーガあたりが出たかも。死体はぐちゃぐちゃよ」

「一人でも助けていただきありがとうございます」

「こちらが死んだヒト達の護符と冒険者の証と貴重品」

「貴重品は生き残った方が居りますので、そちらの方が優先となりますが……」

「分かっているわ。貴重品が欲しいなら生存者を連れ帰らないわ」

「重ねてお礼申し上げます」

「「じゃあ行くよ。今夜の食事くらいは奢ってくれるよね?」」

「……あぁ……貴重品は全て寄贈する。孤児院で使ってくれ」

「ご寄付をありがとうございます。大切に使わせていただきます」



受付を離れたわし達は併設された食堂へ移動し、六人掛けの食卓を陣取る。

二人の鬼が注文して並んだ品数は食卓の大きさに負けていなかった。

食欲など全く出ないわしを尻目に、二人が汚く食べ散らかしながら話しかけてきた。


「爺さん。ソロで来いって言ったよね? 見事に『初心者あるある』へ引っ掛かって」

「……すまぬ……」

「初心者だってのは間違いないと確信したけど、疑問も生まれたわ。聞いて良い?」

「……何をだ……」

「「あんたは神殿の回し者かい?」」


剣呑とした二人の目付きがわしの意識を覚醒させた。

ここはどう答える事が正解だ?

