シーリン過去編16ー2:赤鬼青鬼出会い弐
お姉さん達に連れられてきた斡旋屋の礼拝所。
助祭様の昔話はわたしの知りたい情報が出ないまま延々と続きます。
隣を見れば、たぃ姉はあくびをしていますし、ちぃ姉は瞑想中にしか見えません。
二人に連れてこられたのに放置状態でわたしの心も荒みます。
この後も助祭様の話はゆるんだ周りの空気を読まないまま延々と続くのです。
………………
鬼姉妹から「ソロで迷宮へ潜れ」と言われたわしだが、すぐにパーティの募集を掛け五人の冒険者を雇った。
冒険者は意外と簡単に集まった。
集まったと言うより五人組がわしの募集へ応じてきた。
彼らの話では「先日パーティーメンバーを失った為、良い後任が見つかるまで、新人教育をしている」との事だ。
迷宮探索はパーティーの人数が規則で決められている為、彼らの言い分に矛盾がなかった。
即座に彼らと契約を交わして、わしは亡くなった方の冥福を祈らせてもらった。
彼らからは仲間の死を悼む気持ちをあまり感じなかった。
若くて柄の悪い連中だし普段から命のやり取りを繰り返す冒険者なら当然なのだろう。
神殿で寝食を共にする仲間達と比べては駄目だ。
冒険者と呼ばれる者達の命は軽すぎる。
わしなりに準備を整えた翌朝、鬼姉妹と会うなり自分の失敗に気付かされた。
そう『迷宮探索は人数が規則で決められている』と。
「じじぃ。仲間ができたのか? ならあたしは必要ないな」
「そうね。私も興味はあったけど、お荷物がなくなるから解散で構わないわ」
「待ってくれ。わしはソロと言われたから怖くてな。思わず護衛を雇ったのだ」
「「わたしには関係ない話ね。さよなら。迷宮で会った時は挨拶くらいするわ」」
鬼姉妹はそのまま迷宮へ向かってしまう。
わしも後を追いかけようとしたが、受付を済まし護符を受け取る間に、二人を見失った。
神殿に属する者として探索許可の申請をせず迷宮へ挑む事は出来なかった。
初めて見た迷宮は神殿内部と酷似していた。
神殿内部と言っても一般信者どころか、それなりの地位を持つ者でなければ入る事が許されない『神が降臨なされる神聖な場所』と酷似していたのだ。
二つが共通するものはヒトの手で作る事は不可能と思われる素材だ。
わしは【迷宮】が神の試練である事と【神殿】と神の繋がりを確信した。
わしは感動を覚えながら冒険者達へ鬼姉妹を追うように命令を下す。
大路と呼ばれる多くの冒険者が通る道は【追い越し禁止】だ。
理由は迷宮一区画へ侵入できる人数制限にある。
大路は奥に行く程、パーティーが減り、人の数も少なくなる。
各冒険者達が、自分の実力に合った区画へ向かう為、脇道へ入る為だ。
わしのパーティーも何本目かの脇道で大路から外れた。
途端に別パーティーの冒険者達がいなくなる。
周りからヒトが減った分だけ恐ろしさが増す。
「二人はこの脇道へ入ったのか?」
「旦那。奴らは【もぐり】っすから。人気が無い場所を好むはずっす」
「そうなのか」
初めての迷宮と言っても、わしは多少の知識を持っている。
ここはまだ初心者が探索する程度の区画だと思う。
こんなところで稼いでいる二人が「鬼」と呼ばれるだろうか?
そんな事を考えているうちにパーティーは数区画進む。
何度もこの辺りを探索しているのだろう。
慣れた様子が心強い。
この脇道、鬼姉妹どころか他の冒険者にも会わず、魔物にも遭わない。
行き止まりの区画へ着いた途端に冒険者達の様子が突然変わった。
「いつも通りここで良いんじゃない?」
「そうっすね。そんな訳で旦那。何も言わずに死んでください」
「心配すんな。死んじまったヒトは何も言えないって」
「? 何を言っているのだ? わしは護衛を依頼したはずだ」
「もっと取り乱すと思ったっすけど、意外と冷静っすね」
「呆けて頭が働かないんじゃね?」
「武器を突きつければ、泣き喚くっしょ」
「金銭を全て渡すから見逃してくれないか?」
「迷宮が全て隠してくれるっすから殺した方が後腐れがないっす」
「そうか。道理だな」
わしにこやつらの思考回路は理解できないが、やろうとしている事は分かる。
わしの持つ護符の加護は一番。
他の護符の加護を得ている相手に自力で迷宮の外まで脱出する事は叶うまい。
こういう時こそ頭を使え。
追い詰められた時こそ表面だけでも冷静を装え。
さすれば群衆はわしの背中に神の威光を見るはずだ。
「はぁぁ。逃げ延びる事はできそうにないな」
「諦め良いっすね」
「この年まで一心不乱に修行は続けてきたのだが、わしの迷宮探索は初日で終了か」
「修行してたんすか」
「毎日毎日欠かさずな」
「毎日っすか? 旦那。お仕事はどうしたっす?」
「修行する事が仕事だな」
「まさか大店の用心棒!?」
「さて。わしの命を取ろうとしたのだ。わしがおぬし達の命を取っても構わないな」
「おい! 話が違うじゃねぇか。こいつの覇気は金持ちじじいの道楽じゃねえよ!」
集団の意思が割れたな。
積極的なのが二人、逃げ腰一人、日和見二人か。
時間は稼げたがまだ危険な状況だな。
わしも一通りの戦闘訓練は受けているが、ヒトを殺した経験はない。
今回の依頼でヒトを殺す覚悟もなかった。
積極的な二人と比べたら、わしに【凄味】は足りないだろう。
だが集団の背後から目の前にいる二人を凌駕する【凄味】を感知した。
わしの毛穴が全開で開き汗を噴出し始める。
「みんな五人対一人っす。怖がる事はないっすよ。いつもより少し手間が掛かるだけっす」
「そうっしょ。無抵抗な獲物を斬るのも飽きたし楽しみが増したっしょ」
「みんな。見るっす。相手は冷や汗かいているっすよ」
決め手となる一言だった。
再び集団の意思が一つへまとまる。
わしが「おまえ達相手に冷や汗をながしたのではない」と真実を告げても意味はない。
相手を増長させるだけだ。
わしが「やるしかない」と覚悟を決めた時、わしに冷や汗をかかせた二人が突然現れた。
楽しそうな笑みを浮かべて。
何もなかった空間へ蜃気楼の如く二人の姿が浮かび上がった。
「ソウの思った通りだな」
「そうね。それでどうする気なの? コウ」
「あたしはわりと嫌いじゃないわ」
「じゃあ決まりね。五人対三人になりました。殺し合う人数増えて良かったね」
「「「「「…………」」」」」
冒険者達が後ろを振り返り絶句している。
幾多の攻撃を受け流した【ビキニアーマー】の凹凸 が迷宮の淡い光の下で虎柄に見える。
一人は全体に棘がついた鉄製の巨大な棍棒を肩に担ぎ。
一人は両端に棘がついた鉄製の巨大な杖を床へ立てていた。
二人の姿は【鬼】と表現する事しかできないほど【鬼】としてわしの目に映った。
「おい。じじぃ。この隙に一人くらい殺しちゃわなくて良かったのか?」
「どんな命も無下に奪う事はしたくない」
「その考え方で迷宮は生き残れないわ。じじぃは今日で冒険者を引退しなさい」
再び冒険者達全員の視線がわしに移る。
その時だ。
まず何か柔らかな物が潰れる音が聞こえ、次の瞬間、重い物が硬いものへ衝突した音がする。
時を同じくして、目の前の冒険者達は人数を五人から三人へ減らしていた。
「ホームラン!」
「コウ。私達しかその言葉は分からないわよ」
「良いんだって。気分よ」
壁にヒトがめりこんでいるだと?
あり得ん。
迷宮の構造体を破壊するなど。
わしが混乱していると壁にめりこんだヒトの体が床へ落ちる。
良かった。
迷宮に傷一つ付いていない……
……良い事などあるか!
目の前でヒトが二人も死んだのだぞ!
「何をやっているのだ! 迷宮はヒトが協力して挑む神の試練なのだぞ!?」
「「あんたは莫迦か? 殺される寸前だった事をもう忘れたのか?」」
「殺されなかったかもしれないだろう?」
鬼達の背後にあるたった一つの出口へ逃げようとした冒険者の足が砕かれた。
すぐに悲鳴は上がらなかった。
床へ転がった冒険者が無残に砕かれた自分の両足を自分の目で確認した後で絶叫が響いた。
大きな悲鳴を無視して何事もなかったように鬼達の声が迷宮を満たす。
いや。
わしの耳へ響き脳を満たす。
「「互いに戦意消失した奴は消えて二対二だ。【タイマン】だな」」
わしには【たいまん】の意味が分からなかった。
出てきた漢字は【怠慢】だが、それでは意味が繋がらない。
「コウ。それも私達しか意味分からないわよ」
「心配すんな。ソウ。すぐ体で分からせるって」
「それもそうね」
最後に残っていた二人が一瞬で潰された。
「弱い者いじめはつまらないわね」
「何も反応がないもの」
わしは言葉の意味も目の前で起きた事も何も理解できなかった。
呆けていたわしの耳へ悲鳴が届く。
生存者がいた!
わしは抜けた腰を引きずって、未だに悲鳴を上げ続ける者へ、にじり寄った。
「待っていろ。回復魔法で楽にしてやる」
わしの魔法では時間を掛けねば潰れた足は完全に治らない。
時間を掛けても治らない場合も多い。
とにかくやれる事をやろう。
まずは痛みをとり、出血を止めねば。
「ありがとう。じいさん。ありがとう」
「これから心を入れ替えて生きよ。神はいつでもおぬしを見ていてくださる」
「あぁ。生まれ変わって、これからは真面目に生き……」
「「生まれ変わって来世は頑張りな」」
目の前で再びヒトが肉の塊へ姿を変える。
わしは大声で何かを喚き散らし、鬼の二人が何かを語り掛けていた。
この日、どうやって迷宮から出たのか記憶がない。
分かっているのは『今後鬼二人と行動を共にする』事。
そしてわしに『拒否権はない』事だった。
………………
助祭様の話はなかなか『隠し通路』へ繋がりません。
鬼姉妹と言われる二人がたぃ姉とちぃ姉と推測は出来ます。
しかしながら現在の二人とは性格が全く別人物です。
わたしは『隠し通路』の事を早く知りたい一方で、三人の物語も気になり始めました。