普段の二人の行動を監視する為には神殿の存在を隠した方が良い。

大概の悪人は神殿の前でだけは大人しくなるのだ。

だが、この二人は違うだろう。

神殿など意にも介していない。

わしは正直に二人へ話すと決めた。


「おぬし達の言う通り、わしは神殿関係者だ」

「「正直者は好きよ。明日は一人で来てね。今日の二の舞は嫌よ」」

「分かった。明日はわし一人で来よう」

「お願いね。あと朝早くなくて良いわ。本当は【通勤ラッシュ】が嫌いなの」

「近くへ宿を取り拠点にしようと思う。個室が良いか?」

「「おごりならば大部屋でかまわないわ。【サンドイッチ】で一緒に寝る?」」

「修行僧を誘惑するでない!」

「「冗談よ。冗談」」


話はそれで終わった。

彼女達の会話には彼女達の間でしか通じない言葉が時々入る。

おそらく迷宮言葉と呼ばれる迷宮冒険者の間で使われる言葉だろう。

わしも意味をわざわざ尋ねなかった。

後は黙々と……だが咀嚼そしゃく音は高々と鳴らして夕食会は終わり別れた。

そのままわしは今日の報告をする為に神殿へ向かう。

毎日報告する必要はないが初日からわしの裁量を越える事態が起きた為だ。



神殿でわしは上司へ何一つ隠さず報告をした。

わしが二人へ「神殿関係者」である事を暴露した事にお叱りはなかった。

だが耳慣れぬ言葉の数々には難色を示されたようだ。

宿は上司が用意してくれた。

わしの予想だが、宿は神殿の息がかかっている可能性を否定できない。

最後に上司からいただいた言葉は「二人と行動を共にし必要な報告を怠るな」だった。



色々な思いが駆け巡り眠れぬ夜を越えて朝陽を拝む。

朝のおつとめを全て終わらせて斡旋屋へ向かう。

途中、上司が用意してくれた迷宮近くの宿へ寄った。

部屋は二階に続きで二部屋用意されており、清潔で気持ち良く見晴らしも良い。

ここならば鬼姉妹も満足するだろう。



わしが斡旋屋へ着いた頃には、やる気のある冒険者達は全員迷宮へ潜っていた。

残りは昼間から酒を飲んでいる者達ばかりだ。

その中に二人はいた。


「おぬし達は迷宮へ潜る気があるのか?」

「「あるある。ヒトも減ったしそろそろ行きますか」」

「護符を受け取りに行くから少し時間をくれ」

「「待つのは良いけど無駄よ」」


わしは迷宮探索の許可と護符を受け取る為に受付へ。

迷宮探索の許可は下りたが護符は無かった。

スーンプ城は出物も良くて人気がある迷宮。

そして迷宮毎に護符の数は限りがある。

この時間まで護符が残っていると思っていたわしが愚かだった。

少しばかり後悔をするわしの背後へ、いつの間にか、鬼姉妹が立っていた。


「「じゃあ行くわよ」」

「待て。お主達も探索許可を取らぬか」

「「何を言っているの。探索許可が降りる訳ないでしょ。神殿が決めた事じゃないの」」

「わしが目の前で【もぐり】を容認する訳はなかろう。二人の探索許可も頼む」

「三人での探索許可はできません」

「先程は探索許可が下りたではないか?」

「ソロでの探索と勘違いした事をお詫び申し上げます」


受付嬢からの言葉へ鬼姉妹達の嘲笑ちょうしょうが重なる。


「迷宮探索は一人ソロ二人ペア六人フルパーティーと決められています」

「三人では駄目か?」

「規則です」

「では二人をペアで許可してくれ」

「それは可能ですが迷宮内では別行動をお願いします。規則をお守りください」

「むぅぅ」


受付嬢の視線が不信感を伴いわしへ向けられている。

神の試練の場で嘘や誤魔化しをする事は出来ない。

わしは今日の迷宮探索を諦めた。

信頼の置ける護衛を三人連れてくる事を二人へ告げる。

何かと渋る二人を何とかペアで迷宮へ送り出し、わしは神殿へ戻る事にした。



神殿を護る兵士を借りようとしたが三人は許可が下りなかった。

わし程度では一人しか護衛へ回す事ができない規則だ。

上司の名を出せばわしへも護衛を三人回してもらえるだろう。

上司の「全て任せる」は「上司へ無用な面倒をかけるな」と言う意味も含まれる。

むやみに上司の名は出せない。

やはりわしの持つ人間関係だけで鬼姉妹の問題を解決せねばならない。


そうなると実力を持ち気心の知れた者の方が安心だ。


人選は「口の硬い者」かつ「無口」であれば尚更良い。

どんな言葉が鬼姉妹を刺激するか分からぬ。

迷宮探索よりも危険かも知れぬ鬼姉妹との同行。

わしはわしが信頼する退役した者達の家を回る事にした。

どいつもこいつも一癖あり面倒なやつらではあるが。



護衛は思っていたより簡単に集まった。

信用できる順に声を掛けて、全員から快諾を得た。

わしは三人へ鬼姉妹の事は、昨日の事件も含めて、ほぼ全てを隠さず話した。

鬼と呼ばれる姉妹が迷宮探索よりも危険かも知れない事を含めて。

唯一隠した事は上司の存在だけだ。

名目上は「わしが迷宮探索を共にして鬼を改心させる為のお供」となっている。

お供をしてくれる三人を簡単に紹介しよう。


一人目は「イヌ」と呼ばれていた実直な大男。

義理堅く上の命令には絶対服従する。

わしが直接の上司となった事はないが、彼の大怪我を治療して以来、親交は深い。


二人目は「サル」と呼ばれていた調子の良い小男。

表の顔は人当たりが良いが、裏でなにをやっているか分からない怖さがある。

ただ十分な報酬を用意すれば裏切る心配がない事は今までの付き合いで信用できる。


三人目は「トリ」と呼ばれる見目麗しい女性。

三歩歩けば、一夜を共にした男の顔も忘れる、残念な記憶力の持ち主。

彼女があちらこちらで巻き起こす面倒事を処理しているうちに懐かれてしまった。



夕刻、三人と共にスーンプ城の斡旋屋へ向かう。

日帰り冒険者が帰ってくるのは少し先な為、酔っ払いの魔窟となっていた。

店の中は広く、食卓は二割ほども埋まっていない。

わしは薄暗く人気のない隅の卓へ陣取る事にした。


「明日からよろしく頼む。今日は鬼姉妹と面通しだけになるだろうが結成式だ。好きな物を好きなだけ注文をしてくれ。わしの奢りだ」

「「本気かい? 姉さぁん。注文取りに来て!」」

「お主達! いつから居たのだ!?」

「「最初から。それにしてもあんた達は正直者だよ。四人共気に入った!」」

「どこが『鬼』ですか? お二人共えらい美人さんですね。『サル』と呼ばれています」

「「知っているよ。『ボウズ』とのやり取りを全て見聞していたからね」」

「まさか『坊主』とはわしの事か? 坊主は魔族の神官を指す言葉だぞ!?」

「「あははっ。あんた達は子供の事も『ボウズ』と呼ぶじゃないか」」

「わしの渾名あだなはどうでも良いが、迷宮外でわしを『ボウズ』と呼ばぬようにな」

「「はいはい。神殿関係者で挑発へのらなかったのはあんただけだよ。仲良くやれそうね」」

「仲良くやろうとするなら要らぬ挑発をするでない!」

「「はいはい。それと。わたし達の戦いを見た後で態度を変えないヒトも珍しいわ」」

「おぬし達を説教する事がわしの仕事だ!」

「「わたしに説教? 死ぬのが怖くないの?」

「ぼくは『イヌ』と呼ばれています。師へ仇なす者は許しません。ぼくが護ります」

「「わたし達から? 護れるものなら護ってみなさい。今はやる気ないけどね」」


オニ達とイヌの間に緊迫した空気が生まれる。

わしとサルが「ごくり」とつばを飲み込むなか、わしの口元へ食べ物が運ばれてきた。


「ボウズゥ。あぁん」

「こら『トリ』。やめぬか。それにわしの名は教えただろう」

「忘れちゃったぁ。それに『ボウズ』の方が格好良いよぉ?」

「……おぬしがわしの顔を忘れていなかっただけでも良しとしよう……」

「愛しいヒトの顔を忘れる訳ないよぅ」

「「生臭坊主。こいつはあんたの愛人か?」」

「失礼な事を申すでない。こやつは誰に対しても同じ態度だ」

「そんな事ないですぅ。今はボウズだけですぅ」

「……その男を惑わす態度を改めよと常々言うておろう……」

「トリさん。こちらの料理も美味しいですよ」

「……」


トリのもっとも厄介な行動が『その場にいる最も好ましい男性と腕を組む』事だ。

次から次へと男と男の間を渡り歩く。

時にはよりを戻したりもするが、トリは前に付き合った男を覚えていない。

婚約した事を忘れて次の男へ渡った際は死者が出る寸前だった。

その後、彼女へ「結婚の約束だけはするな」と誓わせたが、それだけは守られている。

全て彼女の恋心が移り気なだけで、金銭で彼女の心を変えられない事が男をあおる。



オニ共よ。

わしの顔を見ながらにやけるではない。

サルよ。

トリから相手にされないからと、わしへ恨めしそうな視線を向けるでない。

イヌよ。

わしから視線を逸らさず助けてくれ。

トリよ。

わしが何を言うても無駄だな。

仲を深められたか疑問はあるが結成の宴は終わった。

宿の部屋は男部屋と女部屋に分けた。

トリの事は少し心配ではあるが男部屋へ泊まるよりましだろう。

ここを拠点に明日から本当の迷宮探索が始まる。




………………




助祭様。

話が長いです。

たぃ姉は顔を上に向けて大口を開けていびきをかき、ちぃ姉は俯いて舟を漕いでいます。


「助祭様。隠し通路はいつ出てくるのでしょうか?」

「慌てるでない。話は始まったばかりだ」

「そうですか」


先程は『興味が出てきた』などと思いましたが思い違いでした。

助祭様の話は続けば続くほど、目的地から遠ざかる気がします。

わたしの忍耐力を高める修行はまだまだ続くようです。

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